神経筋肉疾患

坐骨神経痛(腰腿痛)

坐骨神経痛(腰腿痛)の概要

坐骨神経痛は、根性坐骨神経痛と幹性坐骨神経痛の二種に分けられます。本節では根性坐骨神経痛の針灸配方について紹介してゆきます。

坐骨神経痛は、中医学では「腰腿痛」呼ばれ、その病因病機に対して中医学では、風寒湿邪が経脈を阻滞させて気血の運行が悪くなる事で起こると考えられています。現代医学では、坐骨神経神経根部に隣接する組織の病変により神経根に何らかの障害を生み、引き起こされるとされています。腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管内腫瘍や腰椎椎間関節炎などの病変による神経根の圧迫・虚血・酸欠・水腫などが主な病態です。

針刺治療により局部の血行促進、局部の酸素供給改善、神経根水腫の吸収増進などの効果が顕著です。よって針刺は根性坐骨神経痛治療の有効な方法の一つです。とりわけ急性期での治療に優れます。根性坐骨神経痛の治療過程では、経気閉阻が病気に至る理論での重要点です。針刺に刺絡抜罐を配合することで、臨床では比較的理想的な効果を納めることが出来ます。

症状

多くは急性或いは亜急性に発病します。初期ではよく腰部のだるさがあり、疼痛は腰部から一側の臀部及び大腿後部、膝窩、下腿外側と足部に放散し、灼熱様或いは切られた様な痛みを呈し、夜間に酷くなります。咳嗽、クシャミ、排便時のいきみで痛みは増悪します。患者は常に特殊な痛みが軽減する姿勢を取ります。日が経つと脊柱の側弯が作られ、多くは患側に曲がります。一般的な病変では腰椎棘突起或いは横突起の圧痛が見られ、ブルジンスキー徴候(+)、ラセーグ徴候(+)。

鑑別

根性坐骨神経痛は坐骨神経痛の一種類で、多くの疾病が坐骨神経痛という特有の症状を持ちます。それゆえ、厳密な鑑別診断を進める必要があります。

(1)仙腸関節炎或いは股関節炎:
多くは亜急性或いは慢性に発病し、疼痛部位の主要は坐骨神経の走行に沿っており、腰部の不快感は不明確です。仙腸関節部や大転子部や膝窩に明確な圧痛が見られ、感覚障害は明確で、アキレス腱反射はよく減弱或いは消失します。筋肉は弛緩や、軽度な筋萎縮などが見られます。

(2)妊娠時の子宮圧迫:
多くは妊娠後期に子宮が坐骨神経を圧迫する事で発病します。特徴は子宮の増大に伴って痛みが逐次明確になることです。鑑別にはその病歴を根拠とします。

(3)糖尿病:
糖尿病によって引き起こされた神経病変による症状は、本病と類似しています。早期では感覚障害が主体です。もし厳格に糖尿病が平均で7ヶ月以上制御されれば、多くの病情は回復方向になります。その鑑別の中心は糖尿病病歴がまず先で、末梢神経障害は後に考えます。

鍼灸治療

(1)治則:
活血止痛・疏通経絡(血行を良くし痛みを止る・気血の流れを良くする)

(2)配方:省略
(3)操作:省略

(4)治療頻度・期間:
急性期(発病から10日以内):
刺絡は毎日1回、その他は毎日2回、15日以内は治療に間を空けてはいけません。15日後に病情を見て刺絡を隔日1回、その他の針法を毎日1回に変えることが出来ます。急性期の療程は1ヶ月です。

安定期(発病から10~45日):
刺絡は隔日1回、その他の針法は毎日1回、療程は1~3ヶ月です。

後遺症期(発病から45日以上):
刺絡は隔日1回を連続15回、その他の針法は毎日1回、療程は長くなり、予後は見積れません。

(治療頻度や治療期間は理想的には上記ですが、一般的には、急性期では治療頻度は毎日もしくは隔日、治療期間は症状が改善するまで行ないます。また、安定期や後遺症期では治療頻度は週2・3回で、治療期間は症状が改善するまで行ないます。また、予防や症状のコントロールを目的とした場合には、週1回もしくは2週間に1回の治療を長期間行ないます。)

治療理論

腰腿痛または坐骨神経痛とも呼ばれ、中医学では「坐臀風」、「痺証」の範疇で、臨床ではよく見られる疾病の一つです。坐骨神経痛は、針灸の最も適している疾患の一つです。多くの研究や臨床から針刺治療によって局所の血液循環が改善され、圧迫されている神経根部の虚血・酸欠・水腫状態が改善され疾病軽減の目的を達成します。また、視床と視床内側非特異投射系統を調整し、エンドルフィンを活性化させ、大脳皮質の体性感覚野の疼痛反応を抑制することで、鎮痛効果が出現します。

坐骨神経痛は膀胱と胆経の発病に属します。太陽と少陽経脈が阻害される事がこの病気の要点となります。治療の中心は、疏導経気で循経取穴を根拠とします。針刺後に灸療や電針を加える事で温通と疏通の力を増加させることが出来るため、治療効果も増加します。

症例1

坐骨神経痛

主訴

左側の腰と足の痛み 4ヶ月、最近1週間で増悪した。

病歴

 患者は今年6月に外で長時間、風と寒さにあたってから左側の腰から膝までが、引っ張られるように痛むようになった。職場の保健室の医師からインドメタシンなどの消炎鎮痛薬をもらい服用したが、症状は緩解しなかった。仕事は続けたが長時間座ることは出来なかった。
 8月24日に左側の太ももの後とふくらはぎの外側に針を刺したような激痛が現れたため、すぐに針灸治療に来院した。1ヶ月間の治療によって、その後は症状はほとんど無くなった。
 9月末に別の医院に行き、腰椎X線を撮り、血沈値を検査したが共に正常で、そこで処方された天麻丸(漢方薬の一種)を服用したが、漢方薬も按摩治療も共に有効ではなかった。4ヶ月弱、左腰痛と左下肢痛は軽減せず、天気変化や過労にて増悪する。
 11月初め、患者は再来院したが、入院することになった。

検査

精神不安定、顔面の血色が良くない、両目ははっきりしている、歩行時に痛みが無い方に体重を保持している、腰が痛く寝返りが出来ない、左腰・臀・膝窩・踝の全てに圧痛がある、筋萎縮は無い。

印象

(1)中医:痺証(痛痺)
(2)西医:坐骨神経痛

治則

疏通経絡(経絡を通じさせる)
散寒止痛(冷えを発散させ痛みを止める)

処方

大腸兪、環跳、委中、陽陵泉、崑崙(針の後に灸を加える)、秩辺

治療経過

毎日二回の治療を実施。一週間後、左側の腰・臀・下肢の疼痛は明確に軽減。二週間後、歩行の際に左側の腰と下肢に少し疼痛を感じるが休息すると疼痛は無くなる。三週間後、腰下肢痛は完全に消失、大腿挙上検査で85度上げる事が出来るようになる。完治のため退院。

日本で入院して鍼灸治療を受ける事はほとんど出来ません。この患者さんはかなり症状が酷かったために入院処置となったようですが、普通は困難ではあっても歩行できる事がほとんどで、また、この症例のように重度に悪化することは多くはありません。一般的には症状が軽くなり安定するまでは頻繁に治療することが必要です。

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