脳神経疾患の臨床と研究

中風(脳梗塞など)前兆の弁証治療と臨床研究

診断と弁証

古今臨床医家の経験を総合し、現代医学の理化検査指標を合算して考え、1986年に『全国中風診断与療効標準』が制定されました。

1.診断(現代医学的診断)
年齢40歳以上で、主要指標中一項目、次要指標中三項目以上該当するか、或いは主要もしくは次要指標を各二項目以上該当する者は中風前兆とされます。
(但し、鑑別診断中の疾病とCTにて梗塞・出血が見られないものは除く)

(1)主要指標
近日中に一過性の下記症状が出現し、また併せて反復発作の傾向があるか、また下記症状が24時間を超えて持続した場合、但し三週間以内に回復した者。
1)片半身の麻木感、感覚障害もしくは片半身の発汗
2)身体無力感、半身不随、口が渇く
3)めまい、頭痛
4)視覚異常、片目が見えない、視界が狭くなった
5)舌の動き悪くどもる、飲み込みずらい、むせる
6)間欠的に崩れるように倒れる(drop attack)

(2)次要指標
1)血流変学三項目以上の異常
※日本では血流変学に相当するものが恐らくありません。参考までに中国で使われている項目には以下のものがあります。:全血高切粘度(200/S)、全血中切粘度(40/S)、全血中切粘度(30/S)、全血低切粘度(3/S)、全血低切粘度(1/S)、全血高切流阻、全血中切流阻、全血低切流阻、全血?森粘度、全血?森応力、全血還原粘度(3/S)、全血還原粘度(1/S)、血漿粘度、紅細胞聚集指数、紅細胞剛性指数、紅細胞変形性、紅細胞内粘度。
2)高血圧
3)糖尿病
4)心臓病
診断には以下の疾病を除きます。:頚椎病、内耳性めまい、偏頭痛、癲癇、精神病、慢性硬膜下血腫、緑内障、脳梗塞、脳出血、大動脈炎


2.弁証(中医学的診断)
本病の臨床症状には四種の類型が常見されます。

(1)肝陽上亢型
1)病因病機:40歳を超えて腎陰不足のもの、希望が遂げられず肝気不舒のもの、思い悩み怒り気が短く肝気衝逆のもの、下半身が力不足で上半身が緊張する肝風内動するものが、主な発病機序。
2)証候特徴:イライラし怒り易い、顏色が赤く口が苦い、めまいがして頭がはれぼったい、耳鳴り、四肢が痺れる、舌がこわばる。多くは高血圧や動脈硬化の既往がある。

(2)肝腎陰虚型
1)病因病機:早婚で多産や不摂生な性生活による肝腎虚損、水不涵木による虚風時動するものが、主な発病機序。
2)証候特徴:身体が衰え精神が疲れている、頭が虚ろで眼がチカチカする、物忘れをし多く夢を見る、動作が鈍い、表情が淡白、足腰が弱い、酷い場合は、大小便が制御できない、言葉がはっきり話せない。多くは脳動脈硬化や脳萎縮や糖尿病の既往がある。

(3)気虚血オ型
1)病因病機:体質虚弱、悩みや疲労が過度、怒り過ぎや喜び過ぎによる気血逆乱、内損や外傷による経脈不暢、気血が滞りによる血脈閉阻が、主な発病機序。
2)証候特徴:時々身体が痺れ、四肢が痛んだり膝が痛んだりする。胸に圧迫感がある、呼吸が浅い、頻繁に胸が痛む、偏頭痛、時々眼が見えなくなる。多くは心臓病や外傷の既往がある。

(4)痰湿阻絡型
1)病因病機:脂物が好き、酒を飲みタバコを吸う、太っていて腹が出ているなどから痰湿が内生し気痰上阻や脳竅時閉するものが、主な発病機序。
2)証候特徴:太っていて四肢が重い、いつも眠くよく横になる、頭が重く四肢が痺れる、時々どもる、手足がうまく使えない。多くは高脂血症や糖尿病の既往がある。

 上述の四型が複合していることもあります。臨床では、症状が出たり出なかったりするもの、症状が重くなったり軽くなったりするものがあり、虚実夾雑証や本虚表実証のこともあります。病因は違っても病機の転帰は一致しています。

治療

1.原則
醒脳開竅、息風防閉

2.方法
醒脳開竅法
主穴:内関、人中、印堂、上星透百会、風池
補穴:省略
加減:省略

3.操作
刺針操作:省略
療程:毎日一回、10~12日を一療程として連続二療程。
注意事項:治療期間内は休息をすること、性生活を控え、タバコや飲酒を控え、情緒を安定させるようにすること。

臨床研究

ランダム抽出方法で観察した30例の中風前兆患者を醒脳開竅法で治療した臨床効果は、臨床治癒率61%、総有効率96.7%。対照群の臨床治癒率34%、総有効率95.6%、統計学的に二組の治療効果には明確な差異が認められます(P<0.05)。

 同時にこれらの患者の血流変学の変化を観察したところ、醒脳開竅法を治療に使用した中風前兆患者の血液の濃さ、粘度、凝集状態に明確な改善が見られました(P<0.05)。伝統的な鍼灸治療方法を用いた対照群でも一部の血流変指標は改善しましたが、統計学的意義はありませんでした(P>0.05)。

日本ではこのような臨床研究や臨床確認はされていませんが、中国天津では病院単位で取り組んでこのようなデータや方法が確立されています。

決して中医学だけで診ると言っているのではなく、現代医学と中医学をうまく用いてよりよい治療効果を引き出すことが必要だということです。また、中医学による考え方の多くは現代医学の用語を用いて説明することが可能ですし、決して過去の経験だけで治療をする根拠の無いものではありません。

中国をはじめ、韓国や日本では昔から中医学をはじめとする東洋医学があります。お互いを否定するのではなく、お互いの利点をうまく用いて治療につなげることが重要であると思います。

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