東洋医学という選択肢

第四章 専門家にお願いする治療

1 鍼灸

東洋医学では肢体は経絡、内臓は五臓六腑というシステムで考える

 東洋医学では、人体は五臓が生命活動の中心的役割をしていて、内臓は五臓六腑で生命活動をして、その五臓六腑に関係する経絡が肢体を動かしていると考えています。細かい話は複雑になってしまうので省略しますが、現代医学とは人体の捉え方が違います。
 でも結局、解りたいのは同じ人体ですので、解釈の表現方法や治療方法に違いはありますが、言いたい事は一緒です。
 例えば腰痛ですが、現代医学では腰椎椎間板ヘルニアが画像的に確認できれば病名は腰椎椎間板ヘルニアになります。なので、腰椎の椎間板がヘルニアしている(突出している)ことに対して、現代医学では治療することになります。東洋医学では腰痛は五臓のうちの「腎」が関係するので、「腎」に関係する経絡やツボに鍼や灸などの治療をする事になります。現代医学的に考えても、腎臓は腰の上の方にあって、その周囲には大きな筋肉があります。人体は、ある部分で機能不全などが起こるとその周囲の筋肉が緊張する傾向があるので、腎臓の調子が少し悪かったりすると、その周囲の筋肉が緊張傾向になります。この周囲の筋肉の緊張が過剰になり椎間板へ影響が出れば、腰椎椎間板ヘルニアになったりします。
 東洋医学では、五臓を中心にしたシステムで人体を観察し治療してきた経験から学問化されています。現代医学のパーツが組上がって人体と言うシステムになっているという考え方とは、少し違うので治療に対する考え方も少し違ったりするんです。

東洋医学ではMNDやALSは痿証や瘖痱、CVDは中風

 『素問』と言う古典の中に『痿論』という項目があり、そこで痿証について書かれています。痿証とは手足の筋肉が弛緩して力が入らなくなり段々使えなくなり筋肉が萎縮してゆく、特に足に強く出る、と書かれています。瘖痱は『医宗金鑑』という古典の中に、手足がうまく動かず痛くないものを痱といい、ひどくなり上手く話せなくなったものを瘖痱と言う、と書かれています。
 これらは現代医学的な病名で言うといくつかの状況が考えられますが、運動ニューロン病(以下MND)や筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)も当てはまります。また、脳血管障害(以下CVD)は中風と呼ばれ、東洋医学的には更に、中臓腑や中経絡に分けられます。
 このように古典上でいろいろと書かれているのですが、治療方法についてもいろいろな古典で論じられています。

局所は現代医学的、五臓からの影響は東洋医学的な治療を

 私が考える鍼灸の利点は、現代医学的にも東洋医学的にも治療ができることです。
 現代医学はパーツが組み上がって人体と言うシステムになっていると考えているので、パーツに対する治療が得意です。鍼灸で、筋肉や神経という人体のパーツに刺激することができますので、現代医学的に考えた診断や治療ができます。東洋医学では、五臓を中心としたシステムで人体を診ますので、五臓を中心とした治療をするのが得意です。鍼灸で、五臓に関係の深いツボに刺激することで、東洋医学的に考えた診断や治療ができます。
 また、鍼灸には経絡と言う特徴的な考え方があります。この経絡が実は、現代医学と東洋医学を混在させたような理論になっていて、経絡上にあるツボ(経穴と言います)に刺激することでパーツに対しても、五臓に対しても治療することができます。

薬を使わないので内臓などに負荷をあまりかけない

 薬やサプリメントなどを飲むと、消化吸収されて血液の中に成分が入り、全身を回って作用します。実は、この過程の途中に肝臓を通ります。肝臓では血液の成分を調節しているのですが、大量に一部の成分が全身に回らないように分解や解毒もしています。
 薬やサプリメントの成分は、ほとんどの場合、肝臓で分解・解毒されます。そのため薬やサプリメントを飲み過ぎている人は肝臓が疲弊しています。
 先に挙げたように肝臓は血液の成分を調節しているところです。体を元気にさせる成分も肝臓で調節されています。肝臓が疲れていては元気になりずらいことになります。
 その点、鍼灸は薬を使う訳ではないので肝臓にはさほど負担をかけませんし、鍼灸治療によって肝臓の機能を活性化させることもできます。

治療効果がすぐに確認できることが少なくない

 鍼灸の特徴の一つに「即効性」があります。
 鍼を打ってすぐに力が入り易くなったり、声が出し易くなったりすることは珍しいことでは無く、日常的に見られることです。そして一定の時間が経ってから症状の変化が出るものがあります。
 体に良い美味しいものを食べればその場で美味しいとまず感じますよね。そして次の日とかに体の調子も何と無く良い気がする。鍼灸治療も似た所があります。

人が人に施術するので相性が少なからずある

 多くはありませんが、鍼灸治療そのものにも相性のようなものがあります。そして、鍼灸治療をする施術者との相性もあります。
 相性が良いのであれば全く問題はありませんが、逆に相性が悪いと言う事も起こります。そのようなことが起こらないようにするために、いくつかの回避策を考えて治療に臨んでいますが、人が人に施す以上、どうしても避けられない部分があります。

身体的にバランスを取ることに長けるが極端な虚弱者は効果が現れずらい

 鍼灸治療は身体に鍼灸を施し、体が元々持っているバランスを整わせる力を使ったり、体を正常な状態に戻そうとする自己治癒力を使って、症状を改善させようとします。
 どちらの場合も、体が持っている力を利用します。その力はその人の体力に依存します。と言う事は、極端に体が弱っていると、その力を使う事で体力を消耗して更に体が弱ってしまう事になります。
 そう言う時にも使用できる治療方法もありますが、大きな反応を起こすような治療はできません。そう言う時は少しずつ治療を進めてゆくことになります。

脳に関係する病の治療は回数が多いほどよいが、体力との兼ね合いが重要

 MNDやALS、CVDといった脳や神経に関係する病気では、鍼灸治療の回数が多ければ多いほど治療効果が良いことが知られています。
 私が研修していた天津の病院では一日二回で毎日治療しています。しかし、既に書かせて頂いたように鍼灸治療は多少の体力を必要とします。
 通院して治療を進めてゆく場合、問題になるのは鍼灸治療に耐えられる体力があるかどうかよりも、通院に耐えられる体力があるかどうかです。車などに乗ってくる場合、揺れている車内で姿勢を保持するように体は勝手に筋肉を使って姿勢の調整をしています。そのため、ただ乗ってくるだけでも体力を消耗します。通院で消耗する体力も換算して実際の治療頻度が決まってきます。

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