顔面神経麻痺には、中枢性顔面神経麻痺と末梢性顔面神経麻痺の二種類があります。ここでは、原発性末梢性顔面神経麻痺の針灸配方について紹介します。
原発性顔面神経麻痺は、中医学では口眼歪斜(こうがんわいしゃ)と言いますが、中医学と現代医学のこの病気に関する考え方は比較的近いものがあります。中医学では、風邪が顔面に直中し、経脈を阻滞させ、経筋が麻痺状態になると考えます。現代医学では、冷気による刺激に関係があるとされ、その病理変化は早期には神経水腫、虚血、酸欠が主となり、後期には神経変性、脱髓病変が発生するとされています。
針刺治療は局所の血液循環を促進させ、酸素供給を改善させ、神経水腫の吸収を加速させる効果があります。それゆえ、針刺は原発性顔面神経麻痺に対して非常に有効な治療方法の一つであると言えます。原発性末梢性顔面神経麻痺の治療過程では、経筋発病の理論を重視し、経筋針刺に刺絡療法の治療方法を制定し、臨床では理想的な治療効果を収めています。
突然一側の顔面麻痺が発生します。
額のシワが減弱或いは消失、目を完全に閉じることが出来ない、鼻唇溝が浅く変化、口角が下がる、涙が出る、よだれがでる、頬に食べ物が残る、味覚が減弱。発病早期では耳の後ろの乳突起部に自発性疼痛或いは圧痛が見られます。
原発性末梢性顔面神経麻痺は末梢性顔面麻痺の一種です。多くの疾病によって末梢性顔面麻痺の特有な症状が見られます。よって、末梢性顔面麻痺患者の治療にあたって、しっかり鑑別診断を進める必要があります。
(1)脳幹病変
脳橋血管病、脳橋小脳脚腫瘤、脳橋部炎症などの疾病で見られます。鑑別特徴の主要は交叉性麻痺です。病巣と同側の末梢性顔面麻痺、外転神経麻痺、内耳神経機能障害が見られます。病巣と対側の舌下神経麻痺、肢体中枢性麻痺が見られます。一部の患者は病巣は比較的限局的で、波及範囲は小さく、発病の早期は交叉性麻痺は典型的ではありません。よって、顔面神経自律神経機能及び顔面神経味覚機能の検査は、この類の疾病の鑑別診断の鍵になることに注意が必要です。局在性脳橋病変から出現する末梢性顔面麻痺は一側の顔面部表情筋の麻痺を主として、自律神経機能及び舌前2/3の味覚障害は不明確です。
(2)急性化膿性乳突炎
乳突起は茎乳突孔は接近していて、化膿性炎症は顔面神経の炎症浸潤を形成し、末梢性顔面神経麻痺を発生させます。その鑑別の主要は、顔面麻痺発生と同時或いはその前に、耳の後ろの乳突起部に発赤、腫脹、発熱、疼痛など急性炎症病変が見られます。同時に全身炎症疾病の症状が見られます。例えば発熱、白血球増加など。
(3)内耳、中耳病変
顔面神経は脳から出た後は内耳神経と併走し、一緒に内耳道に入ります。内耳道底部では、顔面神経と内耳神経が分かれ顔面神経管に入ります。走行中の顔面神経は中耳で一部暴露されます。よって、内耳と中耳病変では炎症性病変と占拠性病変共に末梢性顔面麻痺の発生を伴います。その主要な鑑別は以下です。
末梢性顔面麻痺に耳鳴り、難聴、味覚消失、前庭神経機能錯乱、併せて唾液及び涙腺の分泌障害が見られる場合は、病変部位は後頭陥凹部或いは内耳道であることを表しており、中間神経及び内耳神経が侵されています。
末梢性顔面麻痺に耳痛、鼓膜穿孔、耳道に膿が見られる場合は、化膿性中耳炎が顔面神経に浸潤炎症していることを表しています。
(4)顔面手術及び外傷
顔面手術及び外傷は顔面神経の損傷或いは断裂を起こす事があり、末梢性顔面神経麻痺を発生させます。その鑑別の主要根拠は病歴です。
(5)耳下腺病変
顔面神経は耳下腺を通過していますが、耳下腺は支配していません。耳下腺病巣がもし化膿性炎症、腫瘤なら顔面神経に損傷を与え、顔面神経麻痺を発生させます。その鑑別の主要は耳下腺の腫大です。
(1)治則
活血去風・疏理経筋(血行を良くして風邪を取り去る、筋肉を伸びやかにして使えるようにする)
(2)配方:省略
(3)操作:省略
(4)治療頻度・期間
急性期(発病7日以内):
刺絡法を毎日1回、その他の刺法は毎日2回を15日間休まずに治療が必要です。15日後、症状に改善が見られた場合は、刺絡法を毎日1回或いは隔日1回、その他の刺法は毎日1回治療します。急性期の治療期間は一般的には1~3ヶ月間です。
安定期(発病1週から45日):
治療頻度は急性期と同様ですが、治療期間が長くなります。
神経変性期及び後遺症期(発病45日以上):
治療頻度は同様で治療期間は更に長くなります。この時期からの治療は予後の推測できません。
症状性末梢性顔面神経麻痺は原発病巣の治療に対応します。原発病巣は一定では無いため、異なる治療手段を採用されます。例えば、中耳、耳下腺、乳突部細菌性炎症には抗炎症治療、脳幹、内耳道腫瘤には手術治療、顔面部手術或いは外傷早期には神経線維の外科的治療などです。原発病巣の抑制後の針刺治療は末梢性顔面神経麻痺に有効な効果を得る事が出来ます。
(治療頻度や治療期間は理想的には上記ですが、一般的には、急性期では治療頻度は毎日もしくは隔日、治療期間は症状が改善するまで行ないます。また、安定期や後遺症期では治療頻度は週2・3回で、治療期間は症状が改善するまで行ないます。)
面タンまたは顔面神経麻痺と呼ばれ、中医学では「卒口僻」、「口眼歪斜」などの範疇に帰属し、臨床で多発する疾病の一つです。本病の起源は『霊枢・経筋』曰く、「其病……卒口僻、急者目不合、……引頬移口。」末梢性顔面麻痺中の原発性末梢性顔面神経麻痺は、針灸の最も適する証の一つです。長年の臨床と研究を通して、原発性末梢性顔面神経麻痺の針刺治療では局部の微小循環が明確に改善され、顔面神経の虚血、酸欠の病理素因が改善され、神経水腫の吸収と消失が促進されることが分かっています。同時に、針刺は直接顔面神経を刺激し、顔面神経の興奮度を引き上げ、神経の抑制状態を改善させ、神経損傷の修復を促進します。
中医学では、顔面麻痺は経筋発病に属します。労働によって発汗したところに風が当たったもの、或いは涼しい所を求めたり冷たい物を好み、風があたる場所で寝る事を好むもの、或いは腠理が開き汗が漏れ、衛気が守れず、風寒の邪が虚に乗じて顔面部の経筋に直中したものによって、外邪や血オが阻害され、経筋が不利になり、経脈が緩みまとまらなくなります。よって、三陽経の経筋阻滞が本病の鍵となります。
透穴刺法を用い、多く針を浅刺し、三陽経の経筋を整える事を目的とします。刺絡法は、即ち絡を刺すことで、小絡の血脈を刺し、血と邪が一緒に出て、血気の流れが回復します。抜罐を合わせ使うことで、この出血量を制御でき、血と邪が出ることで、血気を回復させる治療目的を達成させられます。三陽経の経筋は全て顔面に上行し、多くは頬骨部、下顎部、頬などで結します。頬、額などの所は刺絡法の重要部位で、経筋透刺、排刺法を配合して疏導結聚、疏理経筋、散風去邪をします。散風活血の経穴を補助とすれば、更に本法の完全性と科学性を良いものにします。
経筋透刺、排刺法と刺絡法の配合は長年の臨床経験及び豊富な医学理論知識による、原発性末梢性顔面神経麻痺における針刺治療の新しい方法です。よって、本法は原発性末梢性顔面神経麻痺の各時期全てに対して比較的良好な治療効果を上げています。