東洋医学という選択肢

第四章 専門家にお願いする治療

2 漢方薬

症状や所見から東洋医学的に診断して投薬

 漢方薬は、東洋医学的な診断や理論によって、先人達が効果を確認し、記録として残してくれたものを元にいろいろな処方があります。これを現代医学的な考えで漢方薬を使おうとしても上手くゆかない事も多く発生してしまいます。
 ちょっと前に花粉症に小青竜湯がイイと言われたことがありましたが、小青竜湯は体を温める薬です。もし、その人が体温が上がってしまうタイプの花粉症になっていたら、体温を上げてしまう小青竜湯は飲めば症状が悪化したり副作用が出てしまったりします。
 現代医学で使われている薬も現代医学的な診断を元にして処方されるように、漢方薬も東洋医学的な診断を元に処方するべきです。

基本は煎じ薬でその人に合わせる

 漢方薬の基本形は、その人の今の症状や元々の体質などによって生薬を組み合わせて作る煎じ薬です。完全なオーダーメイドです。
 症状や体質も違いますが、その時の季節や気候変化、職場や住んでいる場所の環境状態などなど、東洋医学では、たくさんの要素によって最終的に今の症状になっていると考えますので、生薬を一つ一つ組み合わせて漢方薬を処方します。

日本では出来合いのものが基本

 日本では出来合いのもの、つまり生薬の種類が決まっている約束処方の漢方薬が一般的です。葛根湯などがそうで、使っている生薬の種類が決まっています。
 その人にぴったりの漢方薬は約束処方である以上、なかなかありませんが、昔の人が経験的に多くの人に使えるものを約束処方として残してくれたものですので、とても良い処方がたくさんあります。ですので、いくつか使って自分にあった処方を見つけると言う作業も必要になることもあります。

副作用が無い訳では無い

 東洋医学的に診断しても漢方薬にまったく副作用が無い訳ではありません。理由の一つは約束処方と言う点。もう一つは、現代人に多く見られるアレルギーの問題。そして他に飲んでいる薬やサプリメントなどとの飲み併せの問題です。
 薬である以上、副作用が全く無いというものはありません。漢方薬は副作用が無いと言う話に惑わされて、何でも構わず使えば副作用の可能性は上がりますし、東洋医学的な診断をしないで使えば当然副作用の可能性は上がります。

補益が最大利点

 私が考える漢方薬の最大の利点は『体を元気にさせる』ことです。
 現代医学の薬にもプラセンタなど一部の薬には、体を元気にさせる作用がありますが(ちなみに東洋医学ではプラセンタは「紫河車」という漢方薬です)、非常に少ないのが現状です。
 どのような治療方法で取り組んでいったらいいのかどうかを判断する際、体を元気にさせる必要性が高ければ漢方薬を使う事を強くお勧めします。

市販品は生薬量が少ないものが多く効果が見えづらい

 市販の漢方薬は、使っている生薬の量が少ないものが非常に多いです。生薬の量が少ないことで副作用のリスクを下げることができますが、効果が実感できない場合が多い感じがします。
 例えば葛根湯ですが、葛根・麻黄・大棗・桂枝・芍薬・生姜・甘草という生薬が入っています。逆に言うと、これらの生薬で作られている処方を葛根湯と呼ぶのですが、市販のある葛根湯で使われている葛根の量は4gです。私が学校で習った葛根湯の葛根の量は12gです。生薬から成分を抽出する方法などが進化しているので同じには考えられませんが、少ないですよね。
 漢方薬は効きづらいと良く効きますが、このような背景もあるんです。

名称が同じ場合は使っている生薬の種類は同じだが…

 市販の漢方薬は同じ名称でも、入っている生薬の量が違う事が多いんです。例えば葛根湯ですが、葛根の量がある製品は4g、別の製品では8gです。結構違うもんなんです。他の漢方薬でも状況は大体一緒です。
 いろいろな背景があるんでしょうから良い悪いという話ではありませんが、名称が同じでも生薬の量が全く違う場合があることは知っておいた方がいいでしょう。

生薬の量が違えば同じ名称でも効果が全然変わってしまう

 先日も「補陽還五湯」という漢方薬が、脳卒中後遺症に良いと言う話をしたところ、日本でも売っている事が患者さんからの情報で分かりました。でも調べてみたら、使われている生薬の量が違い過ぎます。この製品でも効く人はそれでいいですが、私ならこの製品は、本来の補陽還五湯が適していると思われる方には勧めません。
 漢方薬を使う時には使われている生薬の量を確認しないと期待する効果も全然変わってしまうんですね。

服薬は値段を考えて

 漢方薬には、非常に高価なものもたくさんあります。希少なものを使っているので値段が上がってしまうのもしょうが無いのですが、少し考えてもらいたい事があります。
 以前、私が勤めていた漢方クリニックでは、日本の医師と中国の中医師が2人で診察にあたっていました。2人の医師が患者さんの話を聞き、診察し、自費で患者さんの状況に合わせた煎じ薬を処方した場合、診察料と漢方薬代込みで一ヶ月4万円くらいでした。今は漢方薬の値段が上がっているので、もう少し高くなっているかもしれませんが、こんな感じです。
 例えば、冬虫夏草と言う漢方薬が良いと言われて5万出して購入してみる。それ自体は良いのですが、前述の通り2人のプロに今の状況にあった煎じ薬を調合してもらって4・5万です。それでも冬虫夏草を試してみたいと考え、ご自身が納得して購入するなら構いませんが、普段使わない漢方薬などの商品は、金額の基準が全く分からないと思いますので、一つの参考として頭に入れておいてもらえるとイイと思います。

ページの先頭へ