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11月に入り、立冬も過ぎ、朝夕はすっかり寒く感じるようになってきましたね。季節的に体調がすぐれなくなるタイプの人がいると思いますが(かく言う、私もそうなのですが……)、もし私と同じタイプなら、補腎に気を付けるとイイです。腰を冷やさないようにしたり、漢方薬の補腎薬を飲んでいいです。私は補腎薬を飲んでます。
池袋のほうしょう鍼灸治療院です。

さて今回は、偏頭痛についてです。
偏頭痛の中でも、首の後ろ側(後頚部と言います)の筋肉の引きつりと関係の深いタイプについてです。

後頚部の筋肉の引きつりの多くは、東洋医学的に「肝」や「心」が原因となっていることが非常に多いです。それと、筋肉の引きつりは「肝」が治療のポイントになるため、上記の「肝」「心」を診断と治療のポイントにしてゆきます。

現代医学っぽく考えた場合、肝臓は血液の質を調節している器官です。心臓は血液を全身へ送る器官です。よく、気圧の変化で偏頭痛が出るという話を聞きますが、これは外界の気圧変化に体内の圧力変化が追従しきれていないと考えることもできると思います(本当にこれが的を得ているか分かりませんが、このように考えてみます)。体内の圧力は体液の成分から浸透圧などによって調節されていると思いますが、この成分を調節しているのは肝臓です。そして、体液を送っているのは心臓です。当然、他の要素も大きく関係しますが、肝臓や心臓がキーポイントになっている可能性もありそうと言えると思います。

鍼灸的には、ずばり筋肉が引きつっている後頚部を緩める目的で施術したり、「肝」や「心」に対して、「経絡」という考えから、手や足から刺激して改善を目指したりします。
それ以外にも、「臓腑」という考えから「肝」や「心」に対して治療することもありますし、「大極」という考えから、上半身の緊張を緩めるために、下半身をしっかりさせるような治療をすることもあります。

偏頭痛は、長期的に見た場合、なかなか手ごわいですが、現代医学でも東洋医学でもコントロールの方法は必ずありますので、一歩ずつ解決方法を探ってゆくのがイイと思います。

産婦人科疾患

女性不妊(卵管狭窄)の概要

女性が結婚後、配偶者の生殖機能が正常で、夫婦が3年以上同居し避妊していないのに妊娠しない場合は、原発性不妊と呼ばれます。以前に妊娠出産育児を経て、未だ避妊処置をしておらず、また3年以上の間再妊娠しない者は継発性不妊と呼ばれます。併せて不妊証と言います。(注:中医学で不妊は、「不妊証」といいます。「不妊症」のタイプミスではありません。)
中医では本病に対する研究は比較的深く、本病における病因病機も比較的複雑で、虚によっても実によっても病にいたると知られています。病機の主要は腎と衝任二脈に関係があります。腎は精を蔵し、先天の元気の本で、生殖を主ります。衝脈は血海で、任脈は胞胎を主ります。ゆえに腎精腎気虚弱、あるいは衝任脈失調、あるいは痰湿阻胞、あるいは気滞血オのどれもみな不妊証にいたります。本証の治療はどれも調経を主として、なおかつ虚実の違いを根拠に、補気・滋陰・理気・化オの諸法を分けて配合します。

症状

受胎の条件は正常発育している卵子と精子があることが必須です。かつ、精子と卵子が卵管内で出会い受精し、受精卵が適時に子宮内膜中に着床し、正常なホルモンで胚胞の発育が維持されなければいけません。であるので、女性側から言うと、不妊証が出現する主要は卵巣ホルモン失調および卵子の生成異常、精子・卵子結合通路阻害による受精卵着床障害などの3方面による素因から異常にいたります。卵管閉塞は通路方面の問題に属し不妊にいたります。
卵管閉塞患者は卵管造影試験で閉塞が見られます(原文では卵管通暢試験が陽性とある)。卵管通気術・通液術と子宮卵管ヨード油造影術などの試験で卵管通暢状況を検査することができます。

鑑別

(1)先天性生理および解剖的不具合による不妊:不妊が女性の先天的な生理あるいは解剖的不具合による場合。例えば膣の狭窄・処女膜肥厚・膣内に膜が横切っているなどによって不妊になる場合です。古人は“五不女”と呼びましたが、手術治療をしなくてはいけません。

(2)子宮内膜転位症:これは子宮内膜の成長が子宮腔以外の組織で起こることを指します。この種の転位した内膜は卵巣ホルモンの周期的変化にしたがって発生増殖・分泌・出血をします。臨床では二種類型に分かれ、すなわち外在型と内在型です。外在型は子宮内膜転位が子宮以外の組織内にあるものを指し、最もよく見られる部分は卵巣です。その次が直腸子宮窩および仙骨子宮靭帯です。卵巣内で月経周期変化にしたがって逐次大きくなってゆき、嚢腫を形成します。またチョコレート嚢腫とも呼ばれます。直腸子宮窩の病巣では、粘度が高く硬く連なるように形成されることがあり、ときに直腸や膀胱を犯すことがあります。内在型は子宮内膜様組織が子宮筋層に出現します。弥漫性に分布した場合は子宮腺筋症と呼ばれます。また局在性に分布し腫瘤様のものは子宮腺筋瘤と呼ばれます。子宮内膜転位症が不妊を引き起こします。卵管造影試験(原文では卵管通暢試験とある)・骨盤腔内超音波検査によって確定診断します。

鍼灸治療

(1)治療法則:
疏肝解鬱・調経種子(肝を健やかにしうっ滞を除く、生理を整え妊娠させる)
去湿化痰・理気啓宮(水の代謝を良くし、気を整え妊娠させる)
活血化オ・理気調経(血行を良くし、気を整え生理を調える)

(2)配方:(省略)
(3)操作:(省略)

(4)治療頻度:毎日針刺1回、一般には30日を1療程とします。
(注:治療頻度や治療期間は理想的には上記ですが、一般的には、週1回から3回の頻度で行いますが、治療を頻繁に行った方が良い印象があります。)

治療理論

 本省の多くは実証で、一部分は本虚標実症になり、臨床では弁証をしっかり行うべきです。疏肝解鬱法で取穴している経穴には、通衝任の効能・理気通経・疏肝解鬱・養血調経できます。去痰化湿法では、調理衝任・理気調経・去湿化痰・調理三陰・理気和血・理気化痰・調経種子の効果を収めることができます。活血去瘀法では、助気化・理衝任・調胞宮・化オ通経・活血化オ瘀・和血調経できます。併せて不妊症の経験穴を用いてゆきます。

不妊症に対して鍼灸治療はいくつかの利点があると考えています。その最も大きな部分は『自分自身の力を引き上げることで妊娠を目指す』ことです。不妊治療で鍼灸を用いることはもちろんですが、妊娠した後のいろいろな症状にも対処できますし、出産後、こどもにも鍼灸治療することができます(念のため書いておきますが、こどもにする治療は大人とは方法が違います)。いろいろな影響を考えると、できるだけ体にとって自然な方法から選択したほうがイイと思いますので、ご一考してみてはいかがでしょうか。

産婦人科疾患

月経不順(生理不順)の概要

正常な月経は、女性の青春期以後にある子宮の周期性出血で、神経・体液系統によって調節が行なわれています。性腺は視床下部-下垂体の支配と相互制約を受けています。故にいかなる素因も性腺内分泌器官-子宮内膜に影響を与え一系統の機能異常を引き起こし月経失調に到ります。

月経失調は婦人科の常見病で、月経周期・月経期間・経血量・経血質の改変を含んでいます。本病は現代医学の排卵型機能性子宮出血の範疇に含まれます。神経内分泌系統機能障害によって、異常な子宮出血が発生することを、機能性子宮出血と呼びます。排卵型機能性子宮出血の大多数は出産可能年齢のもので、恐らくはLHの相対的分泌不足或いは持久的分泌によるものによって、黄体の発育不全或いは萎縮不全が引き起こされたものです。それ以外に、現代医学で多くのその他の素因及び全身性疾病例えば血液系統疾病(血小板減少性紫斑・再生障害性貧血・白血病など)、肝硬変、慢性腎炎、糖尿病および部分的膠原性疾病によって月経失調が発生している可能性に注目しています。

中医歴代の婦人科医籍では本病に対して十分に重視しており、月経失調を調節する事は多くの婦人科疾病の最も根本的な方法の一つであると認識しています。宋代陳素庵は“婦人諸病多由経水不調。調経、然後可以孕子、然後可以却疾、故以調経為首……既名月経、自応三旬一下、多則病、少則亦病、先期則病、後期則病、淋漓不止則病、オ滞不通則病。故治療婦人之病、総以調経為第一。”と言っています。

治療方針

補脾益腎・養血調経(脾を補い腎を助ける、血を養い月経を整える)
補気養血・調補衝任(気を補い血を養う、衝任脈を補いながら整える)
散寒暖宮・温通経脈(寒邪を散らし子宮を温める、経脈を温めて通じさせる)
清熱養陰・涼血調経(熱を冷まして陰を養う、血を冷まし月経を整える)
疏肝解鬱・理気調経(肝を緩め鬱を解く、気を整え月経を調節する)
利湿化濁・去痰通経(湿を排泄し濁気を変化させる、痰を取り除き月経を通じさせる)

治療過程:毎日針刺を1回、30回を一療程とします。連続3~5療程観察します。

中学では月経失調を上記のようにいくつかに分類し治療にあたります。鍼灸治療ではこの治療方針にのっとり治療を進めてゆくのと同時に、子宮や卵巣等の局所付近に施術する事で更に治療効果をあげています。

産婦人科疾患

月経痛(生理痛)の概要

月経中か月経期の前後に発生する下腹部の疼痛の全てで、正常な生活や仕事に影響が出るものを中医学では痛経と言います。一般的には生理痛、もしくは月経痛と呼ばれます。

痛経は、中医婦人科では経行腹痛とも呼ばれ、常見される疾病の一つで、青年女性に最も多く見られます。本証は、早くは東漢の張機が著した≪金匱要略・婦人雑病脈証并治≫の中に既に記述が見られます。歴代の医家は本病の病機に対して既に十分な理解を持っていました。多くは労傷気血、体質虚弱、気滞血オ、或いは風寒の気の外襲、傷及衝任などにより発病に到ると認識しています。明代の張介賓が著した≪景岳全集・婦人規≫の中には、“凡婦人経行作痛、夾虚者多、全実者少、即如以可按拒按及経前経後辨虚実、固其大法也、然有気血本虚而血未得行者亦毎拒按、故于経前亦常有此証、此以気虚血滞無以流通而然。”とあり、痛経病の虚実弁証に対して認識をより深めています。現在に到るまで臨床に対してこれらの考え方に指導的意義があることは変わりがありません。針灸弁証論治は本病に対して比較的良好な治療効果があります。

治療方針

理気化オ、活血止痛(気を整え鬱血を無くす、血行を良くし痛みを止める)
温経散寒、除湿止痛(経絡を温め冷えを除く、水分代謝を改善し止痛する)
益気補血、滋養胞脈(気を増し血を補う、胞脈を滋養する)。

治療期間:毎日針刺1回、15回を一療程とします。

鍼灸治療に用いる経穴には、いろいろな作用があります。ある経穴は、下焦気分を調整し、衝任の気を調暢させ、気を巡らせ血を巡らせることで、経血が自ずから順調に流れる事になります。中医学では、痛みは『不通則痛』といって通っていない、つまり気や血などが正常な流れで無いと痛みが出ると考えますが、順調に流れる事で痛みを解消します。またある経穴は、子宮収縮を促進させ、化オ通経の作用が分かっている経験配穴です。全身状態が虚弱の場合には、全身の強壮作用がある経穴を使用します。これらは治療を続けるか、自宅施灸を続ける事で、先天後天を共に補い、気を足し血を充たし、自ずから月経痛の心配は無くなります。

呼吸器疾患

慢性鼻炎の概要

鼻窒は即ち鼻塞(鼻閉・鼻詰まり)の事で、鼻塞は軽くなったり重くなったりし、或いは両側の鼻孔が交互に閉塞します。反復して発作を起こし、経過は長く完治せず、酷い時には嗅覚が無くなるなどの特徴を持つ一種の病証です。その発病には季節性と地域性は無く、多くは湿度が高く涼しい環境に置かれた後に増悪します。その病因病機は傷風によって鼻塞が反復発作を起こすか或いは空腹や満腹や疲労や肺脾気虚から、邪気が鼻竅に停滞して発病に至ります。治療上では補益肺脾・行気化オ・去邪通竅を以って主要な方法とします。

現代医学の慢性鼻炎が本病に相当します。その病理変化は鼻腔粘膜の慢性炎症です。多くは急性鼻炎の反復発作あるいは経過が長くなり完全に治らなかったものによるか、或いは近接器官(副鼻腔・扁桃体など)の炎症が干渉して鼻粘膜の慢性充血腫脹を引き起こします。

治療方針

治則:
疏風清熱・宣肺通竅
(風邪を疏通させ熱を冷ます、肺を宣通させ竅を通す)。
療程:
本証の治療は1回目で効果が見られます。但し毎日針刺2回、15回を一療程として連続治療することでよい治療効果を強固にすることが出来ます。

鼻窒即ち鼻塞(鼻詰まり)は、中国医学の古典にもはっきりと述べられています。古典上記載から、鼻窒は実証ですが、本虚標実の証であることが分かります。肺脾気虚が本で、邪が鼻竅に留まり、停滞して通じなくなったものが標です。風邪が肺を侵襲し、肺気が不宣となり、肺竅不利になります。風邪が長く留まる事で熱化し、孔竅を塞ぎ、不通になることが本病です。ゆえに治療は宣肺・散邪・通竅によって治法とします。針治療で使用するツボは相互作用して泄熱・散邪・通竅の効果があり、鼻塞を治癒させることが出来るとされています。

皮膚疾患

帯状疱疹の概要

纏腰火丹は腰脇部に大小不揃いの水疱が発生するものを指します。古医籍中での名称は単一では無く、《外科大成》では“纏腰火丹”、《外科啓玄》では“蜘蛛疱”、後世では“串腰龍”と呼ばれています。

現代医学では“帯状庖疹”と呼ばれ、水痘-帯状疱疹ウイルスに感染することによって引き起こされた急性の疱疹性皮膚病です。その主要な臨床特徴は、発疹部位には往々にしてまず神経痛か痒みか皮膚の感覚過敏があり、神経痛が最も突出しています。疱疹は粟粒状で、大きさは緑豆ほどで、疱液は澄んでいて、疱壁は緊張して光沢があります。周囲は発赤し、数個が群れを形成して現れます。

古人は纏腰火丹に対して病名・症状から病機病位まで全て詳しく深い論述をしています。《医宗金鑑・外科心法要訣》には“纏腰火丹蛇串中、干湿紅黄似珠形、肝心脾肺風熱湿、纏腰已遍不能坐。”とあります。

帯状庖疹分布に対する特徴は、現代医学で一側の末梢神経に沿って帯状に分布する事が知られています。よく併せて神経痛と局所リンパの結腫が見られ、回復後の再発率はとても低いです。

治療方針

去湿清熱、消疹止痛
(湿を取り除き熱を冷ます、できものを消し痛みを止める)

纏腰火丹は現代医学では帯状庖疹と呼ばれます。多くは脾胃運化失常から、水湿停滞し、長くなると熱化します。或いは肝胆湿熱から鬱滞して火化します。或いは湿熱毒邪が経脈を侵襲します。また、湿熱内蘊して、脈絡を塞いで、?理から発生して、皮部に達します。故に疱疹は群がり痒みが起こり痛みは酷いです。

治療上ではよく清熱瀉火・解毒利湿の方法を用います。刺絡療法に針灸を配合し運用することで、治療効果は際立って顕著で、且つ効果が早いです。刺絡抜罐は血液循環を促進し、代謝を増強します。局部の免疫状態の機能を改善する事で、ウイルスを滅ぼす事ができ、細菌の続発感染を抑制し、帯状庖疹の治癒作用を加速させます。臨床では数百症例の蓄積があり、普通の針刺方法と比較すると治療効果は顕著に良く、即効性の止痛消疹の効果があります。

皮膚疾患

湿疹の概要

湿疹は多種損傷を持つ皮膚病の一つです。急性期では紅斑・丘疹・水疱・びらんなど炎症反応が出現します。慢性或いは静止期では患部の皮膚は乾燥・鱗屑・粗そう(きめが粗くざらざらしていること)及び苔癬(小さな丘疹が多発)様の変化をします。対称性・再発性であり、慢性的な経過を取る事や痒みがその特徴です。発病の原因は複雑で、一般的は遺伝因子による過敏体質が関係しているとされています。この類の患者は湿疹があること以外に、喘息や過敏性鼻炎或いは蕁麻疹などの疾病に罹り易く、一部の患者たちは精神緊張・過度な疲労によって湿疹が発生したり、湿疹を増悪させたりします。とりわけ慢性湿疹の患者ではそうで、往々にして精神損傷或いは自律神経が錯乱した時に皮疹が激烈な痒みを引き起こします。消化機能失調は胃腸吸収機能の錯乱を起こしよく湿疹を引き起こします。それ以外にも病巣の感染、内分泌失調、血液循環障害は皆湿疹の発病原因になります。

中国医学ではこの病は湿疹・浸淫瘡と呼ばれます。また発病部位が違うものに四弯風・旋耳瘡・苔病瘡などと呼ばれるものがあります。本病の発生は風・湿・熱もしくは風・湿が主要とされています。また、内風・内湿と外風と外湿に分かれます。外因方面では季候の変化によって風邪が外襲し、そうり不固になったり、或いは湿地に居た事で、雨露を感受することで起こります。内因では脾虚不運によって湿が内生します。心は火を主り、或いは精神緊張によって、情緒が安定せずに血熱に至り、湿熱と合わさって時間をかけて発病、或いは辛辣の物を過食し傷陰耗血し、血虚生風し、風が盛んになれば燥となり、燥は風を生み、風邪による皮疹の痒みは際限無く繰り返されます。鍼灸治療を本病に用いることで健脾利湿、養血潤燥、去風止痒をすることが出来ます。

治療方針

健脾利湿、養血去風、安神止痒。
(脾を健やかにし湿を処理する、血を養って風を止める、神を安らかにして痒みを止める)

湿疹は臨床で常見される皮膚病の一つです。多種の損傷性皮膚病を含むもので、臨床の急性期では紅斑・丘疹・水疱・びらんなどの炎症反応が出現します。慢性或いは静止期では患側の皮膚は乾燥・鱗屑・粗そう・苔癬の変化が見られます。本病は対称性・再発性・慢性病程及び痒みが特徴です。

発病原因は非常に複雑で、現代医学では遺伝素因・過敏性体質が関係し、精神の緊張・過度の疲労も関係していると認識しています。

中医学では本病の発生の主要は風・湿・熱などに責められるものであると認識しています。外因では外風内襲(風邪が体内に襲いかかる)からそうり不固(皮膚面の防御力が低下する)になります。内因では傷陰耗血(体液や血液が消耗)から血虚生風(血が少なくなると風が起こる)し、風盛則燥(風が盛んになると乾燥する)となり、復感風邪(風邪にまた感染する)することで皮疹の痒みには際限がありません。本病の治療は健脾利湿、養血潤燥、去風止痒です。針灸を用いて諸穴配合使用することで、去風(風を取り除く)・安神(精神を安定させる)・止痒(痒みをとめる)の効を協奏することが出来ます。

皮膚疾患

蕁麻疹の概要

蕁麻疹は常見される皮膚病の一種です。各種原因によって皮膚粘膜の血管拡張及び浸透性増加が引き起こされ、一過性局部水腫性の損傷が発生します。皮膚上に鮮紅色あるいは蒼白色の水ぶくれが出現し、消えたり現れたりし、非常に痒みがあります。また、消失後は痕跡が残らないという特徴があります。

本病の発病素因は比較的複雑です。例えば薬物ではペニシリン類やスルファミン類など、食物では主に動物性蛋白の食物、魚・えび・かに或いは食物添加剤など、慢性感染症では例えば咽頭炎・中耳炎・腸炎なども発病の原因に成り得ます。精神緊張・内分泌の変化も蕁麻疹を発生させます。

この発病のメカニズムは変態反応と非変態反応の二種類があります。主要な症状は真皮水腫で皮膚毛細血管の血管拡張と充血です。中医学では“(やまいだれに音)(やまいだれに雷)”などと呼ばれます。本病の発生の全てに稟賦不足(生まれつき身体が弱い)が見られ、虚弱体質や衛外不固となり、外邪に侵襲されて発病に至ります。或いは食物や薬物、感情の変化、病原体に感染することなどから営衛失和となり、内に流れず、外は泄する事ができず、皮毛ソウ理が鬱滞することで発病に至ります。

針灸治療は清熱疏風・衛外固表により自己免疫力を高めます。これが本病の治療に対する良い方法の一つで、慢性・頑固性蕁麻疹に対する治療効果は顕著です。

鍼灸治療

疏風固表、調和営衛、清営止痒
(風をちらし表を固める、営衛を調和させる、営血を冷し痒みを止める)

治療過程:
毎日一回、十回を一療程とする。
一療程後に一週間治療を停止し、次の一療程を行なう。

 蕁麻疹は臨床で常見される皮膚病の一つです。これは一過性水腫の皮膚血管反応の一種で、臨床では皮疹様の損傷を呈します。急性者は突然発症し、時に隠れ時に現れ、痒みに際限がなく、急速に消失したりします。慢性者は繰り返して発病し、数日或いは数ヶ月に至ります。

 中医学ではこの病に対する論述は比較的多く、医学古典には、本病の稟賦不耐(先天的に弱く抵抗力がない)が根本的な原因であることを説明しています。加えてソウ理不密(皮膚に緻密さがなくなる)により衛外不固(皮膚防御能力の低下)となり風邪外襲するもの、或いは寒、或いは熱、或いは湿を兼ね皮膚に鬱滞して発症します。諸穴を併せて治療に使用する事で疏風固表・調和営衛の効果があり、ソウ理が密になり、営衛を和すことで風消痒止することになり、治療することができます。

泌尿器疾患

前立腺肥大症の概要

小便が頻回で量が少なく出ずらく尿が滴るような場合や、下腹部の尿道に差し込むような痛み或いは張るような痛みが見られるものを淋証と呼びます。症状の違いによって、一般的には熱淋・石淋・気淋・血淋・膏淋の五種に分けられます。現代医学の泌尿器系感染症・泌尿器系結石・腫瘤・結核・前立腺疾患及び白濁尿などの病種があります。ここでは前立腺病変(前立腺肥大症)の針灸処方について紹介してゆきます。

前立腺肥大症では、下腹部及び会陰部が痛み張り不快感が出たり、排尿に力が無い、小便が途切れ途切れになる、酷い場合はしたたる程度になる、尿意は頻回、腰はだるくやる気が出ないなどの症状が出ます。

治療方針

疏利膀胱・通淋止痛
(膀胱を通じさせ、排尿を正常化させ痛みを止める)

療程:
鍼灸治療は毎日二回、15日を一療程とします。
病状改善後は、鍼灸治療は毎日一回、連続で一ヶ月治療します。

長期に及ぶ臨床研究で、私たちの淋証針刺治療から理論根拠が見出されました。研究では針刺は迅速に輸尿管の痙攣を解除し、疼痛を緩解させ、輸尿管の蠕動運動を増大させます。針刺の刺激強度を増加するによって、輸尿管の蠕動運動は増大し、尿流量も増加してゆきます。これによって止痛・利尿作用が達成されます。

本証の病程は長いものも短いものもあり、体質が強い場合も弱い場合もあり、或いは瀉し或いは補い、或いは攻補兼施をし、人によって適当な選択をし、証によっても適当な加減をすることで、この配方が治療効果を得る事が出来ます。

泌尿器疾患

腎結石の概要

小便が頻回で量が少なく出ずらく尿が滴るような場合や、下腹部の尿道に差し込むような痛み或いは張るような痛みが見られるものを淋証と呼びます。症状の違いによって、一般的には熱淋・石淋・気淋・血淋・膏淋の五種に分けられます。現代医学の泌尿器系感染症・泌尿器系結石・腫瘤・結核・前立腺疾患及び白濁尿などの病種があります。ここでは泌尿器系結石(腎結石・膀胱結石)の針灸処方について紹介してゆきます。

本病の発生原因に関しては中医学と現代医学の認識は比較的似ています。中医学では、外感湿熱或いは脾鬱湿熱が下注することによって湿熱が蘊結して、本病に至るとされています。現代医学では、泌尿器系の炎症或いは物理的(結石など)刺激によって泌尿器系の粘膜が直接損傷されることに関係があるとされています。本病の針刺治療は迅速な止痛・消炎・排石・止血に良好な治療効果があります。

治療方針

疏利膀胱・通淋止痛
(膀胱を通じさせ、排尿を正常化させ痛みを止める)

治療過程:
鍼治療は毎日二回、耳針は毎日一回、15日を一療程とします。
病状改善後は、鍼治療は毎日一回、耳針は隔日一回、連続で一ヶ月治療します。

長期に及ぶ臨床研究で、私たちの淋証針刺治療から理論根拠が見出されました。研究では針刺は迅速に輸尿管の痙攣を解除し、疼痛を緩解させ、輸尿管の蠕動運動を増大させます。針刺の刺激強度を増加するによって、輸尿管の蠕動運動は増大し、尿流量も増加してゆきます。これによって止痛・利尿・排石作用が達成されます。

本証の病程は長いものも短いものもあり、体質が強い場合も弱い場合もあり、或いは瀉し或いは補い、或いは攻補兼施をし、人によって適当な選択をし、証によっても適当な加減をすることで、治療効果を得る事が出来ます。

東洋医学という選択肢

1 CVD(片麻痺、失語、交差麻痺)

△40代男性
主訴 脳梗塞後の左片麻痺 2週間ほど
病歴 2週間ほど前に左側の動きが悪くなり救急へ。右脳梗塞と診断。その後2週間入院治療。
検査 歩行可能だが少し左側に違和感ある。左側の顔面と左上肢に痺れ様な違和感と左手は少し使いづらい。非常に疲れ易くなった。
診断 東洋医学:中風(中経絡)
   現代医学(参考):脳梗塞
治療 ①中風による左半身麻痺に対して醒脳開竅法を実施。
   ②体調を整えるため七星針法を実施。
経過 症状はほとんど回復し、初診から二ヶ月後に復職。2年経った現在も再発予防と体調管理のため通院中。

△40代男性
主訴 脳梗塞後の右片麻痺と失語 3年
病歴 約3年前に左大脳脳梗塞を発症。現在は右片麻痺と失語。
検査 杖と装具を使った自力歩行可能。失語の程度は強くないが緊張感が増すと間違いが増える。
診断 東洋医学:中風後遺症(中経絡)
   現代医学(参考):左中大脳動脈領域脳梗塞
治療 ①中風による右片麻痺と失語に対して醒脳開竅法を実施。
   ②右片麻痺に対して巨針療法を実施。
   ③頭部に頭針パルスを実施。
   ④体調を整えるために七星針法を実施。
経過 右半身の過緊張は低下。また失語も普通に会話できる程度にまで回復しているが緊張すると間違いは増える。初診より1.5年経った現在も継続通院中。

△50代男性
主訴 右半身の痺れ 2ヶ月
病歴 二ヶ月ほど前に眩暈と手足の痺れから病院へ。そのまま入院。脳幹部脳梗塞(ワレンベルグ症候群)と診断。現在は右半身の痺れと感覚障害が強い。左の運動障害は少しだけ。
検査 歩行を始めとする運動機能は問題なし。右の温痛覚障害あり。
診断 東洋医学:中風(中経絡)
   現代医学(参考):ワレンベルグ症候群
治療 ①中風に対して醒脳開竅法を実施。
   ②頭部に頭針パルスを実施。
   ③体調を整えるために七星針法を実施。
経過 初診より一か月後、顔面感覚改善。五ヶ月後、多少の差はあるものの、右半身の温痛覚改善。治療期間中に左四十肩や右腰痛が発生するもののその都度治療により回復。初診より一年経った現在は月一回程度で体調管理のために通院中。

2 MND・ALS(全身型、下肢型、球麻痺型、その他)

△30代男性
主訴 右手がうまく動かない 10ヶ月
病歴 10ヶ月ほど前に運動後1週間経っても脱力感が抜けず。一ヶ月経っても変化無かったため病院へ。3ヶ月ほど前に大学病院にてMND疑いありとのこと。
検査 歩行は問題なし。物を持ち挙げたり家事が少し困難。会話や食事に問題なし。
診断 東洋医学:痿証
   現代医学(参考):筋萎縮性側索硬化症(ALS)疑い
治療 ①痿証に対して醒脳開竅法の変法を実施。
   ②背部のこわばりに対して巨針療法を実施。
   ③萎縮筋肉に対して神経パルスを実施。
   ④体調を整えるために七星針法を実施。
経過 治療直後には明確な治療効果は確認できず。初診より三ヶ月後、ゆっくりではあるが症状が進行している模様。一年後、構語障害が軽度発生。治療により発語は改善する。一年半後、嚥下障害の軽度発生。治療によりムセは改善。程度は良くなるものの構語障害・嚥下障害共に存在。三年後、どもりが発生。治療により8割改善。全身状態は初診時より徐々に進行しているが、嚥下や構語が良好に保たれているので経口飲食に大きな問題は出ていない。

△60代女性
主訴 歩行が続かない
病歴 一年ほど前から腰が重く感じていたが、8ヶ月前ころから歩行が長続きしなくなった。最近、歩行距離が落ちてきたので病院へ。MND疑いありとの見解。
検査 自力歩行可能だが、少し跛行(少しびっこを引いている)が見られる。下肢以外は問題ない。
診断 東洋医学:痿証
   現代医学(参考):運動ニューロン病(MND)疑い
治療 ①痿証に対して醒脳開竅法の変法を実施。
   ②下肢無力部に対して神経パルスを実施。
③体調を整えるために七星針法を実施。
経過 治療後、足関節の動きが改善。歩行状態も治療後は改善見られるが戻ってしまう。初診より一年が経過するが軽度の進行は下肢に見られるものの、下肢以外は症状見られず。

△60代男性
主訴 会話がうまくゆかない
病歴 一年半ほど前から滑舌が悪くなってきた。病院へ行きALS疑いとの見解。
検査 嚥下および構語障害みられる。手足に症状は何も見られない。
診断 東洋医学:瘖証
   現代医学(参考):筋萎縮性側索硬化症(ALS)疑い
治療 ①瘖証に対して醒脳開竅法の変法を実施。
   ②体調を整えるために七星針法を実施。
経過 治療後、嚥下・構語共に調子が2週間弱良かった。会話は構語に関係する筋肉の萎縮が見られるため回復には時間を要するが、たまに声がうまく出ることがあるとのこと。嚥下も同様に軽度見られるが食事の速度も上がっている。初診より三カ月経過するが、症状の進行は大きくは確認されない。

△30代男性
主訴 体全体の筋肉のピク付き
病歴 4か月前ほどから体全体的に筋肉のピク付き。病院にてMND疑いとのこと。
検査 多部位に筋肉のピク付きと緊張感あり。
診断 東洋医学:肝鬱気滞
   現代医学(参考):運動ニューロン病(MND)疑い
治療 ①全身の体調を整えるため七星針法実施。
   ②局所的に醒脳開竅法の変法を実施。
経過 治療後、症状は改善。完全に取れる訳ではないが、筋肉のピク付きも緊張感も改善。10ヶ月通院のち症状の再発見られず治療終了。

3 CIDP・MMN

△40代男性
主訴 手足が動かしにくい
病歴 年少時より発症。ステロイド剤で治療中。右下肢に力が入りずらく、右腕にも違和感がある。
検査 右太ももの筋萎縮あり。自力歩行は可能。
診断 東洋医学:痿証
   現代医学(参考):慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)
治療 ①痿証に対して醒脳開竅法の変法を実施。
   ②体調を整えるために七星針法を実施。
経過 治療直後効果は良好。力が入り易くなるとのこと。その後、現代医学の治療の補助として継続治療中。

4 その他(PD、術後)

△50代男性
主訴 声が出ない、字が小さくなる
病歴 7年前よりPD。最近声の小さいのが気になる。
検査 自力歩行可能。声量が少なく、書字はだんだん小さくなってしまう。
診断 東洋医学:顫病
   現代医学(参考):パーキンソン病(PD)
治療 ①顫病に対して醒脳開竅法の変法を実施。
   ②体調を整えるために七星針法を実施。
経過 治療直後に声量アップ。二回目の治療後からは書字も改善。現在は体調の具合でスポット的に通院。

△50代男性
主訴 動作が緩慢
病歴 7か月前に脳腫瘍の手術をした。それから動作が緩慢になり、左手が震える。
検査 左手に震えあり、左小指が一番震えが強い。
診断 東洋医学:顫病
   現代医学(参考):脳腫瘍手術後遺症
治療 ①顫病に対して醒脳開竅法の変法を実施。
   ②頭部に頭針パルスを実施。
   ③体調を整えるために七星針法を実施。
経過 3回の治療で指の震えは軽減。その後、体調管理を含め定期的に通院。

東洋医学という選択肢

現代医学も東洋医学も上手く使えたらいい

 ALSやMND、CVD、CIDPなど現代医学での治療方法がパッとしないから東洋医学を使う・・・ではなく、本当は、どんな病気や症状でも、両方を上手く使ってもらいたいんです。
 どちらの医学が優れているとかいないとか、古いとか新しいとか、そう言う話じゃないんです。
 どちらの医学も使い手が悪ければ上手く使えないし、使い手が良ければ上手に使いこなすと思うんです。先入観で決めつけるには、もったいなさすぎます。
 それぞれに医学に得意なことも、不得意なこともあります。ある事柄だけを取り上げて、上手く出来る方が優れていて、出来なかった方はダメという考え方は、あまりにも短絡的すぎます。

簡単な話では無いかも知れないが考えてもらいたい

 現代医学が主流の現代で、東洋医学を取り入れろと言うのは、もしかしたら、とても難しい話なのかもしれません。
 現代を生きている私達には、東洋医学や東洋哲学は馴染みが薄いです。でも、現代医学が進めば進むほど、東洋医学的な理論や治療が、より必要になると私は思っています。
 現代医学と東洋医学は、その考え方が真逆と言っていいほど違いがあります。現代医学は、その原因や機序を細胞や遺伝子といった、体を構成している最小単位に求めています。それに対して東洋医学は、その原因や機序を体全体のバランスや季節との関係、はたまた宇宙との関係まで広げて、人が関わっていると思われる最大要素に求めています。
 その理論背景が真逆だからこそ、不足を補い合えるのではないかと思うのです。この拙い文章を読んだのをきっかけに、少しでも東洋医学と現代医学、はたまた鍼灸治療を上手く取り入れて生活に、治療に生かしてもらえたら幸いです。

東洋医学という選択肢

治るとは何?

 「病気になる前の状態になること」が一般的に言うところの治ると言う事でしょうか。ちょっと屁理屈じみてしまいますが、時間が進んでいる以上は、過去と同じ状態には決してなりません。また、病気が体調の悪い変化なら、近視は病気でしょうか?老化は病気でしょうか?

残念ながら人は必ず死ぬ

 人間は生きている上で100%必ず起こることが一つだけあります。それは死ぬことです。大きな病名が目の前に現れた時、「どうせ・・・」という気持ちになるのは分かります。でも、今生まれてきた赤ちゃんでさえ、どうせ死にます。こんな話は確かに屁理屈です。でも本当の話です。

大事なのは病気を治すことだけでは無い

 病気を治す、症状を改善させる、ということは非常に大切なことです。私もどうにかするために必死に勉強してきましたし、頑張ってきました。でも、何のためにやっている事でしょうか。何のために治療しているのでしょうか。今の自分にとって何が大切なことでしょうか。

どう生きるか、今を生きることを考えて欲しい

 結局、私には何が正しいのか、何をした方が良いのか、どうしたら良いのか、正解は分かりません。今までたくさんの患者さんと接してきて、私なりに悩んできて、今の私が言えることは、
「今、このときを生きて欲しい」
 という事です。別に頑張んなくたってイイです。頑張ったってイイです。私自身の理想は、生まれてきた時には自分は泣いて周囲は笑っていたと思うので、死ぬ時は自分は笑って周囲は泣いてもらえたらイイって、そんな終わり方が迎えられるような人生を歩めたらいいなと思いますが、どんなんでもいいから、今を生きて、生きて欲しいです。

東洋医学という選択肢

いろいろな情報が集まっている

 当院にはたくさんのMNDやALSやCVDなどの患者さんがいらっしゃいますが、患者さんによって症状の出かたや進行が違うため、ひとりひとりにいろいろと話を聞かせてもらってから治療をしています。このような治療の仕方なので、いろいろと話しているうちに様々な情報が集まりました。
 この手の病気は、なかなか患者さん同士での交流は難しいので、私を通して情報交換できれば良いなぁと思っています。

必要に応じて情報交換

 基本的には、私が教えるというスタンスでは無く、お互いに情報を交換するというスタンスです。
 東洋医学的な部分については、私から必要に応じて必要な話しをしますが、それ以外の話の方が、もしかしたら大事なのかもしれないと思っていますので、聞きたい事や知りたい事は、聞いてみてください。
 知っている範囲ですがお話しします。

自分で取り組む、気功、マクロビ、瞑想などのやり方

 私自身も中国武術や気功、マクロビオティックや瞑想などをやっているので、ちょっとした事にはお答えできます。一から教えるのは時間的に難しいので、基本的にはどこかで習ってもらうなり、本を読んでもらうなりして、自己学習で身に付けましょう。
 ものごとを新しく身に付ける時には、ちょっとしたポイントだったり、コツのようなものがとても重要です。実際にやりだすと疑問も出てきますので、その時には遠慮なく聞いて下さい。

うんち座りとアッカンベー

 これはALSの可能性がある患者さんだけですが、この「うんち座り」と「アッカンベー」の二点だけは騙されたと思って、必ず毎日やって下さい。
 具体的なやり方は、直接説明しますが、これをやったからと言って悪いことは無いし、大して時間もかからないし、副作用も無いので、とにかくやってください。お願いします。

東洋医学という選択肢

眼は口ほどに物を言う

 当院では、一般的な東洋医学的診察である、脈診や舌診、あるいは腹診など以外に、白目と黒目から体質を診断しています。
 元々弱い体質だとか、甘い物の食べ過ぎだとか、皆さんが思っているよりも、たくさんの情報が目に現れています。まさに、「目は口ほどに物を言う」です(笑)。

虹彩は生まれつきの体質、今までの生活による変化などが出る

 黒目の部分を虹彩と言いますが、虹彩は生まれつきの体質だったり、今までの生活から起こっている体の変化を反映していると言われています。ですので、虹彩には子供の頃の病気や数年前の大きな体調変化も現れることが知られているので、基礎的な治療方針を立てるのに非常に役に立ちます。

年単位で変化する

 もし、虹彩に良くないサインが出ていると、これは体質の問題に近いので改善するのも少し時間がかかります。
 一般的には、虹彩が変化するには数年かかると言われていて、食事や運動などの基本的な生活習慣から考えてゆく必要があります。

スクレラは比較的最近の体調の変化が出る

 白目の部分をスクレラと言います。虹彩もスクレラも今までの生活から起こっている体の変化を反映すると言う点では同じですが、反映される時間的な期間が違います。
 虹彩は生まれてから今までの状態を反映していると言えますが、スクレラはここ数カ月の変化が強く反映されると言われています。

数ヶ月単位で変化する

 ですので、虹彩とは違いスクレラでは、数ヶ月単位で変化すると言われています。実際、スクレラの変化は早く、分かり易いので、自分自身での体調管理のデータとしても利用できるのではないかと思います。

東洋医学という選択肢

心臓の湯と言われる

 ヨーロッパでは、炭酸温泉は「心臓の湯」と言われて、心臓や血管に関係するような病気に効果があると言われています。例えば動脈硬化による血行障害が改善すると言う報告や、血圧が下がり心拍数が下がるという報告もあります。

血流を上げることは大事

 平たく言えば、血行が良くなると言う事ですから、MNDでもALSでもCVDでもCIDPでも使って損は無いはずです。
 特にCVDは「脳血管障害」ですから血管にその病気の中心があります。動脈硬化による血行障害が改善すると言う報告からも、CVDでは使った方が良さそうです。

足の冷えが取れる

 MNDやALSでは筋肉の萎縮から極端な血行障害による冷えが、特に冬場になると問題になります。炭酸足浴をしておくと体温まで上がることが分かっていますし、続けることによって良い血行状態になり易くなるようです。

他にも良い作用が…

 心臓や血管、血流に関係するもの以外にも、運動の補助になるのではないかとも言われています。
 これは、炭酸温泉に入ることで運動した時などに作られるHSP(ヒートショックプロテイン)が作られることも分かっていて、このHSPは自己免疫力にも関与していることからも、炭酸足浴をすることは、非常に有用な可能性があると思います。

東洋医学という選択肢

体を助ける補益薬を

 脳や神経に関係する病気では、治療で最も問題になるのが「体力」です。
 どんなに鍼灸で刺激をしても、体力が無くては上手くいきませんし、そもそも体力が無い人には強い鍼灸はできません。
 そこを助けてくれるのが漢方薬です。その中でも体を助けるジャンルのものを「補益薬」と言い、いろいろな種類があります。

ALSやMNDには亀鹿二仙膠・地黄飲子、CVDには亀鹿二仙膠・補陽還五湯など

 亀鹿二仙膠の効能は、温陽益気・填陰補精と専門的には言います。これは簡単に言えば全身的な虚弱によって出てくる症状に良い、と言うことなんですが、進行性の病気や脳や神経系の病気に良いとも解釈できます。これらの病気は出ている症状があたかも弱っているように見える、もしくは本当に弱っているからで、成書にも「慢性に経過する虚弱症候、とくに神経筋疾患などに有効である」とあります。
 地黄飲子の主治は、瘖痱証とあります。瘖痱証とは、「手足がうまく動かず痛くないものでうまく話せなくなったもの」と古典にありますが、これはALSやMNDに近い症状です。
 補陽還五湯の主治は、中風後遺症とあります。中風とはCVDのことですが、更に気虚血瘀の状態に使うとあります。簡単に言えばCVD後遺症で元気が無くて血行が悪い時に使うと言うことです。(参考書籍:中医臨床のための方剤学、神戸中医学研究会編著、医歯薬出版株式会社)

病気に対してではなく、体調から判断して漢方薬は決める

 実際は、病名で漢方薬を選ぶ訳ではないので、体調や症状を考慮して選ぶことになります。ここは非常に重要で、今自分の体では何が起こっていて、それを改善するためには何が必要なのかと言う事を、東洋医学的に考えて漢方薬を決めないと上手く効かないどころか副作用の危険も大きくなってしまいます。
注意:2013.10現在、当院での漢方薬お取り扱いはございません。漢方薬服用に関するご相談か、漢方内科をご紹介しております。

東洋医学という選択肢

醒脳開竅法とは

 天津中医薬大学第一附属医院(以下一附院)の名誉院長である石学敏先生が考案したCVDの治療のために作られた治療方法です。鍼灸治療が中心にあり、それ以外にも漢方薬・食養生・リハビリなどの治療に及び、東洋医学の治療法を大きく取りいれた治療システムです。
 一附院では既に、40年ほど臨床運用されていて、中国の国内外を問わず、たくさんの医師を輩出し、アメリカでは映画で取り上げられたこともあり、欧米でも非常に知られた治療方法です。日本でも30年以上前に伝わっていますが、残念ながら医療システムの違いなどからあまり一般的には知られていません。
 当院長は、一附院で一定期間の研修と臨床経験がある医師が受験できる試験に合格し、日本人では数少ない醒脳開竅針刺法の認定をもらっている一人です。

動きが悪い部分の動きを出す

 動きが悪いのは、①動かすための筋肉が動かない。か、②その筋肉に拮抗する筋肉が緊張しすぎている。のどちらかです。
 物をつかむ時、握力そのものが無ければつかめません。これが①の状態。指を開く筋肉の緊張が高すぎると指を開く方にずっと引っ張られている事になるのでつかみづらくなります。これが②の状態。醒脳開竅法ではこれを同時に治療します。

強く経絡を通すことで力が入り易くなる

 私は臨床では「後ろ回し蹴りを食らわせて動かすようにする」と言ってますが(笑)、神経回路が器質的には存在しても、機能的に上手く使えなくなっている時に使う治療法です。いくつかのやり方がありますが、醒脳開竅法の特徴と言えます。

嚥下障害や構語障害には舌や喉の筋肉、また関係する神経に刺激

 嚥下障害や構語障害には一定の治療効果が出ることが多いですが、この二者を比べると嚥下障害には非常に良い効果が見られることが多いです。むせる回数が減ったり、飲み込みやすくなったりということは良く起こります。それに対して構語障害は改善傾向になることは多いのですが、言葉は一回使いづらくなると使わなくなってしまうせいか、あるいは言葉を話すと言う事自体がものすごく複雑だからなのか、思ったように回復してゆかない事が多いです。
 ただ、どちらも良い効果が期待できることが多いので、これも醒脳開竅法の特徴と言えます。

東洋医学と現代医学の知識を併用して治療

 醒脳開竅法の最大の利点は現代医学と東洋医学の両方の理論を元に作られ、東洋医学的にも現代医学的にも治療の説明がある程度までできるところにあります。逆に言うと、醒脳開竅法は現代医学的な診断からでも、東洋医学的な診断からでも治療に使う事ができると言う事です。
 その様な治療方法なので、それを使う鍼灸師にも症状に対して東洋医学的にも現代医学的にも理解している事が求められます。全てとは言いませんが、当然当院でも説明できます。
 醒脳開竅法を理解し、運用している当院だからこそ、CVDのみだけではなく、MNDやALS、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(以下CIDP)やパーキンソン病(以下PD)にも応用することができます。

巨針療法とは

 元々は、中国の先生がご子息の脳性麻痺を改善するために考案した治療方法と言われていて、日本では大阪の新城三六先生が第一人者です。
 醒脳開竅法では神経に対して強くアプローチしますが、巨針療法は筋肉に対して強くアプローチするため、この二者をうまく組み合わせて使うと非常に良い治療効果が得られる実感があります。

長い鍼を経絡に沿って刺すことで動きが良くなる

 巨針療法は、特殊な長い鍼を使い、経絡を一気に通す治療をします。それによって経絡の流れが良くなり、体の動きも良くなります。また、痛みなども改善します。
 醒脳開竅法でも経絡に沿って鍼を打つ「排刺」という方法がありますが、排刺とは違った作用があり、これらをうまく組み合わせて使う事で、脳や神経の病気に幅広く対応することができます。

頭鍼パルスとは

 頭に鍼をする事を「頭皮鍼」と言いますが、頭に鍼を刺して、その刺した鍼に低周波の電気を流します。それによって、脳の血流改善を目指す方法です。
 現代医学的にも、頭部への外部からの刺激は、頭蓋骨を貫通している静脈を介して脳内へ影響することが分かっていて、脳の局所的な血流改善や刺激になると考えています。

神経パルスとは

 手足を動かす末梢神経のそばに鍼を打ち、そこに低周波の電気を流すものです。
 これは、神経を介して筋肉低下を改善させる目的で当院では使用していますが、筋肉が大きく動いたり、比較的に刺激が強い傾向があるので、適応を見極めて使用することになります。

東洋医学という選択肢

脳病に特化した診断と治療《脳病六綱》

 脳や神経に鍼灸治療が良いと考えるからには、それに特化した診断や治療があるべきです。今までの経験や、先生方の考えを参考に《脳病六綱》という診断方法を制定し、診断に沿った治療方法を定めて治療にあたっています。
 具体的には、脳や神経の病気を①静躁、②精神、③清濁で分類します。
 (1)は病気の動きを診ます。静証とは症状が静かなこと、例えば一般的な脳梗塞などです。躁証とは症状が動くこと、例えばパーキンソン病などです。
 (2)は病気の場所を診ます。精証とは病が精髄にあることで、老化によって起こるものなどです。神証とは病が脳神にあることで、一過性に起こるものなどです。
 (3)は病気の性質を診ます。清証とは元気が足りないことで、濁証とは排泄がうまくいっていないことです。
 これらのような基準で、まず脳や神経の病気の特徴をとらえて治療の大方針にします。この《脳病六綱》は当院独自の方法で、この《脳病六綱》をしっかり把握することで鍼灸治療だけではなく、漢方薬や食事療法など、他の治療方法をどのように組み込んでゆくのかを考えられるようになります。

経絡臓腑のバランスを取る《七星鍼法》

 大阪の新城三六先生が考案された治療理論です。
 人体も宇宙から影響を受けており、太陽系の惑星配列と人体の経絡臓腑には何らかの関係がある。という仮説から考えられたものですが、新城先生の30年以上に及ぶ長い臨床経験を通して、その理論体系は裏付けられており、また、たくさんの鍼灸師がその理論を元に治療を行い、理論の正当性を実感しています。
 要は、「この理論を理解して鍼灸治療をすると良く効く」ということです(笑)。

鍼灸は痺厥痴癱が得意

 中国の言葉に、「内科は風喘鼓噎、婦人科は経帯胎産、小児科は麻痘驚疳、針灸は痺厥痴癱」というものがあります。
 鍼灸が得意な症状は、「痺」つまり痛みのある症状のこと。「厥」つまり意識を失うような症状のこと。「痴」つまり痴呆症状のこと。「癱」つまり麻痺、半身麻痺の症状のことです。どれも、現代で考えると脳や神経に関係する症状です。
 鍼灸院で全てに対応できる訳ではありませんが、脳や神経に特化した大学病院で研修を続け、運動ニューロン病(以下MND)や筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)、脳血管障害(以下CVD)などの病気をたくさん診て、患者さんと共に治療に取り組んできた当院だからできる治療があると思っています。

東洋医学という選択肢

5-1 針灸治療によって身体・内臓のバランスを取る
5-2 特殊鍼灸治療で身体機能を引き上げる
5-3 漢方薬によって身体を助ける
5-4 炭酸足浴で循環を上げる
5-5 虹彩・スクレラで体質を知る
5-6 診療で情報交換・情報提供する
5-7 今を生きて欲しい—皆さんに伝えたい事

内分泌疾患

糖尿病の概要

糖尿病は、常見される代謝内分泌病の一つで、原発性と続発性の二種類に分けられます。

糖尿病は中医では消渇病と呼ばれ、“上消”、“中消”、“下消”に分けられます。しかし臨床上では症状が重なる事が多く、しっかりと区分けする事は難しいです。よって“三消”あるいは“消渇”と、まとめて呼ばれます。

中医と現代医学の本病の病因に対する認識は、比較的近いものがあります。中医学では、長期間に及ぶ油っぽいもの、甘いもの、酒、味の濃いものの食べ過ぎ、辛く刺激が強い食べ物、セックス、労働、感情、薬害などによって、湿熱或いは燥熱内盛が引き起こされ、肺、脾、腎陰が足りなくなり、布津、受納、運化、滋潤の作用が失調して消渇が出現すると認識しています。現代医学では、本病の発生とインスリンの絶対或いは相対的分泌不足によって引き起こされた代謝異常に関係があると認識しています。その病理変化は糖類、たんぱく質、脂肪、水及び電解質などの代謝異常で、重大な失調では酸塩基平衡失調、ケトアシドーシス、高浸透圧昏睡、乳酸アシドーシスによって生命を脅かします。また、簡単に化膿性感染、尿路感染などが発生します。病気が長期に及ぶと、よく心脳血管、腎、眼および神経病変を併発します。

針刺治療は本病の有効な治療方法の一つです。本病の治療過程では、腎虚が発病の主な理論となることに重点を置きます。腎の陰陽調整を中心に制定し、五臓の調整を補助の治療方案とすることで、臨床では満足な治療効果を得る事が出来ます。

症状

(1)陽消証(陰虚内熱):
煩渇引飲・消穀善飢・小便頻数、或いは混濁如膏・形体消痩、或いは大便秘結・腰膝酸軟・頭昏・耳鳴、舌紅少苔・脈細或いは滑。

(2)陰消証(気虚陽衰):
口渇引飲、或いは飲而渇不解・多食、或いは飲食減少・小便頻数或いは混濁如脂膏・神疲乏力・畏寒肢冷或いは面黒耳焦、舌淡苔白而乾・脈細無力。

鑑別

糖尿病は、代謝内分泌疾病に属します。しかし多くの疾病が糖尿病で見られる多くの症状、所見と近いものが見られます。よって糖尿病の治療を進める時には、しっかり鑑別診断をしなければいけません。

(1)非ブドウ糖尿:
例えば乳糖尿は乳児或いは妊婦或いは幼児に見られます。果糖及びペントースは大量の果物を食べた後に見られることがあり、非常に稀な先天性疾患です。尿糖に陽性反応が見られた時は、臨床状況を分析判断するべきで、すぐに糖尿病を肯定するべきではありません。

(2)非糖尿病性ブドウ糖尿:
1)飢餓性糖尿:飢餓状態になった時、後日突然大量の糖類食物を取ると、インスリンの分泌が一時的に適応できなくなり、糖尿及びブドウ耐糖能の低減が起こります。鑑別の際は病情分析に注意し、飲食・食事総量に注意します。並びに空腹時血糖は正常か酷い場合は低下傾向になります。必要な時は毎日250g以上糖類を補給し、3日後に耐糖能試験を再度行なう事で明確に診断する事ができます。
2)食後糖尿:糖尿が大量に糖類食物を食べた後或いは急速に吸収した場合に発生します。但し血糖及び耐糖能試験は正常です。
3)腎性糖尿:尿細管の糖再吸収能力減少によって腎糖閾値が低下し、血糖は正常で尿糖が見られます。腎機能状況から区別することが出来ます。
4)妊娠性糖尿:少数の妊娠期の女性に見られ、一過性腎糖閾値の低下が起こった際に尿糖が見られます。産後に再検査すれば鑑別することが出来ます。
5)神経性糖尿:脳出血・脳腫瘍・頭蓋骨骨折・窒素・麻酔時に血糖が一過性に高くなり尿糖が伴うことがあります。病情から鑑別する事ができます。
6)甲状腺機能亢進:甲状腺機能亢進時、体重は明確に減少します。これは過度の甲状腺ホルモンによって腸蠕動が興奮状態になり大便の回数が増加することがあります。これは時によって脂肪吸収不良から脂肪痢が起こることによります。同時に心血管系統および眼球突出・眼振・甲状腺血管雑音が聴取されます。糖尿病の体重減少と区別する必要があります。

鍼灸治療

(1)治則:
陰虚内熱型、益陰瀉熱(陰分を補い、熱を瀉す)。
気虚陽衰型、温陽益気(陽気を温め、気を補う)。

(2)配方:省略
(3)操作:省略

(4)治療頻度・期間:
初期:
経穴刺法を毎日1~2回、その他の刺法は毎日1回。1ヶ月以内は間隔を空けてはいけません。1ヶ月以降、症状の改善が見られてきたら、経穴刺法は毎日或いは隔日1回、その他の刺法は隔日或いは毎週2回に変更します。治療期間は一般的には1~2ヶ月です。

安定期:
経穴刺法は隔日1回、その他の刺法は毎週2回。治療期間は一般的には3~6ヶ月です。

(治療頻度や治療期間は、理想的には上記ですが、一般的には、初期の場合は、治療頻度は週2・3回で、治療期間は症状が改善するまで行ないます。また、安定期で症状のコントロールを目的とした場合には、週1・2回の治療を3~6ヶ月の長期間行ないます。)

治療理論

糖尿病、中医学では“消渇”の範疇に帰属し、臨床多発病の一つです。糖尿病、非インスリン依存型糖尿病は針灸治療の比較的良い適応症の一つです。長年の臨床実践と研究を通して、私達は非インスリン依存型糖尿病の針刺治療は明確な膵頭機能の調整、体内の代謝状況の改善が出来ると認識しており、病情を一定程度緩解させます。

糖尿病の発生は飲食不節、禀賦不足(先天性の力不足)、労欲過度などによって引き起こされた燥熱内盛で、肺、脾、胃、腎陰虧虚が布津、受納、運化、滋潤功能に失調をきたし、陽消の証に到ります。その中で臓腑陰虧は本で、燥熱は標です。燥熱が盛んになると陰液は益々足りなくなり、陰液が足りなくなると燥熱は益々盛んになります。長期間に及ぶ陰病は陽に及び、気虚陽衰の消渇である陰消の証に到ります。消渇は肺、脾、腎のいずれかにありますが、常にお互いに影響しあい、ついには数個の臓腑病変が同時に出現します。腎は陰陽の根で、腎虚はよく肺、脾の輸布、運化功能に不利な影響を与えます。腎陰虚即ち虚火内生は心肺及び脾胃を灼傷し陰消を形成させます。腎陽虚即ち陰寒内生は火不暖土を形成し、陽消を激しくします。それは、上、中、下三消の肺、脾、腎三臓中で腎がその根本だからです。

本方配穴によって調理腎陰腎陽を以って十分な治療効果を収めています。針灸の作用を通して、患者体内の輸布、運化などの功能は改善され、病情を制御、緩解させ、糖尿病治療の目的を達成する事ができます。

呼吸器疾患

気管支喘息の概要

喘息は気管支拡張、慢性気管支炎、肺感染症、リウマチ性心臓病、心拍動力減退などの疾病から引き起こされる重要な臨床症状の一つです。

中医学では、哮は音のある症状、喘は音の無い症状としています。古医籍の中では一般的に哮喘は分けて論述されていますが、その病因病機の大部分は同じである事から、後代の医家は哮喘を併せて論じています。哮喘は突発性の発作とあえぎ呼吸が起こります。のどから喘鳴があることが臨床特徴である肺疾患です。本病は一年四季を通して発生し、老若男女を問わず起こります。患者の多くは季候と環境の変化で発作が起こります。例えば天候が寒くなる、変わった匂いや味の刺激、情緒の変化、飲食の不摂生、過労などがどれも誘発原因となります。多くの患者の原因は平素から脾虚失運し水穀が精微に変化できない、宿痰が長期に渡って内伏している、などに加えて外邪を感受した時です。発病の初期は邪気偏盛で気鬱血滞を起こし、哮喘は反復性の激しいところが特徴です。病程が長くなると、肺腎皆虚となり、摂納失司が起こります。それゆえ、哮喘の発作は、肺、腎、脾の三臓と密接な関係があります。

哮喘治療の過程で、本病の病因病機は本虚標実証の特徴があり、且つ本虚がその主体である点に注目しました。それゆえ治療時には扶陽固本、扶正去邪に重点を置くことで良好な効果を納めることが出来ます。

症状

始めは鼻のどの痒み、クシャミ、鼻水、せき、胸苦しさなどの前兆症状が見られ、突発性に胸苦しさが増悪し、息苦しくなり、呼吸困難が発生します。呼気が延長し、両肺に喘鳴音が出現し、口を開けて肩で息をし、イライラして汗をかき、顏色は暗く紫がかり、唇は青紫になり、四肢末端は冷たくなります。一部の咳喘は痰が多く見られ、痰は病気の時期によって白くさらさらしているものや黄色く粘るものなど一定しません。

一般的には数分間、数時間継続し、十二時間を越え哮喘が持続状態にあると、呼吸不全の症状のため、顔面蒼白や、大汗、四肢が極端に冷たくなる、四肢末端が紫色になる、心拍動が極端に早くなる、喘息で横になれない、などが見られます。

鑑別

(1)肺感染症
悪寒発熱、頭痛胸悶、胸痛、食欲不振、呼吸促進、鼻水、咽喉の痒み、痰のある咳嗽、血液生検にて白血球値の上昇、X線検査にて肺部に炎症所見が見られます。

(2)肺気腫
長期に渡り咳、哮喘などの症状があり、且つ長期に渡り症状が緩解しない病歴を持ちます。咳嗽の際、同時に胸部が膨満し、空咳があり、イライラし、顔面は暗く紫がかり、全身に浮腫が見られ、病情は酷くは無いのですが良くなりません。X線検査では肺気腫を確認できます。

(3)肺癌
肺癌の末期には喘息、咳嗽、喀血、呼吸切迫などの症状が見られ、併せて明確に悪性病変が見られます。細胞検査や胸部X線及び胸部CT検査にて確定診断が出来ます。

鍼灸治療

(1)治則:
宣肺散邪、固腎宣気(肺を宣発させ邪気を散らす、腎をしっかりさせ気を宣発させる)

(2)配方:省略
(3)操作:省略

(4)治療頻度・期間:
毎日2回、15日を1療程とします。

(治療頻度や治療期間は、理想的には上記ですが、一般的には、治療頻度は週2・3回で、治療期間は症状が改善するまで行ないます。また、予防や症状のコントロールを目的とした場合には、週1回もしくは2週間に1回の治療を長期間行ないます。)

治療理論

哮喘の多くは風寒、鬱熱、痰湿が長期に渡り壅阻肺気されたもの、肺失粛降から逆気し喘が起こるもの、肺、脾、腎の三臓が関係するもの、哮喘が長期に渡って治癒せず肺腎が共に虚し摂納失司に至ったものです。反復発作を起こしている病人は、その発作期では多くは邪気偏盛、気鬱血滞であり、本虚標実の証です。哮喘が反復発作を起こし、病程が長い場合の特徴は、邪実正虚で、治療では虚実を考慮し、補瀉を共に行い、補虚瀉実を施します。哮喘の病人は長期に渡ると、腎気を損傷しするので、固本納気を考慮し、更に健胃益気、資生化源も考え治療にあたります。この配方は去邪をしますが生気を傷つけず、標本兼顧の作用があります。

哮喘病の治療において、この治療方法を応用し、絶大な数の病人が哮喘から早期に緩解し、肺部のラ音も明確に軽減或いは消失しています。長年の臨床実践を通してこの治療方法はとても優れている事が証明されています。

消化器疾患

習慣性便秘の概要

便秘は大便が滞り固くなり出なくなることを言います。通常は器質性と機能性の二種類に分類されます。本節では習慣性便秘、老年性便秘、体質虚弱性便秘を中心に紹介してゆきます。

中医学と現代医学では、本病の病因の認識は比較的近いものがあります。中医学では、本病の多くは脾胃失運と大腸伝導失司によるものとされ、併せて飲食や疲労、老年性の津液不足、慢性病による虚弱体質など多くの要素が関係しています。現代医学では、本病は継続的な良くない飲食習慣、生活習慣によって起こるとされ、腹筋、肛門挙筋及び腸壁平滑筋の収縮力減弱によって形成されます。

針刺治療は腸の蠕動運動を促進させたり、直腸の収縮力を増加させたりする効果は顕著です。ゆえに、針刺は便秘治療の有効な方法の一つとされています。便秘治療の過程では、腑気不通、伝導失司の発病理論に注意します。宣通腑気を治療方針とし、伝導の治療方法を補助とすることで、臨床では理想的な効果を納めることが出来ます。

症状

糞便は乾燥し固くなる、排便時に力を費やす、或いは力を入れなくても排出する、甚だしい場合は糞便がウサギの糞のようになります。固い糞塊を力を入れて排出することで、肛門に疼痛、亀裂が引き起こされ、甚だしい時には痔瘡が引き起こされます。よく、腹痛、腹が張る、吐き気、食欲減弱、疲労と無力感を伴います。

鑑別

習慣性、体質虚弱性、老年性便秘は便秘の中で比較的よく見られる種類のものです。そして特定の疾病でも便秘特有の症状が出現します。これらはしっかり鑑別する必要があります。

(1)直腸と肛門の病変:
その排便困難は、直腸炎、痔瘡、切れ痔、肛門周囲膿腫によって肛門の疼痛や痙攣が引き起こされます。鑑別の要素にしなければなりません。

(2)結腸病変:
結腸の良・悪性腫瘤、腸梗塞、腸癒着、先天性巨結腸症などによって、糞便を推し進める機構が影響され、便秘を形成します。本病と鑑別する必要があります。

(3)内分泌、代謝障害性疾病:
副甲状腺機能亢進時は、腸の筋肉は弛緩し、緊張力が低下します。甲状腺機能減退時は、腸の蠕動力が減弱します。尿崩症では脱水が起こります。糖尿病と合併して神経病変が起こった時便秘が出現します。もし便秘症状が上述の疾病の後に起こったら、該当する疾病の診断をしなければなりません。

(4)神経系統疾病:
もし脊髄損傷、多発性神経根炎などが腸の支配神経に影響を及ぼした場合、便秘が発生します。特殊な原発病には注意が必要です。本節で紹介する便秘との鑑別は難しくありません。

鍼灸治療

(1)治療方針:
疏通脾胃、通便伝導。(胃腸のとおりを良くし、大便を出す)

(2)配方:省略
(3)操作:省略

(4)治療頻度・期間:
針灸は毎日2回、耳針は毎日1回、便秘の治療期間は1ヶ月ほどです。

(治療頻度や治療期間は、理想的には上記ですが、一般的には、治療頻度は週2・3回で、治療期間は症状が改善するまで行ないます。また、予防や症状のコントロールを目的とした場合には、週1回もしくは2週間に1回の治療を長期間行ないます。)

治療理論

便秘は中医学では“脾約”、“大便難”の範疇に属し、臨床で比較的多く見る病種の一つです。長期間に及ぶ臨床研究を通して、以下のことが知られています。

針刺は、陰陽の調節を通して排便させることが出来ます。具体的には、針刺は腸蠕動を明確に増加させ、大脳皮質と腰仙部脊髄内の低級中枢に対して排便反射の調整を増強させます。腹筋、肛門挙筋、結腸平滑筋の緊張性を高め、しかも逐次胃腸平滑筋の運動障害を改善します。よって腸内廃棄物の排泄作用を加速させます。

本病の鍵は腑気不通、伝導失司にあり、治療は足陽明胃、足太陰脾と足少陰腎にあるとしています。各穴を取ることで、脾胃機能を調節し、三焦気機宣通の作用があり、三焦が通利され、脾胃の運化功能が正常なら大腸腑気は通調され、便結は自解されます。ゆえに便秘に用いる事ができます。

消化器疾患

慢性胃炎の概要

慢性胃炎は、浅表性胃炎や萎縮性胃炎や肥厚性胃炎を含みます。本節では慢性胃炎から引き起こされる胃カン痛の針灸治療に重点を置いて紹介します。

中医と現代医学の病因に対する基本的な認識は一致しています。中医学では、本病は飲食傷胃、肝気犯胃、脾胃虚弱によって引き起こされると考えています。現代医学では、多くの原因から引き起こされると考えられています。例えば長期間の刺激性の飲食物摂取・薬物服、口腔咽喉部の慢性炎症などです。

高次脳機能が錯乱した時、胃神経に対する求心性調節は減退し、胃粘膜の保護機能は低下し栄養障害になり、慢性炎症に至ります。或いは、胆汁の逆流によって胃粘膜障壁が破壊されます。或いは、免疫素因によって、それは恐らく萎縮性胃炎の重要な原因です。その病理所見は、浅表性胃炎では胃粘膜の充血、水腫があり、併せて滲出、びらんなどの特徴があります。萎縮性胃炎では胃粘膜が暗灰色を呈し、粘膜は薄くなり、粘膜下静脈を見ることが出来る特徴があります。肥厚性胃炎では、胃粘膜の粗雑化、肥厚、充血、水腫及び滲出が主要な病理変化です。

症状

本病は、臨床上特異的な症状が見られません。一般的によく見られる症状は、食後の上腹部疼痛です。疼痛以外では、食欲不振、悪心、腹脹およびゲップが併せて見られ、慢性萎縮性胃炎では前述の症状以外に、併せて疲労感、痩せ、貧血、下痢、舌淡、爪甲脆弱などが見られます。慢性肥厚性胃炎では消化器潰瘍の臨床特徴に類似したものがあり、併せて上部食道出血が見られることがあります。

鑑別

慢性胃炎の症状と、その他の疾病は類似したところがあります。例えば消化器潰瘍、胃癌及び神経性胃腸障害です。臨床上では誤治の発生を防ぎ、しっかり鑑別をする必要があります。

(1)消化器潰瘍:
この疾病の症状と慢性肥厚性胃炎は似ていて、食後の疼痛があります。しかし、消化器潰瘍の疼痛は一定周期で規律性があります。且つ胃カメラとX線検査でも二者の区別がつきます。

(2)胃癌:
幽門部に炎症が発生した時、幽門部が狭窄してX線検査で容易に幽門癌と誤り易いため、胃カメラや胃粘膜の生化学検査を用いて鑑別診断を進めます。萎縮性胃炎の時は、痩せ、食欲低下、貧血、及び胃酸欠乏などを伴い胃癌の症状と似ています。これもX線や胃カメラの検査によって鑑別をする必要があります。

(3)神経性胃腸障害:
慢性胃炎が、もし神経性症状を伴う時、神経性胃腸障害との鑑別は最も難しくなります。胃カメラや胃粘膜生化学検査によって鑑別を行ないます。神経性胃腸障害では、胃カメラ及び胃粘膜生化学検査では病理変化は見られません。

鍼灸治療

(1)治則:
健脾養胃、化オ止痛(胃腸機能を健やかにする、血行改善し痛みを止める)

(2)配方:省略
(3)操作:省略

(4)治療頻度・期間:
毎日針刺2回、二組を午前午後に各一組使用、10日を1療程とします。連続3~5療程治療します。

(理想的には上記ですが、一般的には、治療頻度は週2・3回で、治療期間は症状が改善するまで行ないます。また、予防や症状のコントロールを目的とした場合には、週一回もしくは二週間に一回の治療を長期間行ないます。)

治療理論

本病は慢性病、かつ胃カン痛の範疇です。病程が比較的長く、胃腸病の中では比較的多く見られます。主に飲食傷胃、心情不舒、脾胃虚弱から引き起こされます。或いは五味の味付けが極端、辛過ぎる、油っぽい、飲酒が過ぎるなどから蘊湿生熱、傷脾碍胃、気機壅滞、カン悶脹痛を引き起こします。本病の早期では実証で日が経つにつれ脾胃を損傷して多くは虚証になります。

本病の治療は、健脾養胃、化オ止痛を主とします。本病の臨床での針灸利用効果は比較的良いですが、病程が長い場合は良く反復発作を起こします。もし、体調の管理・保護や生活の多方面に対して注意を強化しなければ、全快することは難しいです。

神経筋肉疾患

腰椎椎間板ヘルニアの概要

腰椎椎間板ヘルニアは、腰腿痛における主証で最もよく見られる整形外科疾患の一つです。20~50歳の青年によく見られ、男性の方が女性より多く見られます。本病は中医では腰腿痛の範疇になります。

本病は多くは、程度の差はあるものの外傷歴があります。年齢の増加により肝腎虧虚、気血失養となる、及び負担を絶えず受け続ける、引っ張られたり捻ったりして外力が加わる事により椎間板が徐々に変性し弾性が減少します。外力が働いた場合は容易に椎間板の繊維破裂や髓核の後外側突出を発生します。少数の患者は腰部に風寒を受けて腰部筋の筋肉痙攣を引き起こす事で椎間板内の内圧が上昇し退行性病変による椎間板ヘルニアを促してしまいます。腰椎の負荷や活動度は胸椎よりも大きく、第4・5腰椎、第1仙椎は全身の応力の中心で負荷も活動度も、より大きくなります。よって最も腰椎ヘルニアが引き起こされ易くなります。もし椎管内の髓核や繊維破裂片が神経根を圧迫していない時は、後縦靭帯のみの刺激となって腰痛が主体となります。もし、髓核が後外側に突出した場合は片側の腰腿痛を引き起こします。もし、後縦靭帯の完全破裂を伴い髓核が脊柱管中央に突出した場合は馬尾神経を圧迫し、馬尾神経領域の麻痺と大小便障害が出現します。少数の患者は繊維破裂部分が大きいが後縦靭帯が破裂せずに髓核が体位によって左右に移動することがあり、両下肢の交代性疼痛が起こることがあります。この病気は往々にして一定しない感覚障害を伴うことがあり、この点に注意する必要があります。

症状

本病の臨床症状は比較的複雑です。それは髓核の脱出する方向や部位によって、一定しない症状が引き起こされるためです。主要症状は腰腿痛、麻木、多くは大腿後面や下腿外側や踵に放散する下肢放散痛です。多くは、一側の腰腿の引きつりと痛みが起こります。

もし椎間板突出が比較的大きいか脊柱管の中央に起こった時は両側の下肢疼痛や麻木が見られ、咳嗽やクシャミや排便時に力んだ時に神経根を圧迫し症状が増悪します。歩行、中腰、首の前傾、膝を伸ばしながらの座り立ち、腹を突き出す、などの時に疼痛が増悪します。腰部の活動制限、腰椎の姿勢異常、跛行、症状が重い時は寝返りが出来ず、かがむ事も出来ません。膝を曲げて横になって休むと疼痛は軽減します。病程が長いと患側下肢の筋肉萎縮、下肢放散部位の感覚麻木が起こります。それ以外にもある患者は大便後に肛門に不潔な感じが残ります。

鑑別

椎間板ヘルニアは、典型的な症状や所見から基本的には確定診断が可能です。しかし、臨床上では下記腰部疾患との鑑別診断に注意が必要です。

(1)急性腰部筋膜、靭帯捻挫と小関節滑膜突出症:
これらの病は、どれも腰痛が激しく、腰部筋痙攣などから活動制限があり、同時に臀部や下肢に牽引性疼痛が見られます。この種の牽引性疼痛と腰椎椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛は実質的に違いがあります。椎間板ヘルニアでは突出物が直接神経根を圧迫し根性神経痛を引き起こし典型的な陽性所見が見られます。しかし、本病における腰部軟部組織神経の分布と坐骨神経は関連性があります。故に引き起こされるものは牽引性疼痛ですが臨床上では陽性所見に欠きます。大腿挙上テストは陽性、感覚や反射変化は無し、局部の圧痛部位をブロックすると痛みは消失します。

(2)慢性疲労性腰痛:
本病の病程は比較的長いですが症状は比較的軽いです。圧痛点は広範囲にあり、腰痛と疲労、休息、寒さと湿度には密接な関係があります。仙骨棘上筋の硬直と下肢放散性疼痛が見られ、休息やリハビリや推拿マッサージによっても治療できます。

(3)腰椎結核:
腰痛と坐骨神経痛が発生し、特に腰椎後縁と関節突起の結核は、乾酪様物が脊柱管に向かって突出したり、直接神経根を圧迫したりします。場合によっては、鑑別は困難ですが、結核は一般的に午後低熱、腰部硬直、体重の減少、無力、血沈加速、肺部に原発性病変が多く見られます。腰椎X線では間隙の変化が発現し、脊柱管の辺縁が曖昧になります。骨質破壊や寒性膿腫が起こり、腰椎小関節破壊も見られます。

(4)腰椎管狭窄症:
本病は神経根圧迫症状が引き起こされます。症状は馬尾神経障害による間歇跛行があり、歩行や走行によって症状が悪化します。横になったり腰を下ろすと症状が軽減します。X線では椎間板間隙の減少、関節突起が肥大して中心線に近づく、脊柱管の矢状面、水平面の径が狭くなります。必要に応じて脊柱管の造影、CTやMRIを用いて診断を明確にします。

(5)増生性脊柱炎:腰痛の項目を参照

(6)強直性脊柱炎:
リウマチの既往歴があり、腰背や仙腸関節に疼痛が見られ、脊柱が硬直し、脊柱の運動制限があり、症状は天気変化に関係が見られます。X線では、早期には仙腸関節と小関節が曖昧に写り、脊柱が竹のように変化して見えます。

(7)梨状筋症候群:
本病の主症状は梨状筋の損傷による筋痙攣や充血と水腫などから坐骨神経を圧迫します。或いは坐骨神経の解剖上の変異から引き起こされます。但し患者には腰痛が無く、腰部の陽性所見が見られません。主要症状は梨状筋局部の明確な圧痛或いは放散痛です。かつ、手を置くと筋肉の腫脹や痙攣が感じられます。局部にブロックをすると症状や所見はすぐに減弱もしくは消失します。

(8)坐骨神経炎:
本病は風、寒、湿及び薬物に関係があります。外傷歴が無く、持続性の腰痛があり、夜間になると悪化します。腰部検査は陽性所見がありません。活動や横になって休息した後に疼痛の変化はありません。

(9)婦人科及び泌尿器科系統疾患:
腰仙部の疼痛と常に下腹部の疼痛が同時に存在します。併せて月経期に明確な関係が見られます。泌尿器系統疾患では頻尿、尿意切迫、血尿、膿尿、或いは発熱が併せて見られ、肋骨脊柱角叩打痛(CVA)が見られます。X線では多くは異常が見られませんが、エコー検査や血液検査から確定診断が出来ます。

鍼灸治療

(1)治則:
活血化オ、舒経活絡、消腫止痛(血行を改善する、筋肉を緩め動くようにする、腫脹を消し痛みを止める)

(2)配方:省略
(3)操作:省略

(4)治療頻度・期間:
刺絡法:毎日1回、部位は交替で使用、10日を1療程とします。
経穴刺法:毎日2回、10回を1療程とします。

(治療頻度・期間は、理想的には上記ですが、一般的には、症状が酷い場合には、治療頻度は毎日で、治療期間は症状が改善するまで行ないます。あまり酷くない場合には、治療頻度は週2・3回で、治療期間は症状が改善するまで行ないます。また、予防や症状のコントロールを目的とした場合には、週1回もしくは2週間に1回の治療を長期間行ないます。)

治療理論

針灸で選穴する上で、腰椎椎間板ヘルニア症に関係する経脈と取穴に対しては深い意義があります。本病の治療では、両側下肢の穴位の選穴と刺法は、ないがしろに出来ません。特に長期に渡る腰椎椎間板ヘルニア患者に対しては補法刺法を採用し、血液循環と下肢の萎縮した筋肉を回復させます。同時に腰背部の選穴にも刺針を施し、舒筋活絡、活血化オ、消腫止痛の効果をもたらします。刺針後に物理療法や推拿按摩などを併用することでより早く効果が見られ、早く患者を回復させることが出来ます。

神経筋肉疾患

膝関節痛の概要

関節炎類は、老化、あるいは、その他の原因により引き起こされた、関節軟骨の非炎症性退行性病変です。併せて関節の辺縁に骨棘が形成されます。

臨床では、関節の疼痛や活動制限や変形が見られます。膝関節関節炎の多くは、中年女性に見られ、肥満により体重が多くなりすぎたものが主要原因となります。本病の病理基礎は、関節軟骨の変形が基本で、一般的には軟骨の修復能力を超えた磨耗であるとされます。常に関節に負荷がかかる事から発生し、早期には軟骨細胞が減少しているのが見受けられます。脂肪の退行性変化や膠原繊維の改変があり、その後、軟骨の表面に多数の軟化層が見られるようになります。軟骨は光沢を失い、色は黄色になり、表面の滑らかさは不均一になります。更に進むと、裂隙が出現し、表面は剥落腐食し、軟骨下の骨質が暴露し、脱落した小片が滑膜炎を引き起こします。

中医学では本病は年老体虚、気血不足、寒湿外邪を受けたもの、経脈オ阻から関節が栄養出来ずに起こるとされます。

症状

患者は、よく関節にクリック音があると訴えます。歩行時には痛みを感じ、休息すると良くなります。長く座っていたり、立っていたりすると関節が固くなる感じを覚えます。動いたり力を抜くと硬直感は消失します。症状は、時に軽く時に重くなり、著しい場合は毎日違いがあります。関節腫脹は骨質増生によるものが多く、少量の滲出液にもよります。急性の腫脹は関節腔内出血を認めます。病情が進展すると膝関節の活動は制限され、失用性筋萎縮を引き起こし、酷い場合には膝の外反や内反変形が発生します。

鑑別

膝関節の疼痛を引き起こす疾病はとても多く、下記疾病などから鑑別しなければなりません。

(1)慢性関節リウマチ:
多くは青年女性に発生し、よく全身性の症状を伴います。全身の小関節の症状が主体で、病後に関節奇形が残ります。同時に本病では、活動期には赤血球沈降速度が速くなり、リウマトイド因子が陽性になります。

(2)膝関節創傷性滑膜炎:
外力による打撃、転倒などによる創傷、捻挫、過度な疲労などの原因により滑膜損傷が形成され、充血や滲出を起こし、大量の水腫を産出します。滲出による水腫には血漿、白血球、食細胞などが含まれます。同時に滑液の集積が長期に及ぶと、膠原繊維が沈着し、もし除去する事が間に合わなければ組織化が発生します。膝関節痛、腫脹、圧痛、滑膜が摩擦時に渋い音がし、局部の温度が上がります。その疼痛の特徴は、膝関節の過伸展時で、特に膝伸展に抵抗を加えた時に酷く、膝蓋骨下部の疼痛は酷く、外的に過度に屈曲させられた時にも疼痛は顕著に酷くなります。

鍼灸治療

(1)治則:
行気活血、疏通経絡(気を巡らせ血行を良くする、経絡の流れを良くする)

(2)配方:省略
(3)操作:省略

(4)治療頻度・期間:
急性疼痛期:治療頻度は、耳針療法は毎日1回、経穴刺法は毎日2回、治療期間は一般的には2~3ヶ月。

安定期:治療は経穴刺法を中心にし毎日2回、耳針療法は2~3日ごとに1回、治療期間はやや長くなります。

(治療頻度や治療期間は理想的には上記ですが、一般的には、急性期では治療頻度は毎日、治療期間は症状が改善するまで行ないます。安定期では、症状が比較的重い場合には週2・3回、比較的軽い場合には週1・2回で行ない、症状が改善するまで行ないます。また、予防や症状のコントロールを目的とした場合には、週1回もしくは2週間に1回の治療を長期間行ないます。)

治療理論

中医学では、身体を臓腑経絡、五官九竅、四肢百骸などの器官と組織に分けて考えます。しかし、それらの全ては全体の中の一部分であると考えます。例えば耳は単純な一つの独立した聴覚器官ではなく、耳と臓腑には密接な関係があり、臓腑や肢体に病変が発生したときには、耳部の該当する区域には圧痛が見られ、この痛点に針刺激をします。体表-内臓反射から人体構成能力を調整します。それ以外に肝は筋を主り、肝胆は表裏関係にあり、脾は四肢肌肉を主ります。各経穴を使用することで、共同して疏筋通絡止痛の効果を達成させます。

神経筋肉疾患

めまい(メニエール病)の概要

めまいは多くの器官で病変が発生した時に引き起こされる主観感覚障害です。通常めまいは、末梢性めまい(耳性めまい)と中枢性めまい(脳性めまい)に分けられます。内耳前庭から前庭神経までで脳以前の病変で引き起こされるものを末梢性めまいと言い、脳内の前庭神経から前庭神経核とその伝導路、小脳、大脳などの病変から引き起こされるめまいを中枢性めまいと言います。

めまいの程度から言うと、最も激しいものはメニエール病で、かつ、反復発作性です。中医学では、めまいは肝陽上亢、痰濁中阻、腎精不足、気血虧虚などから起こるとされています。ここでは末梢性めまいのメニエール病について紹介してゆきます。

症状

眩暈発作、耳鳴り、耳聾が主要な臨床症状です。また、発作性及び反復性の特徴を併せ持っています。眩暈発作は突然、時間を問わず発生し、酷い時には入眠後にも発作が起こります。

眩暈は何種類かの形式があり、最もよく見られるのは、目を開けている時には部屋や周囲が回転するように感じ、目を閉じると自分が回転しているように感じます。病人は身体に不穏感を覚え、走ろうとすると一側に傾いて転んだり、前後左右に揺れたりします。
発作時病人は往々にして、悪心、嘔吐、顔面蒼白、発汗、脈拍が速い或いは遅い、血圧は多くは低くなる、など自律神経失調の症状を伴います。

鑑別

(1)迷路炎
迷路炎とは急性或いは慢性中耳炎でよく併発する症状です。臨床上では中耳炎の病人に酷い眩暈が出現し、悪心、嘔吐を伴う時迷路炎の可能性があります。重症の場合は眩暈は甚だ酷く、併せて眼球震顫、聴力喪失、平衡失調などが起こります。外耳道検査では鼓膜穿孔が発生します。

(2)ストレプトマイシン及び同類薬物中毒
明確な服薬経歴があり、悪心と嘔吐を伴います。よく口周囲に痺れを起こし、重症な時は四肢や全身にも痺れを起こします。通常は眼球震顫は無く、前庭機能検査では異常を示します。

(3)前庭神経元炎
大部分の病人は病気を起こす前に発熱或いは上気道炎を起こしています。発病は急で突出している症状は眩暈で、併せて悪心、嘔吐と伴います。但し、病人は往々にして耳鳴りや聴力減退はありません。自発性の眼球震顫が見られ、両側前庭機能試験は異常を示し、神経機能検査には異常は見られません。

(4)位置性眩暈
病人は頭部をある位置にすると眩暈及び眼球震顫が出現します。多くは耳鳴り及び聴力減退は伴いません。

鍼灸治療

(1)治則
安神醒脳、調和陰陽(精神を安定させ意識をはっきりさせる、陰陽を調和させる)

(2)配方:省略
(3)操作:省略

(4)治療頻度・期間
毎日2回治療し、7日で1療程とします。

(治療頻度や治療期間は、理想的には上記ですが、一般的には、治療頻度は週2・3回で、治療期間は症状が改善するまで行ないます。また、予防や症状のコントロールを目的とした場合には、週1回もしくは2週間に1回の治療を長期間行ないます。)

治療理論

めまいは発病機序がやや複雑ですが、風、火、痰、虚の四方面に帰納します。各々の型が単独で出現する事もありますし、複合的に出現する事もあります。メニエール病から引き起こされるめまいには合併して、耳鳴り、嘔吐が多く見られます。また、肝、脾、腎の三臓の効能失調と陰陽失調が主要な病態になります。

神経筋肉疾患

緊張性頭痛の概要

神経性頭痛は緊張性頭痛、筋収縮性頭痛、精神性頭痛とも呼ばれ、慢性頭痛の中で最もよく見られる頭痛の一つです。

主な原因は、精神的要素または職業上の特殊な姿勢によって頚部の筋肉が持続的に緊張し、二次的に頚部血管が圧迫される事によって起こるとされます。その特徴は、頭全体の持続的な疼痛で、中医学では少陰頭痛に属します。

発病には明確な精神的要素が見られることが多く、理気調神の針法を用います。

症状

疼痛部位の多くは前頭、両側太陽穴、頭頂、後頭、頚部或いは頭部全体です。頭痛は、重い感じ、緊張する感じ、挟まれる様な感じ、引っ張られるような感じ、或いは腫れぼったい様な感じの痛みがします。朝夕がこのような感じがし、数ヶ月或いは数年続きます。緊張したり、思い焦ったり、イライラしたり、寝れなかった時に頭痛が増悪します。大体吐き気や嘔吐は無いのですが、眩暈になったり、怒り易くなったり、睡眠状態が悪くなったり、抑鬱状態になったり、思い焦ったりします。活動後に頭痛が悪化する事はありません。

鑑別

(1)偏頭痛:
頭痛の特徴は吐き気と嘔吐を伴うことです。また活動後に疼痛は増悪します。

(2)後頭神経痛:
疼痛部位の中心は後頭部及び頚部で、疼痛の程度と精神状態には密接な関係は見られません。後頭神経の出口に圧痛が見られます。

(3)頚性頭痛:
疼痛は後頚および後頭に最も症状が起こり、よく一側或いは両側の肩部及び上肢に痺れや痛みがあります。X線で頚椎骨増生或いは椎間板変性が見られます。

鍼灸治療

(1)治則:
調神理気・通絡止痛(精神を整え、経絡の流れを整えて痛みを止める)

(2)処方:省略
(3)操作:省略

(4)治療頻度・期間:
毎日2回治療し、15回を一療程とします。治療には2療程は必要です。

(治療頻度や治療期間は、理想的には上記ですが、一般的には、治療頻度は週2・3回で、治療期間は症状が改善するまで行ないます。また、予防や症状のコントロールを目的とした場合には、週1回もしくは2週間に1回の治療を長期間行ないます。)

治療理論

頭痛は中医学の中には、“真頭痛”や“脳痛”などとも呼ばれています。中医学では、頭は諸陽の会とされ、脳は精霊の腑とされ、五臓六腑の精血全てが注ぐとされています。よって、七情六欲(感情や欲求が病気の原因となるもの)や労倦内傷(疲労により発病すること)や久病不復(病気を長く患い治らない事)など皆、気血逆乱(気血を乱し)、昇降失常、清陽不達、脳絡受阻させて頭痛を引き起こします。本病の多くは感情的な要素と誘発原因があるため、調神理気、通絡止痛の法を用います。

神経筋肉疾患

偏頭痛の概要

血管性頭痛(または偏頭痛)は周期発作を起こす頭痛の一種です。この頭痛は大きく分けて二種類に分類できます。偏頭痛に先行症状を伴うものと伴わないものです。

近年では偏頭痛の発病に対する認識は比較的統一されています。偏頭痛は不安定な三叉神経と血管の反射から起こり、また痛みの抑制回路の欠陥を伴います。三叉神経脊核からの過剰放電及び三叉神経視床路の過剰伝入の反応として神経興奮が発生します。最終的に脳幹と大脳内血管間で相互作用が発生します。

偏頭痛は、中医学の頭痛の範疇になり、「不通則痛、久痛必オ」(通じなければ痛み、長期間の痛みはオ血がある)が、主要な発病機序です。鍼治療や刺絡療法で活血通絡することができるので、これらの治療効果はとても良いです。

症状

頭痛の症状は一側眼窩の上、もしくは後、或いは前頭側頭部位の鈍痛で始まります。時にはその頭痛部位は頭頂部や後頭部にも出現します。頭痛の強さが増加する時、拍動感を持ち、痛みが最高峰に達します。そして強烈な固定痛が続きます。その時頭痛は往々にして初発部位から側頭部全体にに拡大します。患者は顔面蒼白でよく吐き気や嘔吐を伴います。

常見される前兆は視覚障害で、閃光が見えたり、ノコ歯状のものがちらちらしたり、黒い点が見えたり、暗くなったり、片目が見えなくなったりします。まれに前兆として手が痺れたり、うまく話せなくなったりします。

鑑別

偏頭痛は群発頭痛及び原発性三叉神経痛と鑑別する必要があります。

(1)群発頭痛:
壮年および中年男性に多く見られ、跳ねる様に痛んだり、燃えるように痛んだりし、発作持続時間は30分から1時間です。涙が出る、鼻が詰まる、鼻水が出る、顏が赤くなるなどの症状を伴います。引き金はありません。

(2)原発性三叉神経痛:
40歳以上の女性に多く見られます。電撃様で火を押し付けたような痛みがあり、発作持続時間は数十秒から数分間です。顔面筋の痙攣や涙を流すことを伴います。引き金があります。

鍼灸治療

(1)治則:
疏解少陽、活血化オ(少陽の滞りなくさせ、血行を良くする)

(2)処方:省略
(3)操作:省略

(4)治療頻度・期間:
毎日一回治療し、10日を一療程とします。

(治療頻度や治療期間は、理想的には上記ですが、一般的には、治療頻度は週2・3回で、治療期間は症状が改善するまで行ないます。また、予防や症状のコントロールを目的とした場合には、週1回もしくは2週間に1回の治療を長期間行ないます。)

治療理論

血管性頭痛では偏頭痛が主要な臨床症状です。側頭部は少陽経脈の巡行部位で、その発病にはいくつかの原因があり、風邪が少陽経を犯したもの、少陽の要がうまくいかないもの、肝鬱化火し胆経を犯したもの、経絡が阻滞しているもの、オ血が絡脈を塞いでいるものなどがあります。“経脈所過、主治所及”の道理を根拠に、少陽、陽明経穴を中心に取穴し、通絡止痛をします。

神経筋肉疾患

不眠の概要

不寐とは、正常な睡眠が獲得できない事を言います。軽い場合は、入眠が難しく、時々目が醒めるといった症状ですが、重い場合は、一晩中寝る事ができません。現代医学では、不眠症と言います。

中医学と現代医学ではこの病気に対する認識は比較的に近いです。中医学では本病の多くは思慮憂愁・操労過度(あくせくと働きすぎ)・損傷心脾・気血虚弱・心神失養によるものとされます。現代医学ではたくさんの要素が絡み合っているとされ、大脳機能活動が緊張の限度を超え、大脳皮質細胞が耐えられなくなった時に起こるとされています。

症状

睡眠障害、症状は入眠困難、睡眠が浅い、悪夢を多く見る、よく驚いて起きる。或いは一回起きると再度寝れない。精神が興奮し易い、疲れ易い、緊張性疼痛がある、多くは頭痛と自律神経失調症がある。例えば眩暈、動悸、胸苦しさなど。

鑑別

神経衰弱(自律神経失調症)の症状から多種疾病が見られるので鑑別診断は非常に重要です。鑑別診断を慎重に進める必要があります。

(1)躯体と脳の器質性疾患:
躯体の慢性感染症、慢性中毒、脳動脈硬化、脳内感染症、脳内損傷、脳内限定病変などの全てが神経衰弱様な症状を呈します。もし神経衰弱症状がこれら疾病の後に発生した場合は、上述の躯体と脳の器質性疾患と診断しなければなりません。これはこの類の疾病鑑別診断の鍵となります。

(2)精神分裂症:
精神分裂症の早期と緩解期は神経衰弱症状が現れます。但し患者は、その疾病に対してどうでも良い態度をとり、治療に対して切実ではありません。併せて相応の精神病症状が見られるので鑑別の助けになります。

(3)抑鬱症:
鑑別診断は、常に困難です。特別なのは軽度抑鬱症の患者でよく神経衰弱と誤診されます。この二種類の症状はよく似ていて、もし患者の抑鬱情緒検査を軽視すると往々にして誤診に至ってしまいます。このため臨床上で神経衰弱の診断をする時は、必ず抑鬱症の除外をしなければなりません。抑鬱症患者の特徴は、情緒が落ち込む、愉快感や興味が喪失する、自分を責める、自殺欲望が起こったり消えたりするなどです。しっかり理解していれば、鑑別は困難ではありません。

(4)その他の神経症:
神経衰弱症状は焦慮症や抑鬱症にもよく見られます。もし患者がこの類の疾病の典型症状を持っていれば等級鑑別診断の原則どおりに、まずその他の神経症の診断をしなければいけません。

(5)慢性疲労総合症:
これは近年提案された疲労を主症状とするものです。休息しても解決しない病情が半年以上続いている総合症で、睡眠障害と本症はよく似ています。低体温、咽喉痛、リンパ節増大などの客観的症状があることで、神経衰弱との鑑別の助けになります。

鍼灸治療

(1)治則:
安神・鎮静・寧心(精神を安定させ、鎮めて落ち着かせ、心を安らかにする)

(2)配方:省略
(3)操作:省略

(4)治療頻度・期間:
針刺治療:15日以内は毎日2回、15日後は毎日1回、15~30日を1療程とします。
耳針治療:毎日1回、15日を1療程とします。耳圧治療は1日おきに1回交換します。3~6回を1療程とします。

(治療頻度や治療期間は、理想的には上記ですが、一般的には、治療頻度は週2・3回で、治療期間は症状が改善するまで行ないます。また、予防や症状のコントロールを目的とした場合には、週1回もしくは2週間に1回の治療を長期間行ないます。)

治療理論

不寐は“目不瞑”、“不得臥”、“不能眠”などとも呼ばれ、臨床常見病の一つです。

私たちは多くの臨床研究を通して、不寐の針刺治療は大脳皮質の興奮と抑制の調整を強め、正中縫線核セロトニン系統を調整したり、大脳皮質の抑制過程を深めたり、大脳皮質神経過程の平衡状態を回復させ、睡眠を改善します。

不寐は情志内傷、多臓が疲労することで起こります。病機の鍵は心神被擾、或いは心神失養です。治療は寧心安神鎮静を主として、各穴を取り治療にあたります。本法は補を主とし、交通心脾、心腎を得意とします。故に良好な効果を治める事が出来ます。

神経筋肉疾患

顔面神経麻痺の概要

顔面神経麻痺には、中枢性顔面神経麻痺と末梢性顔面神経麻痺の二種類があります。ここでは、原発性末梢性顔面神経麻痺の針灸配方について紹介します。

原発性顔面神経麻痺は、中医学では口眼歪斜と言いますが、中医学と現代医学の、この病気に関する考え方は比較的近いものがあります。中医学では、風邪が顔面に直中し、経脈を阻滞させ、経筋が麻痺状態になると考えます。現代医学では、冷気による刺激に関係があるとされ、その病理変化は早期には神経水腫、虚血、酸欠が主となり、後期には神経変性、脱髓病変が発生するとされています。

針刺治療は局所の血液循環を促進させ、酸素供給を改善させ、神経水腫の吸収を加速させる効果があります。それゆえ、針刺は原発性顔面神経麻痺に対して非常に有効な治療方法の一つであると言えます。

原発性末梢性顔面神経麻痺の治療過程で、経筋発病の理論を重視し、経筋針刺に刺絡療法の治療方法を制定し、臨床では理想的な治療効果を収めています。

症状

突然一側の顔面麻痺が発生します。額のシワが減弱或いは消失、目を完全に閉じることが出来ない、鼻唇溝が浅く変化、口角が下がる、涙が出る、よだれがでる、頬に食べ物が残る、味覚が減弱。
発病早期では耳の後ろの乳突起部に自発性疼痛或いは圧痛が見られます。

鑑別

原発性末梢性顔面神経麻痺は、末梢性顔面麻痺の一種です。たくさんの疾病で末梢性顔面麻痺の特有な症状が見られます。よって、末梢性顔面麻痺患者の治療にあたっては、しっかり鑑別診断を進める必要があります。

(1)脳幹病変:
脳橋血管病、脳橋小脳脚腫瘤、脳橋部炎症などの疾病で見られます。鑑別特徴の重点は交叉性麻痺です。病巣と同側の末梢性顔面麻痺、外転神経麻痺、聴神経功能障害が見られます。病巣と対側の舌下神経麻痺、肢体中枢性麻痺が見られます。一部の患者は病巣は比較的限局的で、波及範囲は小さく、発病早期では交叉性麻痺は典型的ではありません。よって、顔面神経自律神経機能及び顔面神経味覚機能の検査は、この類の疾病の鑑別診断の鍵になることに注意が必要です。局在性脳橋病変から出現する末梢性顔面麻痺は一側の顔面部表情筋の麻痺を主として、自律神経機能及び舌前2/3の味覚障害は不明確です。

(2)急性化膿性乳突炎:
乳突起と茎乳突孔は接近していて、化膿性炎症は顔面神経の炎症浸潤を形成し、末梢性顔面神経麻痺を発生させます。その鑑別の主要は、顔面麻痺発生と同時或いはその前に、耳の後ろの乳突起部に発赤、腫脹、発熱、疼痛など急性炎症病変が見られます。同時に全身炎症疾病の症状が見られます。例えば発熱、白血球増加など。

(3)内耳、中耳病変:
顔面神経は脳から出た後は聴神経と併走し、一緒に内耳道に入ります。内耳道底部では、顔面神経と聴神経が分かれ顔面神経管に入ります。走行中の顔面神経は中耳で一部暴露されます。よって、内耳と中耳病変では炎症性病変と占拠性病変共に末梢性顔面麻痺の発生を伴います。その主要な鑑別は以下です。

末梢性顔面麻痺に耳鳴り、難聴、味覚消失、前庭神経機能錯乱、併せて唾液及び涙腺の分泌障害が見られる場合は、病変部位は後頭陥凹部或いは内耳道であることを表しており、中間神経及び聴神経が侵されています。

末梢性顔面麻痺に耳痛、鼓膜穿孔、耳道に膿が見られる場合は、化膿性中耳炎が顔面神経に浸潤炎症していることを表しています。

(4)顔面手術及び外傷:
顔面手術及び外傷は顔面神経の損傷或いは断裂を起こす事があり、末梢性顔面神経麻痺を発生させます。その鑑別の主要根拠は病歴です。

(5)耳下腺病変:
顔面神経は耳下腺を通過していますが、耳下腺は支配していません。耳下腺病巣が、もし化膿性炎症、腫瘤なら顔面神経に損傷を与え、顔面神経麻痺を発生させます。その鑑別の主要は耳下腺の腫大です。

鍼灸治療

(1)治則
活血去風・疏理経筋(血行を良くして風邪を取り去る、筋肉を伸びやかにして使えるようにする)

(2)配方:省略
(3)操作:省略

(4)治療頻度・期間
急性期(発病7日以内):
刺絡法を毎日1回、その他の刺法は毎日2回を15日間休まずに治療が必要です。15日後、症状に改善が見られた場合は、刺絡法を毎日1回或いは隔日1回、その他の刺法は毎日1回治療します。急性期の治療期間は一般的には1~3ヶ月間です。

安定期(発病1週から45日):
治療頻度は急性期と同様ですが、治療期間が長くなります。

神経変性期及び後遺症期(発病45日以上):
治療頻度は同様で治療期間は更に長くなります。この時期からの治療は予後の推測できません。

(治療頻度や治療期間は理想的には上記ですが、一般的には、急性期では治療頻度は毎日、治療期間は症状が改善するまで行ないます。また、安定期や後遺症期でも2週間くらいは毎日治療を行ない、その変化をみて治療頻度を変えてゆきます。)

症状性末梢性顔面神経麻痺は原発病巣の治療に対応します。原発病巣は一定では無いため、異なる治療手段を採用されます。例えば、中耳、耳下腺、乳突部細菌性炎症には抗炎症治療、脳幹、内耳道腫瘤には手術治療、顔面部手術或いは外傷早期には神経線維の外科的治療などです。原発病巣の抑制後の針刺治療は末梢性顔面神経麻痺に有効な効果を得る事が出来ます。

治療理論

面タンまたは顔面神経麻痺と呼ばれ、中医学では“卒口僻”、“口眼歪斜”などの範疇に帰属し、臨床で多発する疾病の一つです。末梢性顔面麻痺中の原発性末梢性顔面神経麻痺は、針灸の最も適する証です。長年の臨床と研究を通して、原発性末梢性顔面神経麻痺の針刺治療では、局部の微小循環が明確に改善され、顔面神経の虚血、酸欠の病理素因が改善され、神経水腫の吸収と消失が促進されることが分かっています。同時に、針刺は直接顔面神経を刺激し、顔面神経の興奮度を引き上げ、神経の抑制状態を改善させ、神経損傷の修復を促進します。

顔面麻痺系は経筋発病に属します。労働によって発汗したところに風が当たったもの、或いは涼しい所を求めたり冷たい物を好み、風があたる場所で寝る事を好むもの、或いは湊理が開き汗が漏れ、衛気が守れず、風寒の邪が虚に乗じて顔面部の経筋に直中したものによって、外邪や血?が阻害され、経筋が不利になり、経脈が緩みまとまらなくなります。よって、三陽経の経筋阻滞が本病の鍵となります。

透穴刺法を用い、多く針を浅刺し、三陽経の経筋を整える事を目的とします。刺絡法は、即ち絡を刺すことで、小絡の血脈を刺し、血と邪が一緒に出て、血気の流れが回復します。抜罐を合わせ使うことで、この出血量を制御でき、血と邪が出ることで、血気を回復させる治療目的を達成させられます。三陽経の経筋は全て顔面に上行し、多くは頬骨部、下顎部、頬などで結します。頬、額などの所は刺絡法の重要部位で、経筋透刺、排刺法を配合して疏導結聚、疏理経筋、散風去邪をします。散風活血の経穴を補助とすれば、更に本法の完全性と科学性を良いものにします。

経筋透刺、排刺法と刺絡法の配合は長年の臨床経験及び豊富な医学理論知識による、原発性末梢性顔面神経麻痺における針刺治療の新しい方法です。よって、本法は原発性末梢性顔面神経麻痺の各時期全てに対して比較的良好な治療効果を上げています。

脳神経疾患の臨床と研究

運動ニューロン疾患の概要

運動ニューロン疾患は、一種の病因不明の選択性脊髄前角細胞損害・脳幹運動ニューロン(或いは)錐体路の慢性進行性疾病です。

主要な症状は、受傷部位の筋肉無力・萎縮と(或いは)錐体路損害症候です。感覚系統は一般的には損傷されません。臨床上では、進行性脊髄性筋萎縮・進行性延髄麻痺・原発性側索硬化と筋萎縮性側索硬化などの類型があります。

本病の発病原因は不明です。ある報告によると、ある種の植物毒素或いは重金属中毒・慢性ウイルス感染・遺伝・免疫機能異常などの素因が関係する可能性があるとされています。通常は40~50歳に発病し、30歳以前ではあまり見られず、男女比は約2:1です。一般的には発病時は、症状がはっきりせず、緩慢に進行しますが、稀に亜急性進行が見られます。

臨床症状表現の主なものは筋無力と筋萎縮であるため、中医では基本的には“痿証”の範疇に属します。但し、それと同時に上位運動ニューロン病変の症状、例えば下肢筋緊張増加・反射亢進などが見られた場合は、“痙証”の病機を兼ねているか考慮する必要があります。
 これをもう少し論じると、脊髄前角細胞が損傷した、症状が無力感と筋萎縮で錐体路症候が見られない進行性脊髄性筋萎縮と、上下運動ニューロン双方が損傷した、症状は筋無力・筋萎縮と錐体路症候が見られる筋萎縮側索硬化があります。延髄運動神経核の単独損傷では症状が咽喉筋と舌筋無力・萎縮の進行性延髄麻痺がありますが、ここでは述べません。

中医鍼灸では、どのように考えるか

中医では、慢性病の多くは虚証であると認識しています。肝腎の陰血が慢性的に内耗し、肝は藏血の臓であることから筋を主り、腎は藏精の所であることから骨を主り、肝腎精血が虚損していることで、筋骨経脈が栄養を失い、故に肢体はうまく動かず使えなくなると考えます。

治療は滋補肝腎・疏通経脈を以って行い、背部の脊柱の際にあるツボを主要な穴位とし、局所穴位を配合し治療にあたります。脊柱の際にあるツボ達は、直接脊髄神経根を刺激する事ができ、神経根の代謝を改善し、神経機能の回復を加速させます。また、各種経穴を配合することで、気血を化生させ、虚証を補うことができます。また、筋肉萎縮が明確な者に対しては、筋肉・筋肉群に対して針刺を行うことで、局部の経気運行を改善させるので、筋肉栄養を増加させ、筋肉萎縮の回復を促進させる事が出来ます。長期治療を行なうことで、比較的満足な治療効果を得ることが出来ます。

中医鍼灸では、どのように治療するのか

(1)治則:滋補肝腎、疏通経脈(肝腎を補い、経脈を通じさせる)。
(2)配方:省略。
(3)操作:省略。
(4)治療期間:毎日午前・午後共に針刺治療を一回行なう方法で、午前は肢体の穴位を主にし、午後は華佗夾脊刺を主にします。二ヶ月を一療程とします。

 ここでは、一つの基準のようなものを記載しました。運動ニューロン疾患と言っても、症状は非常に多彩です。ここに含まれる疾患で有名なものに、筋萎縮性側索硬化症(ALS)と言うものがありますが、この一つだけを取り出しても、発病した方に見られる症状やその進行は多彩です。
 現代医学的には、本病を似た症状が脳血管障害などの他の病気でも見られることがあるため、まず、その他の病気でないかを確認して(除外診断と言います)、結果的に運動ニューロン疾患の確定診断を受けることが多いはずです。
 中医学では、手足の力が入らなくなる、もしくは入りずらくなる病気を総称して「痿証(いしょう)」と言います。発病の原因やその過程によって治療に違いは出ますが、大きな治療方針としては、概ね同じと考えていいので、現代医学的に診断が出なくても、針灸では治療を開始することが出来ます。
 また、針灸では障害を起こしている筋肉や神経に直接刺激を加えることが出来るので、治療効果は即効性があり、直接的であると言えます。
 この疾患は進行性の疾患で、私が知る限り特効薬はありません。治療の方針は、病気を進行させないことが第一で、そのあとに病状の回復を目指します。本文中には一日二回治療すると記載しましたが、実際は週二・三回で治療を開始して様子を見ながらペースを考えるのが通常です。
 症状が多彩のため、はっきりしない部分が多いのですが、何か分からない事や聞きたいことがあれば、気軽にお問い合わせください(電話には出られない事が多いので、出来ればメールでお問い合わせ頂けると助かります)。

脳神経疾患の臨床と研究

診断と弁証

1.診断
(1)中医診断
 中華全国中医学会内科学会1986年泰安会議で制定された『中風病中医診断標準』に沿って診断します。

1)主証:半身不随、口や顏の動きが左右非対称、意識がもうろうとしている、舌がうまく動かずにどもる、または話せない、半身の感覚が痺れたり無かったりする。
2)急に病気が起こる。
3)発病にはいくつかの誘発原因がある、発病前にもよく前兆症状がある。
4)好発年齢は40歳以上。

 主証で二項目以上当てはまり、急に発病し、病程が二週間以内(中臓腑で最長一ヶ月以内)であり、併せて舌、脈、誘発原因、前兆、年齢などを特徴を考慮して中風病急性期と診断します。

(2)現代医学診断
 1986年中華医学会第二回全国脳血管病学術会議第三回修訂の『各類脳血管疾病診断要点』に沿い、CTやMRIの結果から診断します。
(注)これは中国での診断基準ですが、日本では文部省研究班が米国NIH委員会の報告に準じて脳卒中の診断基準を発表しています。国内外で最も多く使われているのは米国で1990年に発表されたCVD-Ⅲです。(日本医師会編『脳血管障害の臨床』より引用)

2.弁証
 中風病の急性期における弁証は、まず病(やまい)の深浅、軽重をはっきりさせます。中医学では病がその絡に在るか、経に在るか、腑に在るか、臓に在るかで病位の深浅と病情の軽重を判断します。またそれは中風病の分類方法にもなっており、さらに中風病の転帰や予後を判断することにもなります。

中絡:半身または一側の手足に痺れや感覚異常、或いは半身の無力を伴う、或いは顔面半分の動きがおかしい、半身麻痺は顕著では無い。
中経:半身不随、顔面麻痺、どもりや話せない、半身感覚障害が主証となり、意識もうろうとしたりはしない。
中腑:半身不随、顔面麻痺、どもりや話せない、半身感覚障害、意識がもうろうとする、が主証となる。
中臓:意識の昏迷、半身不随、顔面麻痺、どもりや話せない。

 臨床上では意識の状態によって中経絡と中臓腑を分けます。中経絡は意識障害が無く、病は比較的浅いです。中臓腑は必ず意識障害が見られ病は比較的深く重いです。中腑における意識障害は、もうろうとする、すぐに眠ろうとする、または眠ってしまう、神志障害は比較的軽いです。しかし、中臓では昏迷状態で神志障害は比較的重いです。これら以外には、絡、経、腑、臓に見られる動態変化は病勢の順逆や予後に反映します。絡、経、腑、臓と病情が変化する場合は逆と言い、予後は悪いです。臓、腑、経、絡と変化する場合は順と言い、予後は良いです。

 中風急性期に常見される証型には以下のものがあります。
(1)中経絡
1)肝陽暴亢、風火上擾
 病因病機:本証の多くは憂思鬱悶、情志不舒から肝気鬱結化火する、耗血傷陰、肝失所養から肝陽上亢するものによります。或いは暴怒憤慨、肝陽亢張、過極化火、風陽内動、気血逆乱、併走于上などから竅閉神匿に至り中風を発病します。
 証候特徴:半身不随、半面顔面麻痺、どもり或いは話せない、半身感覚障害、めまい頭痛、面紅目赤、口が苦く乾く、イライラし不安、大便乾燥、尿の色が濃い、舌質紅或いは紅絳、脈弦有力。
2)痰熱腑実、風痰上憂
 病因病機:肝陽亢盛、或いは素体熱盛で更に平素飲食不節や嗜酒過度から中焦運化失司、気機昇降失常に陥り、湿聚成痰、痰憂从陽化熱や濁陰不降し腑実となり陽化風動夾痰上憂、蒙閉清竅し中風を発病します。
 証候特徴:半身不随、半面顔面麻痺、どもり或いは話せない、半身感覚障害、腹が張り大便が乾燥し便秘、めまい、痰が多い、舌質暗紅苔黄或いは黄膩、脈弦滑或いは片麻痺側弦滑大。
3)陰虚風動
 病因病機:酒色房労過度、或いは久病失養、耗傷真陰から肝腎陰虧、肝陽上亢します。更に五志過極、飲食労倦などの誘発原因が付加されると風自内生、風陽上憂神明、竅閉神匿が起こる。
 証候特徴:半身不随、半面顔面麻痺、どもり或いは話せない、半身感覚障害、失眠、めまい耳鳴り、のぼせ、舌質紅絳或いは暗紅、少苔或いは無苔、脈細弦或いは弦細数。

(2)中臓腑
1)閉証
 病因病機:肝陽暴亢から陽昇風動、血随気逆し併走于上、蒙閉清竅に至る、或いは素体陽盛から風火相煽し痰熱内閉清竅になる、或いは素体陽虚から痰湿偏盛し内風が痰湿陰邪を挟み閉阻清竅し竅閉神匿、神不導気に至る。
 証候特徴:突然倒れる、意識がはっきりしな、頭痛、首が硬い、喉から痰が絡む音がする、口が開かない、両手を握っている、大小便が出ない、全身痙攣している。或いは顏が赤くて熱がある、呼吸が荒くて息が臭う、舌苔黄膩、脈弦滑数。或いは、顔面蒼白、唇が暗色、静かに寝ていて動かない、四肢が冷たい、痰やよだれが多い、舌苔白膩、脈沈滑或いは緩。
2)脱証
 病因病機:素体が陽虚気弱でオ血や痰濁が上犯清竅し、竅閉神匿、元神散乱、正気虚脱に至る。
 証候特徴:突然倒れる、意識がはっきりしない、いびきがあり呼吸が微弱、目を閉じて口を開けている、手を開いて尿を漏らす、、四肢が冷たい、脈細弱或いは沈伏。もし冷や汗が油のようで、顏が赤く化粧しているようで、脈がわずかで今にも無くなりそう、或いは浮大無根であると心陽外越する危険な徴候です。

治療

1.原則
醒脳開竅を主として、滋補肝腎、疎通経絡、回陽固脱を補助とする。

2.方法
主穴:内関、人中、三陰交
補穴:極泉、尺沢、委中
加減:省略
療程:一日二回、二週間を一療程として、一般的には三療程

注意事項

(1)中風急性期に対しては、高熱の出現、意識障害、肺脳総合症、心脳総合症、胃脳総合症(上部消化管出血)などに対して直ちに総合救命を行なう。期を逃しては決していけない。
(2)中風患者の思考、意識、言語、運動、感覚などの障害の程度は一定ではありません。ゆえに臨床では正確な診断と治療以外に詳細な観察や看護が非常に重要です。
1)中経絡の看護:この時期の重点は、片麻痺による運動障害のリハビリを援助する事です。具体的には以下です。
 皮膚の保護、褥瘡の予防:一般的には二時間おきに患者の身体を動かし、併せて局部を紅花酒で按摩します。一日一回患者の体を拭き洗いし皮膚の乾燥を保持します。必要に応じて常に圧迫される部位に枕などをいれます。
 功能鍛錬の補強、関節変形の予防:片麻痺患者に対して動的鍛錬をさせることは全身状態を改善するには不可欠です。併せて麻痺側の運動機能回復を加速させます。これから看護する人は患者の主体動作を励ますと同時に毎日患者の麻痺側の筋肉や関節を按摩し、まず小関節からはじめ、手足指、手首、足首、肘、膝、と順次進めます。幅は少しづつ大きくしてゆきます。各関節運動は少なくとも200回は行ないます。
 飲食管理:飲食は栄養の源です。合理的な配膳は、疾病の治療と健康的な回復に対して密接な関係があります。中風患者の飲食管理の主要な注意点は二方面あります。①舌苔変化に根拠をおく。黄膩苔の病人はよく肺胃に熱があり薄味の飲食がよいです。白膩苔の病人はよく脾胃が冷えて水が滞っているので身体を温めて消化の良いものが良いです。淡白舌では多くは病が長く身体が弱っており気血両虚なので高栄養で消化の良いものを主とします。乾裂舌は病情が悪化する表現で飲食は高エネルギー流動食にし病人の状態を密接に観察する必要があります。飲食が出来ない場合は高エネルギー輸液をします。②病情に根拠をおく。咳に多くの痰を伴う患者には油の少ない物にし脾失運化、聚湿生痰を防ぎます。便秘気味の患者には繊維質の多い野菜や果物を多く取らせます。高血圧や肝火旺盛の患者には油物、甘い物、味の濃い物、辛くて熱い物は禁止で蘊熱生風を防ぎ病状が悪くなる事を防ぎます。
 精神管理:中風患者は往々にして精神情志変化に病情の好転と増悪が重なります。ゆえに看護する人は病人の精神状態に注意し、精神状態と病情が関係する事を説明します。患者を励まし堅強な意志と楽観的な精神状態にするようにすることで早く回復します。
 大便の管理:中風患者は臥床しており食事も少ない事から腸の蠕動運動が緩慢になり便秘が多く起こります。多くの患者が排便時に力を使い過ぎて脳出血を再発する事からも大便の管理は非常に重要です。看護する人は病人に多く水を飲んだりたくさん果物を食べるように勧めたり、必要に応じて腹部を暖めたり、按摩したりします。また病人に便意あっても排泄困難な時はグリセリン浣腸か低圧浣腸を用いて通便を保ちます。
2)中臓腑の看護:中臓腑の患者の多くは、意識の昏迷、大小便失禁があり、胃脳・肺脳・心脳総合症を伴います。この型の看護の重点は病情変化を観察し、その時々の処置を的確に行ないます。具体的な方法は省略します。

臨床研究

 虚血性中風急性期患者を研究対象に“醒脳開竅”針法治療を採用し、併せて伝統針刺法を対照群としました。全国統一診断標準(前出)と国際公認の治療効果評定標準を採用し、中風の針法治療の臨床治療効果に対して臨床観察を進め、併せて血液流変学の角度から中風針法治療のメカニズムを検討します。

1.一般資料
 本組の患者症例は発病から2週間以内の脳梗塞急性期患者で、その内男23人、女17人です。平均年齢は男59.3歳、女58歳、病程は最短0.5時間、最長は14日間、平均6.4日間です。既往症は、高血圧29例、慢性冠動脈供給不足11例、慢性心筋梗塞2例です。

2.治療方法
(1)醒法取穴及び操作(前出)
(2)伝統針刺法取穴及び操作:肩グウ、肩リョウ、曲池、外関、手三里、合谷、足三里、陽陵泉などの陽経穴位を取穴します。捻転提挿平補平瀉を施します。

3.研究方法と治療効果標準
 病人は入院後に醒法治療組と伝統針法対照組に分けられます。針刺治療前及び治療45日後に、神経功能欠損程度評分から治療判定をし、血液流変性指標の検査を行ないます。

(1)治療効果評定:
 治療効果評定は全国第二次脳血管病学術会議制定の臨床治療効果評定標準を参照し、多少の修正をしてあります。主に神経功能欠損程度改善の累計点数と患者の総生活能力状態の二方面からの評定を根拠とします。

1)点数方法:
 意識、水平凝視能力、顔面麻痺、言語、上肢肩関節筋力、握力、下肢筋力及び歩行能力の8方面から評価します。最高45点、最低0点です。

2)患者の総生活能力状態(評定時の後遺症程度)
 0級:自立生活、或いは回復部分で仕事が出来る
 1級:基本的には自立生活、一部分は人の助けが必要
 2級:部分的に自立生活、大部分は人の助けが必要
 3級:自立歩行は可能、但し常に人の助けが必要
 4級:臥床、座位は可能、生活に手助けが必要
 5級:臥床、一部分意識活動がある、介助飲食は可能
 6級:植物状態

(2)治療効果標準
 基本治癒:後遺症の程度は0級。
 顕効:功能欠損評分が21点以上減少、かつ後遺症の程度が1~2級。もし入院時点数が21点以下の場合は累計点数が10点以上減少しているものを顕効。
 有効:功能欠損評分が8点以上減少。
 無効:功能欠損評分が減少或いは8点以下の増加。
 悪化:功能欠損評分が9点以上の増加。

4.研究結果と分析
(1)“醒脳開竅”法治療の前後:
 患者の血液流変学における各項目の指標(全血粘度、血漿粘度、血細胞比容及び血小板聚集率)の繊維蛋白源濃度以外で、どれも明確な改善が見られました。治療前後の各項目指標はどれも顕著と極めて顕著の差異が見られました(P<0.05~0.01)

(2)伝統針刺法治療前後:
 患者の全血低切粘度は改善が見られ、顕著な差異が見られました(P<0.05)。全血高切粘度と血漿粘度も一定の改善傾向が見られましたが統計学的意義はありませんでした。その他の指標は明確な変化は見られませんでした。醒法は急性期患者の血液流変性の改善作用に明確な優位性を伝統針刺組より示しました。

(3)二つの針刺組の治療効果比較:
 下表に示される通り醒脳組病人の基本治癒及び顕効の人数は伝統組より明確に多く、醒脳の治癒率、顕効率と総有効率は、30%、40%及び100%です。伝統組では10%、25%及び90%でした。基本治癒人数及び顕効人数を合わせて顕効率とし、二組の顕効率の差異の統計学的処理は、χ二乗=4.92>3.84(5%のχ二乗は限界値)、P<0.05となり、二組の顕効率には明確な差異が見られます。以上の結果から醒法と伝統刺法のどちらの治療も脳卒中の有効な方法であると言えます。但し、醒法の治療効果はより優れていると言えます。

組分    醒脳組 伝統組
総例数   20 20
基本治癒(%) 6(30) 2(10)   
顕効(%)   8(40) 5(25)
有効(%)   6(30) 11(55)
無効(%)   0 2(10)
χ二乗検験  P<0.05 上述研究結果より
 醒法は虚血性脳卒中急性期患者の血液流変の各項目指標(繊維蛋白源は除く)に対して明確な改善作用(P<0.05~0.01)が認められ、且つ伝統針刺組よりも優位でした。伝統針刺組の全血低切粘度は治療前後で一定の改善(P<0.05)が見られます。しかし、醒脳組ほど明確ではなく、他の指標には明確な改善を見ることが出来ません。醒法は急性期患者の血流変の影響に対して以下いくつかの方面に帰納します。

1)全血低切粘度、血液凝集性の改善:
 血沈方程K値や赤血球電気泳動は赤血球の重合性を反映する指標です。血小板の電気泳動及び最大重合率は血小板凝集性の反映する指標です。以上の指標の改善は、血液凝集性の改善を表します。これは血栓形成の防止に対して重要な意義があります。特別なのは血小板凝集作用の改善です。血小板作用の変化によって血栓形成の機序に重要な作用が見られます。それは血栓形成の主要な条件です。ゆえに多くの学者は血小板凝集作用の変化は虚血性中風を発症させる独立素因として研究しています。多くの学者は血小板作用の亢進が発病原因の一つとしています。血液凝集性の改善の機序に関して、恐らく針刺激は赤血球と血小板表面のマイナス電荷を増加或いは消失させ、そのマイナス電荷は不良影響の素因と関係があるようです。

2)血液粘滞性の改善:
 全血粘度と血漿粘度は血液の粘滞性低下に対応しています。血液流動性の抵抗力減少は血流量の増加に重要な意義を持っています。とりわけ高切での全血粘度の低下は微小循環血流の“軸流減少”、“Σ効果”と臨界毛細血管半径の決定要素となります。これらの現象と反応は微小循環の正常重要条件で、臨界毛細血管半径は直接組織の環流量に影響します。ゆえに、赤血球での変形性の増加し、微小循環の状態を改善させます。

3)血液濃密性の改善:
 赤血球の容積比は血液濃密性の主要な指標として反映します。血液粘滞性と凝集性に対して重要な影響を生みます。このため血液濃密性の低下はある条件下で血流状態の改善に反映します。一部説明すると、針刺は血流変化性の影響に対して、凝集性、粘滞性と濃密性の三方面に分けられます。事実上は三者間でお互いに影響し合い、お互いを助け、共同で血流変化に対する諸因子の複雑性と多元性を形成しています。

 上述によって、醒法は急性期患者の血液凝集性、粘滞性と濃密性に改善作用が見られます。血流変化の改善は虚血性中風に対する針刺治療の機序の一つであると認識しています。
 急性期患者に対する醒法治療の治療効果に関して、臨床研究の結果は、醒脳組顕効率(基本治癒を含む)70%であり、伝統組(35%)より明確に優位で、顕著な差異(χ2=4.92、P<0.05)を持っています。しかし、二組の総有効率には明確な差異は見られません。二種の針刺方法は共に中風病の有効な療法であることを説明しています。かつ、醒法は更に有効であると言えます。

 ここで取り上げた論文は、脳血管障害のの急性期に対する治療とその根拠の一つにあたるものです。ここでは、中国における伝統的な針治療と醒脳開竅法という方法を比較して検討しています。今後は、理学療法をはじめとするリハビリとの比較や、併用時の検討などが必要になってゆくでしょう。
 日本では、ほとんど知られていない治療方法ですが、効果が有る事は事実です。日本においても同様の効果が得られるのか、得るためには何が必要なのかといった事を今後検討する必要があるかも知れません。

脳神経疾患の臨床と研究

診断と弁証

古今臨床医家の経験を総合し、現代医学の理化検査指標を合算して考え、1986年に『全国中風診断与療効標準』が制定されました。

1.診断(現代医学的診断)
年齢40歳以上で、主要指標中一項目、次要指標中三項目以上該当するか、或いは主要もしくは次要指標を各二項目以上該当する者は中風前兆とされます。
(但し、鑑別診断中の疾病とCTにて梗塞・出血が見られないものは除く)

(1)主要指標
近日中に一過性の下記症状が出現し、また併せて反復発作の傾向があるか、また下記症状が24時間を超えて持続した場合、但し三週間以内に回復した者。
1)片半身の麻木感、感覚障害もしくは片半身の発汗
2)身体無力感、半身不随、口が渇く
3)めまい、頭痛
4)視覚異常、片目が見えない、視界が狭くなった
5)舌の動き悪くどもる、飲み込みずらい、むせる
6)間欠的に崩れるように倒れる(drop attack)

(2)次要指標
1)血流変学三項目以上の異常
※日本では血流変学に相当するものが恐らくありません。参考までに中国で使われている項目には以下のものがあります。:全血高切粘度(200/S)、全血中切粘度(40/S)、全血中切粘度(30/S)、全血低切粘度(3/S)、全血低切粘度(1/S)、全血高切流阻、全血中切流阻、全血低切流阻、全血?森粘度、全血?森応力、全血還原粘度(3/S)、全血還原粘度(1/S)、血漿粘度、紅細胞聚集指数、紅細胞剛性指数、紅細胞変形性、紅細胞内粘度。
2)高血圧
3)糖尿病
4)心臓病
診断には以下の疾病を除きます。:頚椎病、内耳性めまい、偏頭痛、癲癇、精神病、慢性硬膜下血腫、緑内障、脳梗塞、脳出血、大動脈炎

2.弁証(中医学的診断)
本病の臨床症状には四種の類型が常見されます。

(1)肝陽上亢型
1)病因病機:40歳を超えて腎陰不足のもの、希望が遂げられず肝気不舒のもの、思い悩み怒り気が短く肝気衝逆のもの、下半身が力不足で上半身が緊張する肝風内動するものが、主な発病機序。
2)証候特徴:イライラし怒り易い、顏色が赤く口が苦い、めまいがして頭がはれぼったい、耳鳴り、四肢が痺れる、舌がこわばる。多くは高血圧や動脈硬化の既往がある。

(2)肝腎陰虚型
1)病因病機:早婚で多産や不摂生な性生活による肝腎虚損、水不涵木による虚風時動するものが、主な発病機序。
2)証候特徴:身体が衰え精神が疲れている、頭が虚ろで眼がチカチカする、物忘れをし多く夢を見る、動作が鈍い、表情が淡白、足腰が弱い、酷い場合は、大小便が制御できない、言葉がはっきり話せない。多くは脳動脈硬化や脳萎縮や糖尿病の既往がある。

(3)気虚血オ型
1)病因病機:体質虚弱、悩みや疲労が過度、怒り過ぎや喜び過ぎによる気血逆乱、内損や外傷による経脈不暢、気血が滞りによる血脈閉阻が、主な発病機序。
2)証候特徴:時々身体が痺れ、四肢が痛んだり膝が痛んだりする。胸に圧迫感がある、呼吸が浅い、頻繁に胸が痛む、偏頭痛、時々眼が見えなくなる。多くは心臓病や外傷の既往がある。

(4)痰湿阻絡型
1)病因病機:脂物が好き、酒を飲みタバコを吸う、太っていて腹が出ているなどから痰湿が内生し気痰上阻や脳竅時閉するものが、主な発病機序。
2)証候特徴:太っていて四肢が重い、いつも眠くよく横になる、頭が重く四肢が痺れる、時々どもる、手足がうまく使えない。多くは高脂血症や糖尿病の既往がある。

上述の四型が複合していることもあります。臨床では、症状が出たり出なかったりするもの、症状が重くなったり軽くなったりするものがあり、虚実夾雑証や本虚表実証のこともあります。病因は違っても病機の転帰は一致しています。

治療

1.原則
醒脳開竅、息風防閉

2.方法
醒脳開竅法
主穴:内関、人中、印堂、上星透百会、風池
補穴:省略
加減:省略

3.操作
刺針操作:省略
療程:毎日一回、10~12日を一療程として連続二療程。
注意事項:治療期間内は休息をすること、性生活を控え、タバコや飲酒を控え、情緒を安定させるようにすること。

臨床研究

ランダム抽出方法で観察した30例の中風前兆患者を醒脳開竅法で治療した臨床効果は、臨床治癒率61%、総有効率96.7%。対照群の臨床治癒率34%、総有効率95.6%、統計学的に二組の治療効果には明確な差異が認められます(P<0.05)。

同時にこれらの患者の血流変学の変化を観察したところ、醒脳開竅法を治療に使用した中風前兆患者の血液の濃さ、粘度、凝集状態に明確な改善が見られました(P<0.05)。伝統的な鍼灸治療方法を用いた対照群でも一部の血流変指標は改善しましたが、統計学的意義はありませんでした(P>0.05)。

日本ではこのような臨床研究や臨床確認はされていませんが、中国天津では病院単位で取り組んでこのようなデータや方法が確立されています。

決して中医学だけで診ると言っているのではなく、現代医学と中医学をうまく用いてよりよい治療効果を引き出すことが必要だということです。また、中医学による考え方の多くは現代医学の用語を用いて説明することが可能ですし、決して過去の経験だけで治療をする根拠の無いものではありません。

中国をはじめ、韓国や日本では昔から中医学をはじめとする東洋医学があります。お互いを否定するのではなく、お互いの利点をうまく用いて治療につなげることが重要であると思います。

脳神経疾患の臨床と研究

脳血管性認知症の概要

「認知症」とは、以前は「痴呆症」と言われていた疾患です。

脳血管障害に起因して起こる認知症を脳血管性認知症と言いますが、脳卒中で倒れてその後遺症として見られる以外に、小さな脳梗塞や脳出血が何回か起こることで徐々に認知症が顕著となるものがあります。また、「まだら痴呆」とも呼ばれます。

この「まだら痴呆」の特徴は、段階的に悪化してゆく点と、うまく物事が思い出せない以外にも、つまずきやすくなったり、箸がうまく使えなくなったりと他にも症状を伴う点です。また、多くは長い期間をかけて徐々に推移しますが、1~3ヶ月の短期間で急激に変化することもあります。

中医鍼灸ではどのように考えるか

中医学では、このような認知症も一般的な認知症も、「腎」にある「精」が少なくなる事が基本的な原因と考えます。また、「精血同源」と言って、「精」を蔵する「腎」と、「血」を蔵する「肝」は密接な関係があります。また、人の精神は「心」が統率していると考えるため、物忘れが激しかったり、理性が保てないような場合には、「心」に問題があると考えます。

上記以外にも、外的要因(気温の変化や激しく動揺するような出来事など)、内的要因(血行が悪い、血管が詰まっているなど)によっても引き起こされ、特に中医学では血行が悪い事を「オ血」と言い、血管がコレステロールなどによって詰まる事を「痰濁」と言ったりします。

中医鍼灸ではどのように治療するのか

鍼灸治療では、脳に対して気血の流れに滞りがないようにすることと、精神を司る「心」や精血に深く関係する「肝」「腎」を調節する事に主体を置いて治療にあたります。

実際の治療は、頭や顔面の刺針が中心となります。他にも手や足のツボを使って「心」「腎」を整えるような治療もします。また、首のコリが非常に強い場合が多いので首に刺針する事も多いです。また、首へのツボに対する刺針は健脳の作用があるとされますので、本疾患では重要な位置づけとなります。

認知症では意識が不明瞭であることが多く、意識が不明瞭な状態に行なう治療は刺激が少し強いため患者様ご本人が治療を嫌がる事も少なくありません。治療効果を出すためには治療を一定期間継続する必要があるため、ご家族や介助の方のご理解・ご協力が不可欠です。

脳梗塞や脳出血などの脳血管障害における後遺症に対する鍼灸治療の効果は、非常にすばらしいものがあります。高次脳機能障害と呼ばれる、失語症や認知症などは発症から比較的日数が経っていても機能回復していることが知られています。そして、この高次脳機能障害については、脳梗塞や脳出血による他の後遺症より、回復に対してご本人様の協力が何より重要となります。

日本では、まだまだ脳梗塞や脳出血の後遺症に対して鍼灸治療が有効であるということは知られていませんし、鍼灸治療自体もまだまだ知られていない部分が多いようです。ここで紹介させて頂いたように鍼灸で治療する事が出来るのです。

脳梗塞や脳出血の治療は時期を逃すと治療効果に大きな差が出てしまいます。これは、現代医学でも一緒です。いかに早い段階で適切な治療を始められるかどうかがポイントになります。

脳神経疾患の臨床と研究

仮性延髄麻痺麻痺(脳梗塞・脳出血)の概要

脳幹の延髄という部分に関する病気の障害で、発語・嚥下・咀嚼が出来なくなる、もしくは障害されることを「(真性)延髄麻痺」もしくは「仮性延髄麻痺」と言います。

両者の違いは、「脳のどの部分に障害があるか」ですが、共に脳内病変は両側性です。脳血管障害性仮性延髄麻痺の原因としては、小規模な何回かの脳梗塞や脳出血であることが多いです。この場合の特徴は、運動麻痺や感覚障害といった症状を伴う場合がほとんどだという点です。

中医鍼灸では、どのように考えるか

中医学では、舌やのどの動きが良くないのはその部分に気血がうまく流れていないからであると考えます。また、舌やのどに気血を送る元にも問題があれば同様に動きがうまくゆきません。

よって、舌やのどに対する気血の流れを良くする治療と、舌をコントロールしている「心」、のどをコントロールしている「肺」を調整する治療をあわせて行なってゆきます。

中医鍼灸では、どのようにちりょうするのか

実際の治療は、あごの下から舌に向けて刺針したり、耳の後ろからのどに向けて刺針したりします。また、手や足のツボを使って「心」「肺」を整えるような治療もします。

脳血管障害による仮性球麻痺症状を持つ場合は、全身の症状がかなり重篤な場合から軽度のものまで幅が広いため、治療に使用する鍼や刺激量にも幅があります。よって、治療頻度や期間もかなりの幅があります。

一般的には、片麻痺の治療と同じように発症から6ヶ月以内(回復期)であればなるべく頻繁に治療したほうが良く(毎日もしくは隔日)、それ以降(維持期)は、治療を開始して1・2ヶ月は週2・3回で治療し、その後は徐々に間隔を広げ週1回か半月に一度くらいにしてゆくという感じですが、仮性球麻痺以外の症状があまり顕著でないのであれば、比較的治療効果は良いように感じていますので、比較的早く症状が改善されるかもしれません。

脳梗塞や脳出血などの脳血管障害における後遺症に対する鍼灸治療の効果は、非常にすばらしいものがあります。特に、発症から三ヶ月以内の急性期や回復期での鍼灸治療は、運動障害に対して特に力を発揮し、後遺症の程度を軽減する事が知られています。また、運動器だけではなく、脳自体に対しても治療効果があるという研究報告もあります。

日本では、まだまだ片麻痺に対して鍼灸治療が有効であるということは知られていませんし、鍼灸治療自体もまだまだ知られていない部分が多いようです。ここで紹介させて頂いたように鍼灸で治療する事が出来るのです。

脳梗塞や脳出血の治療は時期を逃すと治療効果に大きな差が出てしまいます。これは、現代医学でも一緒です。いかに早い段階で適切な治療を始められるかどうかがポイントになります。

質問や疑問があれば、お気軽にお問い合わせください。

脳神経疾患の臨床と研究

片麻痺(脳梗塞・脳出血)の概要

脳梗塞や脳出血など、脳の血管に関係する疾患を専門的には「脳血管障害」と言います。この脳血管障害の後遺症で最も良く見られるのが「片麻痺」です。一般では「半身不随」と言うこともあります。右の脳に障害があると左半身の麻痺が起こるように、脳の障害部位と麻痺側は一般的には逆になります。

中医鍼灸では、どのように考えるか

中医学では、しっかり身体が動くためには全身各部分の気血の流れが滞りなく行なわれている必要があると考えます。片麻痺では、気血の流れがある原因によってうまく行かず身体がうまく動かないと考えます。鍼灸治療によって気血の流れを改善させ、全身各部分が動くように治療を進めてゆくことを主体とします。これを中医学では「疏通経絡(そつうけいらく)」と言い、片麻痺の主となる治療方針です。

中医鍼灸では、どのように治療するのか

力がうまく入らない部分、具体的には腕なら肘や手首を伸ばす側の筋肉に対して主に刺針をしてゆきます。片麻痺の場合、中医学ではバランスがとれずにうまく気血が流れないと解釈するため、筋肉に力が入る曲げる側ではなく、伸ばす側に刺針することで、両方のバランスをとるようにします。治療の頻度は、脳血管障害の発症から6ヶ月以内(回復期)であればなるべく頻繁に治療したほうが良く(毎日もしくは隔日)、それ以降(維持期)は、治療を開始して1・2ヶ月は週2・3回で治療し、その後は徐々に間隔を広げ週1回か半月に一度くらいにしてゆくのがよいでしょう。

脳梗塞や脳出血などの脳血管障害における後遺症に対する鍼灸治療の効果は、非常にすばらしいものがあります。特に、発症から三ヶ月以内の急性期や回復期での鍼灸治療は、運動障害に対して特に力を発揮し、後遺症の程度を軽減する事が知られています。また、運動器だけではなく、脳自体に対しても治療効果があるという研究報告もあります。

日本では、まだまだ片麻痺に対して鍼灸治療が有効であるということは知られていませんし、鍼灸治療自体もまだまだ知られていない部分が多いようです。ここで紹介させて頂いたように鍼灸で治療する事が出来るのです。

脳梗塞や脳出血の治療は時期を逃すと治療効果に大きな差が出てしまいます。これは、現代医学でも一緒です。いかに早い段階で適切な治療を始められるかどうかがポイントになります。

質問や疑問があれば、お気軽にお問い合わせください。

脳神経疾患の臨床と研究

概要

筋萎縮性側索硬化症は脊髄の退行性病変で、その病気の原因は明確ではありません。多くは中年で罹患します。その臨床症状は筋肉の進行性萎縮で、酷い脱力を伴います。延髄にまで及んだ場合には構音及び嚥下障害に進展し、声のかすれ、嚥下困難、舌筋萎縮などの症状が見られます。

その臨床症状は中医の痿証の範疇に属し、肝腎虧虚、精髓不充により至ります。現在有効な治療方法はありません。

ここでは、針刺治療20例を取り上げ、現時点での分析を以下に紹介します。

(注1):現在日本では本病にして薬物療法やリハビリ療法が行なわれています。
(注2):本論文の作成年がはっきりませんが、恐らく1970年代後半から1980年代前半に書かれた物と推定されます。

一般情報

入院:8例、外来:12例
性別:男15例、女5例
年齢:30~40歳7例、41~50歳9例、50歳以上4例
治療期間:三ヶ月を一療程とし、最短一療程、最長四療程。

治療方法

治則:滋補肝腎、填精益髓
処方:
 主穴:風府、華佗夾脊
 構音障害:廉泉、翳風
操作:省略
治療頻度:毎日1~2回

治療効果評価

(一)治療効果判断基準
 1、臨床治癒:萎縮筋肉が正常に回復。
 2、顕効:症状は明確に好転、肢体は有力、部分的に萎縮筋肉は回復。
 3、好転:症状好転、病情は再進展しない。
 4、無効:病情の変化無し。
(二)治療効果分析
 顕効:12例60%
 好転:5例25%
 無効:3例15%
 総有効率:85%

典型病歴紹介

梁×× 男 44歳 設計士 初診日時:1974年10月7日

主訴
嚥下困難、飲食時にむせる、声のかすれ 三年

病歴
患者は三年前から手足の無力感があり、行動困難、母小指球及び四肢筋肉に進行性の萎縮、めまい耳鳴り、物忘れがみられ、次第に嚥下困難、飲食時のむせ、声のかすれに至った。以前は大連医院で、「中風」と考えられ治療を受けていたが、後に天津中医学院附属医院脳系科によって筋萎縮性側索硬化症--延髄麻痺を診断された。中西薬物(漢方薬と現代医学薬物)を服用したが病情は好転せず次第に重くなったため、針灸科に診察に来た。

検査
体格は痩せ型、精神的には元気が無い、顔面につやが無い、舌筋萎縮により地図様を呈しており、舌筋震顫を伴う、口蓋垂右方偏位、咽頭反射遅延、両手母小指球は明確に萎縮、握力低下、腱反射亢進、ホフマン反射陽性。体重49KG。

診断
現代医学:筋萎縮性側索硬化症--延髄麻痺
中医学:痿証

治療経過
上記の方法によって、毎日一回治療。一療程(ここでは三ヶ月治療)後では舌筋萎縮及び震顫の好転あり、肢体は治療前よりも有力になった。嚥下も好転し飲食時に稀にむせる事がある。萎縮筋肉には明確な回復は見られなかった。継続して更に一療程治療したことにより、舌筋は回復し、震顫も見られなくなった。声のかすれも明確に好転し、思ったように行動できるようになった。萎縮筋肉は部分的に回復が見られ、体重は8KG増加した。針刺治療によって症状は抑制された。その後、治療効果を強固にするために断続的に一療程治療を続けた。治療効果は顕効。追跡調査によると、今でも治療効果は維持しており、症状の再進展は見られていない。

考察

本病は現在、根治に至る特別な治療方法はありません。私達は中医弁証によって、本法の治療を採用し、比較的満足な効果を上げています。しかし、症状の緩解が達成できるだけです。また、ある病例では病情の進展がとても早く、臨床では制御が非常に難しいため、更に一歩進んで検討する必要があります。病例は比較的少ないため、ここでは治療方法の紹介を主とします。治療の参考にして下さい。

原文:
天津中医学院第一附属病院
論文集 上冊

留学中に数症例、帰国後数十症例、本病の治療にあたりました。ここで取り上げられている症例は比較的良い経過を取ったものではあると思いますが、実際に自力で歩行できずに来院し治療を始めた患者さんが自力歩行が出来るようになって、退院していったという話は私が研修をしていた病院で良く聞かれた話でした。私自身もその経験があります。
また、この論文中にもある通りに非常に少ない疾患で、針刺治療がどの程度有効か、という研究が進んでいないのが現状のようです。

しかし、本病から起こる動きずらさや、力がうまく入らない、飲食時のむせなどに対して、針刺治療は臨床的に有効です。現在、保険適応がある薬を使いながら針刺治療を併用することで本病の進行を抑制できる可能性は低くは無いと感じていますが、それを裏付けるデータ類はありません。今後の研究が待たれます。

東洋医学という選択肢

現代医学は必須だが…

 現代医学は絶対に必須です。しかし、現代医学だけで判断すると言う事ではありません。
 どのような学問や方法であっても、得手も不得手もあります。現代医学が絶対的に正しいという意味ではありません。
 大きな情報になるし有効な治療手段もたくさんあります。しかし、不得手な部分に関して、要は現代医学では良く分からない事に対して、現代医学で考えてもしょうがないです。だって、不得手なんですから。

新薬についての参考情報

 MNDやALSは現在(2013年10月現在)、国内で新薬の治験が数か所で行われています。当院は病院ではありませんし、私は医師ではありませんので、紹介することはできませんが、いろいろな患者さんからお聞きしている情報があります。また現代医学の薬を使ってみたという情報もあります。
 現代医学的な評価は病院や医師に任せますが、東洋医学的な評価や感想はお話しすることができます。

リハビリは可能ならプロの指導を

 大雑把に、どういうリハビリや運動訓練をした方が良いのかはお話しすることはできますが、やはり餅は餅屋、リハビリに関しては理学療法士などの、その道のプロに指導を受けた方がイイです。
 例えば歩行の仕方です。歩くことは普通の事ですが、普通すぎて改めてリハビリとしてやってみようと思うと難しいものです。今まで考えたことも無かった発見があったりするので、可能であればプロの指導をお薦めします。

サプリメントは薬では無いが専門的知識が必要

 ネットにはクレアチンが良いだとか、エルカルチンが良いだとか、いろいろなことが言われています。
 それぞれが効果としてどうなのかは私には分かりませんが、比較的簡単に入手できるからと言って、何の知識も無く、やみくもに使うべきではないと思います。
 体にある程度の反応を求める、つまり症状に対する治療効果を求めるのであれば、サプリメントであれ、薬とある程度は同じように考えるべきです。

東洋医学という選択肢

症状や所見から東洋医学的に診断して投薬

 漢方薬は、東洋医学的な診断や理論によって、先人達が効果を確認し、記録として残してくれたものを元にいろいろな処方があります。これを現代医学的な考えで漢方薬を使おうとしても上手くゆかない事も多く発生してしまいます。
 ちょっと前に花粉症に小青竜湯がイイと言われたことがありましたが、小青竜湯は体を温める薬です。もし、その人が体温が上がってしまうタイプの花粉症になっていたら、体温を上げてしまう小青竜湯は飲めば症状が悪化したり副作用が出てしまったりします。
 現代医学で使われている薬も現代医学的な診断を元にして処方されるように、漢方薬も東洋医学的な診断を元に処方するべきです。

基本は煎じ薬でその人に合わせる

 漢方薬の基本形は、その人の今の症状や元々の体質などによって生薬を組み合わせて作る煎じ薬です。完全なオーダーメイドです。
 症状や体質も違いますが、その時の季節や気候変化、職場や住んでいる場所の環境状態などなど、東洋医学では、たくさんの要素によって最終的に今の症状になっていると考えますので、生薬を一つ一つ組み合わせて漢方薬を処方します。

日本では出来合いのものが基本

 日本では出来合いのもの、つまり生薬の種類が決まっている約束処方の漢方薬が一般的です。葛根湯などがそうで、使っている生薬の種類が決まっています。
 その人にぴったりの漢方薬は約束処方である以上、なかなかありませんが、昔の人が経験的に多くの人に使えるものを約束処方として残してくれたものですので、とても良い処方がたくさんあります。ですので、いくつか使って自分にあった処方を見つけると言う作業も必要になることもあります。

副作用が無い訳では無い

 東洋医学的に診断しても漢方薬にまったく副作用が無い訳ではありません。理由の一つは約束処方と言う点。もう一つは、現代人に多く見られるアレルギーの問題。そして他に飲んでいる薬やサプリメントなどとの飲み併せの問題です。
 薬である以上、副作用が全く無いというものはありません。漢方薬は副作用が無いと言う話に惑わされて、何でも構わず使えば副作用の可能性は上がりますし、東洋医学的な診断をしないで使えば当然副作用の可能性は上がります。

補益が最大利点

 私が考える漢方薬の最大の利点は『体を元気にさせる』ことです。
 現代医学の薬にもプラセンタなど一部の薬には、体を元気にさせる作用がありますが(ちなみに東洋医学ではプラセンタは「紫河車」という漢方薬です)、非常に少ないのが現状です。
 どのような治療方法で取り組んでいったらいいのかどうかを判断する際、体を元気にさせる必要性が高ければ漢方薬を使う事を強くお勧めします。

市販品は生薬量が少ない物が多く効果が見えずらい

 市販の漢方薬は、使っている生薬の量が少ないものが非常に多いです。生薬の量が少ないことで副作用のリスクを下げることができますが、効果が実感できない場合が多い感じがします。
 例えば葛根湯ですが、葛根・麻黄・大棗・桂枝・芍薬・生姜・甘草という生薬が入っています。逆に言うと、これらの生薬で作られている処方を葛根湯と呼ぶのですが、市販のある葛根湯で使われている葛根の量は4gです。私が学校で習った葛根湯の葛根の量は12gです。生薬から成分を抽出する方法などが進化しているので同じには考えられませんが、少ないですよね。
 漢方薬は効きづらいと良く効きますが、このような背景もあるんです。

名称が同じ場合は使っている生薬の種類は同じだが…

 市販の漢方薬は同じ名称でも、入っている生薬の量が違う事が多いんです。例えば葛根湯ですが、葛根の量がある製品は4g、別の製品では8gです。結構違うもんなんです。他の漢方薬でも状況は大体一緒です。
 いろいろな背景があるんでしょうから良い悪いという話ではありませんが、名称が同じでも生薬の量が全く違う場合があることは知っておいた方がいいでしょう。

生薬の量が違えば同じ名称でも効果が全然変わってしまう

 先日も「補陽還五湯」という漢方薬が、脳卒中後遺症に良いと言う話をしたところ、日本でも売っている事が患者さんからの情報で分かりました。でも調べてみたら、使われている生薬の量が違い過ぎます。この製品でも効く人はそれでいいですが、私ならこの製品は、本来の補陽還五湯が適していると思われる方には勧めません。
 漢方薬を使う時には使われている生薬の量を確認しないと期待する効果も全然変わってしまうんですね。

服薬は値段を考えて

 漢方薬には、非常に高価なものもたくさんあります。希少なものを使っているので値段が上がってしまうのもしょうが無いのですが、少し考えてもらいたい事があります。
 以前、私が勤めていた漢方クリニックでは、日本の医師と中国の中医師が2人で診察にあたっていました。2人の医師が患者さんの話を聞き、診察し、自費で患者さんの状況に合わせた煎じ薬を処方した場合、診察料と漢方薬代込みで一ヶ月4万円くらいでした。今は漢方薬の値段が上がっているので、もう少し高くなっているかもしれませんが、こんな感じです。
 例えば、冬虫夏草と言う漢方薬が良いと言われて5万出して購入してみる。それ自体は良いのですが、前述の通り2人のプロに今の状況にあった煎じ薬を調合してもらって4・5万です。それでも冬虫夏草を試してみたいと考え、ご自身が納得して購入するなら構いませんが、普段使わない漢方薬などの商品は、金額の基準が全く分からないと思いますので、一つの参考として頭に入れておいてもらえるとイイと思います。

東洋医学という選択肢

東洋医学では肢体は経絡、内臓は五臓六腑というシステムで考える

 東洋医学では、人体は五臓が生命活動の中心的役割をしていて、内臓は五臓六腑で生命活動をして、その五臓六腑に関係する経絡が肢体を動かしていると考えています。細かい話は複雑になってしまうので省略しますが、現代医学とは人体の捉え方が違います。
 でも結局、解りたいのは同じ人体ですので、解釈の表現方法や治療方法に違いはありますが、言いたい事は一緒です。
 例えば腰痛ですが、現代医学では腰椎椎間板ヘルニアが画像的に確認できれば病名は腰椎椎間板ヘルニアになります。なので、腰椎の椎間板がヘルニアしている(突出している)ことに対して、現代医学では治療することになります。東洋医学では腰痛は五臓のうちの「腎」が関係するので、「腎」に関係する経絡やツボに鍼や灸などの治療をする事になります。現代医学的に考えても、腎臓は腰の上の方にあって、その周囲には大きな筋肉があります。人体は、ある部分で機能不全などが起こるとその周囲の筋肉が緊張する傾向があるので、腎臓の調子が少し悪かったりすると、その周囲の筋肉が緊張傾向になります。この周囲の筋肉の緊張が過剰になり椎間板へ影響が出れば、腰椎椎間板ヘルニアになったりします。
 東洋医学では、五臓を中心にしたシステムで人体を観察し治療してきた経験から学問化されています。現代医学のパーツが組上がって人体と言うシステムになっているという考え方とは、少し違うので治療に対する考え方も少し違ったりするんです。

東洋医学ではMNDやALSは痿証や瘖痱、CVDは中風

 『素問』と言う古典の中に『痿論』という項目があり、そこで痿証について書かれています。痿証とは手足の筋肉が弛緩して力が入らなくなり段々使えなくなり筋肉が萎縮してゆく、特に足に強く出る、と書かれています。瘖痱は『医宗金鑑』という古典の中に、手足がうまく動かず痛くないものを痱といい、ひどくなり上手く話せなくなったものを瘖痱と言う、と書かれています。
 これらは現代医学的な病名で言うといくつかの状況が考えられますが、運動ニューロン病(以下MND)や筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)も当てはまります。また、脳血管障害(以下CVD)は中風と呼ばれ、東洋医学的には更に、中臓腑や中経絡に分けられます。
 このように古典上でいろいろと書かれているのですが、治療方法についてもいろいろな古典で論じられています。

局所は現代医学的、五臓からの影響は東洋医学的な治療を

 私が考える鍼灸の利点は、現代医学的にも東洋医学的にも治療ができることです。
 現代医学はパーツが組み上がって人体と言うシステムになっていると考えているので、パーツに対する治療が得意です。鍼灸で、筋肉や神経という人体のパーツに刺激することができますので、現代医学的に考えた診断や治療ができます。東洋医学では、五臓を中心としたシステムで人体を診ますので、五臓を中心とした治療をするのが得意です。鍼灸で、五臓に関係の深いツボに刺激することで、東洋医学的に考えた診断や治療ができます。
 また、鍼灸には経絡と言う特徴的な考え方があります。この経絡が実は、現代医学と東洋医学を混在させたような理論になっていて、経絡上にあるツボ(経穴と言います)に刺激することでパーツに対しても、五臓に対しても治療することができます。

薬を使わないので内臓などに負荷をあまりかけない

 薬やサプリメントなどを飲むと、消化吸収されて血液の中に成分が入り、全身を回って作用します。実は、この過程の途中に肝臓を通ります。肝臓では血液の成分を調節しているのですが、大量に一部の成分が全身に回らないように分解や解毒もしています。
 薬やサプリメントの成分は、ほとんどの場合、肝臓で分解・解毒されます。そのため薬やサプリメントを飲み過ぎている人は肝臓が疲弊しています。
 先に挙げたように肝臓は血液の成分を調節しているところです。体を元気にさせる成分も肝臓で調節されています。肝臓が疲れていては元気になりずらいことになります。
 その点、鍼灸は薬を使う訳ではないので肝臓にはさほど負担をかけませんし、鍼灸治療によって肝臓の機能を活性化させることもできます。

治療効果がすぐに確認できることが少なくない

 鍼灸の特徴の一つに「即効性」があります。
 鍼を打ってすぐに力が入り易くなったり、声が出し易くなったりすることは珍しいことでは無く、日常的に見られることです。そして一定の時間が経ってから症状の変化が出るものがあります。
 体に良い美味しいものを食べればその場で美味しいとまず感じますよね。そして次の日とかに体の調子も何と無く良い気がする。鍼灸治療も似た所があります。

人が人に施術するので相性が少なからずある

 多くはありませんが、鍼灸治療そのものにも相性のようなものがあります。そして、鍼灸治療をする施術者との相性もあります。
 相性が良いのであれば全く問題はありませんが、逆に相性が悪いと言う事も起こります。そのようなことが起こらないようにするために、いくつかの回避策を考えて治療に臨んでいますが、人が人に施す以上、どうしても避けられない部分があります。

身体的にバランスを取る事に長けるが極端な虚弱者は効果が現れずらい

 鍼灸治療は身体に鍼灸を施し、体が元々持っているバランスを整わせる力を使ったり、体を正常な状態に戻そうとする自己治癒力を使って、症状を改善させようとします。
 どちらの場合も、体が持っている力を利用します。その力はその人の体力に依存します。と言う事は、極端に体が弱っていると、その力を使う事で体力を消耗して更に体が弱ってしまう事になります。
 そう言う時にも使用できる治療方法もありますが、大きな反応を起こすような治療はできません。そう言う時は少しずつ治療を進めてゆくことになります。

脳に関係する病の治療は回数が多いほど良いが、体力との兼ね合いが重要

 MNDやALS、CVDといった脳や神経に関係する病気では、鍼灸治療の回数が多ければ多いほど治療効果が良いことが知られています。
 私が研修していた天津の病院では一日二回で毎日治療しています。しかし、既に書かせて頂いたように鍼灸治療は多少の体力を必要とします。
 通院して治療を進めてゆく場合、問題になるのは鍼灸治療に耐えられる体力があるかどうかよりも、通院に耐えられる体力があるかどうかです。車などに乗ってくる場合、揺れている車内で姿勢を保持するように体は勝手に筋肉を使って姿勢の調整をしています。そのため、ただ乗ってくるだけでも体力を消耗します。通院で消耗する体力も換算して実際の治療頻度が決まってきます。

東洋医学という選択肢

性生活は控える

 東洋医学では、「腎は精を蔵し、精は髄を生み、髄海を潤す」と言われています。髄海とは脳の事です。腎と脳は深い関係がある事を言っていますが、腎に蔵されている精を使ってしまうと髄海を潤せない、つまり脳を栄養できないことになります。
 この精ですが、ストレートに男性の精液のことも指します。つまりセックスによって精液を体外に出してしまうと精を使ってしまう事になります。女性についてはあまり言われませんが、基本的には治療期間中はセックスは控えめにしてください。

睡眠は大事

 東洋医学では「心は神志をつかさどる」と言い、睡眠は「心」の正常な変化によって起こるとされています。神志とは脳の機能のこと、つまり精神のことですが、「心」の状態が脳の機能に影響すると言う事です。
 睡眠が良くないと「心」も良くない事になりますので、結果的に睡眠状態が良くないと脳に対しても良くないと言う事になります。
 大変な病名が目の前に現れて、気持ちが落ち着かずに夜眠りずらくなったり、すぐに起きてしまったりすることは、ある程度はしょうが無いことだと思います。ですので、現代医学の薬を使っても、漢方を使っても、鍼灸を使っても良いので、睡眠できるようにしてゆきましょう。

短気は損気

 どんな病気でもそうですが、特に脳や神経に関係する病気では、焦りやイライラはものすごくマイナスに作用します。
 本当に「短気は損気」です。
 気が損なわれて、体にとって良い事は何一つ起こりません。また、体の状態からイライラしやすくなっている場合もあります。
 運動や瞑想などによって解消するか、鍼灸や漢方薬を使って改善させるようにした方が良いので、焦りやイライラは隠さないで伝えて下さい。

「別焦急、笑一笑」(焦る必要は無いよ。ほら、笑って笑って。)

 何を隠そう、偉そうなことを書いている私も、脳病に対する勉強を始めたころ、とにかく焦って勉強していました。
 中国天津の大学病院での研修期間にも限りがあったし、外国人である私にはいろいろなハンデもあります。現代医学的にも東洋医学的にも脳に関係するものはとにかく難しいし、やるべき内容も多い。毎日、本当に戦いといった心境でした。
 でもある日、私の先生が「別焦急、笑一笑。(焦る必要は無いよ。ほら、笑って笑って。)」と言ってきたのです。こんなに頑張っているのに何を言うか?と一瞬思いましたが、オレ、相当テンパッてるんだな、とすぐに思い直しました。
 物事をテンパッてやってる人って、あんまり上手くできていない人の事ですよね?焦る気持ちそのものは悪いものではないと思うし、それはそれでいいと思うんです。でも、焦る気持ちと併せて気持ちの余裕も持ち合わせなさい、と教えてもらったと思いました。

サプリメントは目的を持って、PDCAを考えて使う

 健康食品やサプリメントは医療品ではありませんから、医学的効果はあまり無い、もしくは、分かっていない事になります。しかし、試してみないと分からないのも事実です。その際、ちゃんと計画を立てて使ってください。
 良く仕事で使うP(計画)、D(実行)、C(確認)、A(改善)を意識して下さい。例えば、あるサプリメントを試す時、一ヶ月間使ってみて筋力に変化が出るか試してみる(計画)。実際に一ヶ月間試してみる(実行)。一か月後、筋力に変化はあったのか、もしくは顕著ではないが変化はあったのか、増えたのか減ったのか、筋力以外の体調などの変化はあったのか(確認)。もう少し続けてみるのか、中止するのか(改善)。といった感じです。
 やみくもに、良いと言われるものを使うのは、時間的にも金額的にもあまり良いとは思えません。ちゃんと確認することで、その時使った状況(体調や環境も影響することもあります)では、このような結果になったという記録が残せますので、うまくいった時も、いかなかった時も有用な情報になります。

東洋医学という選択肢

心をリラックスさせるために

 心をリラックスする方法はたくさんありますが、比較的場所や時間を選ばずにできる瞑想がお薦めです。
 瞑想というと何だか怪しげですし、どうしたらいいのかさっぱり分からないと思いますが、静かな場所でゆっくり呼吸をしながら体の力を抜いて一定時間、じっとしていればいいだけです。座ってやってもいいですし、寝てやっても、立ってやってもいいです。5分から30分くらいが目安でしょうか。最初は5分間でもゆっくり呼吸をしながら体の力を抜いてじっとしていることができないもんです。何回かやっていると「コツ」のようなものがつかめます。(参考書籍:始めよう。瞑想、宝彩有菜、光文社)

本来の意味は深いがあまり考えずに

 瞑想の手引書は、ものすごくたくさん出ています。私も相当数読みましたが、習うより慣れろです(笑)。
 変に知識を入れない方が、リラックスできてしまうかも知れません。
 瞑想はリラックスする以外にも別の目的を持ってする事ができるので、いろいろな意味ややり方があります。本を読むといろいろと書いてありますが、一番ダメなのは、読んで頭に入ってしまった知識や、その本で表現されている言葉にとらわれてしまう事です。
 これらにとらわれている事自体が緊張を生んでしまいますので、あまり考えずに、気楽に、とりあえず打座(座ること)する…くらいでいいんじゃないでしょうか。

一日5分でもよい

 とにかく慣れるまでは、一日5分でいいので毎日やります(と書いておけば二日に一回はやるでしょう:笑)。
 どれくらいで慣れるかは人によりますが、1~3ヶ月といったとこでしょうか。
 最初は瞑想をしても、瞑想になっているのかも良く分からないし、そもそもやっている事が正しいのかも分からないかもしれません。ここで話している瞑想の目的は「心をリラックスすること」です。瞑想という言葉にとらわれないで、「5分間、心をリラックスする」ように取り組んでみてはどうですか。

自律訓練法の紹介

 広く知られている心身のリラックス法に「自律訓練法」というものがあります。
 1932年にドイツの精神医学者であるヨハナス・ハインリッヒ・シュルツによって確立されたものです。元々は心身症や神経症の治癒法として考え出されたものですが、今ではストレス緩和法として、あるいは能力開発法としても注目されるようになっているようです。両手両足が重くなる…とか、両手両足が温かくなる…とかやるやつです。知っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 非常に知られた方法で、比較的簡単にリラックス状態が得られます。まずは自律訓練法から始めてみるのも悪くないですね。(参考書籍:実践自律訓練法、佐々木雄二、ごま書房新社)(参考CD:自律訓練法、プレム・プロモーション株式会社)

東洋医学という選択肢

日常生活でも十分

 本来は日常生活で体を動かす程度で運動量は十分足りるはずと思います。いろいろな状況があるので、みんなが日常生活だけで十分とは言いませんが、ただ座ってテレビを観るのだって、それなりに筋力も体力も使います。
 運動量で考えると多少歩いたり、筋肉トレーニングをしたりしても、大した運動量はありません。それよりも日常生活における普段の素行の方が運動量が多いです。
 普段から姿勢を良くすること、どたどた歩かないこと、よく噛んでご飯を食べることなどなど、当たり前のことを当たり前にすることが一番大事です。

ラジオ体操は意外と良くできている

 ラジオ体操は誰が考えたんだか知りませんが、ものすごく良くできています。私の勝手な想像ですが、きっと元ネタがあるんじゃないかと思います。例えば、江戸時代のどっかの藩の流派の基本の型をアレンジしたとか。
 とにかく良くできているし、日本人なら大体知っているはずです。忘れていても、ちょっと見たり、あの音楽を聞いたりするとできてしまう人がほとんどではないでしょうか。
 最近はラジオ体操の解説本やDVDなども出ているようですが、何はともあれ、明日からやってみては、どうですか?

太極拳やヨガなども良いが良い先生に習うべき

 良く聞かれるのが太極拳とかヨガとかについてです。
 私は中国武術を遊び程度ですが20年くらいやっています。その経験から言わせてもらうなら、どちらもいろいろな意味でとてもお薦めできます。しかし、いくつかの条件があります。
 まず、自分に合うかどうかです。太極拳やヨガをやって楽しいと思えたり、合っていると思えれば良いと思いますが、そう感じないのなら違うものを探した方が良いと思います。
 そして、良い先生との出会いです。習い事は、どれもそうなのかも知れませんが、自分にとって良い先生から習えるかどうかは大きいです。例えば中国武術の基本に馬歩と言うものがあります。馬にまたがっているような形になるので馬歩と言いますが、ようは空気椅子です。いたってシンプルな形です。しかし、この馬歩の練習にはいくつかの意味があります。良い先生に習う事ができれば練習を通して、そこに導いてくれるでしょう。

動く練習も動かない練習も必要

 普通、運動と言えば動いてするものと思われていますが、実は動かない練習も非常に重要だったりします。例えば、剣道や柔道は動いて稽古しています。しかし併せて正座して座禅のような事もするはずです。
 昔からあるものにはこのように動静両方の運動要素が入っています。
 簡単に解釈すれば、動く練習は動くための筋肉を付ける練習、動かない練習は無駄な力を入れない練習、もしくは姿勢保持に重要なインナーマッスルを付ける練習とも言えます。

休息の時間を必ず確保する

 脳や神経の病気で運動をする場合は、運動のし過ぎはよくありません。しかし、運動しないのはもっとダメです。
 どの程度の運動量が今の体調に適しているのかはやってみないと分かりません。そこで私からの提案は、運動をする場合、必ず休息の時間を併せて確保することです。
 例えば、1時間運動に確保できたら併せて15分は休息に確保し、全体で1時間15分時間を確保します。普通は運動する時間しか確保しないと思いますが、脳や神経の病気の方は必ず守って下さい。
 その時の体調で、同じように1時間歩いても疲れ方が違うと思います。もし、今日は疲れたと思えば確保してある15分の休息時間でストレッチをするなりアイシングをするなり休息して下さい。逆に全然疲れなかったら、その15分は別の事に使えばいいです。この併せて確保した休息の時間で運動のし過ぎをフォローすればいいんです。

東洋医学という選択肢

食品を陰陽で分けて考えてみる

 体の状態や食材を、陰陽という二つの象徴で分類します。そして、体の状態が陰性に傾いている時には陽性の食材を多目に取り、体の状態が陽性に傾いている時には陰性の食材を多目に取ってバランスを取ります。このようにして陰陽のバランスを取ることで体の状態にあった食事をすることを目指します。
 正直に言うと、どのような理論を使おうが体の状態にあった食事ができるなら、それで良いのですが、この陰陽で分けるマクロビオティックの考え方が、比較的広く知られていますので、勉強する際の勉強しやすさから「マクロビオティック」という食事療法を参考にすることをお勧めしています。

自分の体が欲しがるものを食べてみる

 疲れると甘いものが食べたくなる人と、肉などで力が出るものを食べたくなる人がいます。前者のタイプは疲れると体が緊張するタイプの人で甘いものを食べて体をリラックスさせようとします。後者のタイプは疲れると力が抜けるタイプの人で肉や味の濃いものを食べて体に力が入るようにさせようとします。
 どちらのタイプも結局は体のバランスを取る方向の食べ物が欲しくなるので、自分の食べたいものを食べるのが正解なのです。

砂糖はNGだが、絶対ダメという訳では無い

 ではなぜ、マクロビオティックなどの食事療法を勧めたり、食事療法では砂糖は厳禁などと言うのでしょうか。それは「食べ過ぎてしまうから」です。
 知識を入れて理性も使って食べるものを調節して欲しいんです。
 一般的な砂糖は精製されています。食べ物に普通ある「アク」が完全に取り除かれています。この「アク」が無いせいで砂糖は無制限に食べれてしまいます。甘いものが好きな人ならケーキはホールごと食べられたりしますが、ちょっとイイどら焼きとかはそんなに食べられません。普通、ちょっとイイ和菓子なら和三盆などの精製していない砂糖を使っているので、食べすぎれば気持ち悪くなります。
 他にも砂糖の取り過ぎには痴呆症を悪化させたり(正確には砂糖だけのせいではありませんが高血糖状態を作る事が痴呆症の原因になる事が分かっています)、動脈硬化も起こり易くなったりします(これも正確には砂糖だけのせいではありませんが糖化が原因の一つにはなっている事が分かっています)。

食事は美味しく感謝して頂くのが大前提

 食事療法を少し勉強すると、砂糖はダメ、合成調味料はダメ、夏野菜は体を冷やすのでダメ、果物は体を冷やすのでダメ、などなど、ダメダメづくしです(笑)。
 確かに今の体調に合わないものは食べない方が良いし、化学合成系の添加物は人体にとって良くありません。
 でも、絶対に忘れていけないのは「食事は美味しく感謝して頂く」気持ちです。食べ物は空から湧いてくる訳ではありません。誰かが汗水流して作っているはずです。命あるものを頂くこと、作ってくれている人がいることに対しての感謝の気持ちを持たずに、目くじら立てて、あれがダメだのこれがダメだの、何か間違っている気がします。

日本食は良くできている

 日本食には、先人の知恵が非常に多く含まれています。春になれば山菜の天ぷらを食べ、夏になればスイカを食べ、秋になればサンマを食べ、冬になれば鍋をつつく。伝統的な食文化には、その土地で生きるための知恵が含まれています。山菜の天ぷらは解毒に、スイカは利尿と解熱に、サンマは栄養と潤いに、鍋は体を温めます。
 全てとは言いませんが、非常に良く考えられています。
 お米を食べる事も、お味噌汁を飲む事も、漬物を食べる事もです。食事療法の知識が付くと、日本人ってすごいなぁって、改めて思うようになりますよ。

自分で選択できるようになる

 マクロビロティックなどの食事療法の知識と、食べたくなったものを食べてみたり、食べ過ぎてみたり、マクロビオティックの考えに沿った食事をしてみたり、そういった経験を積み重ねてゆくと、その時の体調や、その時の季節に応じて食事が選択できるようになります。
 病気の症状や体調によってどういったものを食べてはいけないとか食べた方がいいとかの話はできますが、それは私が体を診させて頂いた時、その時の話です。しばらくはそれで問題はありませんが、治療や食事や生活などで体調が変化すれば、それに合わせて食事も変えなくてはいけません。ですので、実際には普段の食事に関係する話は大雑把な話だけしかしてあげられません。
 少しずつで良いので食事を具体的にどうしたら良いのかは自分自身で選択できるようになりましょう。

東洋医学という選択肢

基本的な体調管理は、飲食・排泄・睡眠・運動・休息

 体調管理を見直す上で考えてもらいたい項目は、飲食と排泄、睡眠、運動と休息です。
 体は食べた物や飲んだ物からしか作られません。体を構成するほとんど全ての材料は飲食物です。また不要になった物は排泄しなくてはいけませんので、大便や小便が正常であることも非常に重要です。そして、取り入れた原材料をどのように使うか、どこに配置するのかが運動や休息で決まります。睡眠は全体の微調節をしているように感じます。また、精神的な休息もしているようです。
 全体がうまく関係しあってバランスを取っているようなので、どこかが多少うまくいかなくても、他の部分でフォローしてくれます。しかし、極端にできていない場合、例えばロクなもの食べていないとか寝てないとかですが、そうなると全てがおかしくなってゆきます。全体的にぼちぼちできている事が大事なようです。

精神状態が悪くて体調が良いと言うことは無い

 気分が塞いでいれば体調も優れないのが普通でしょう。無理に明るくしろとは言いませんが、体調を管理する一環に気分のコントロールも考えてもらいたいんです。
 気分が「塞いで」いるんですから開ければよい訳です。開けば何かが出てきます。
 運動して塞いでいるものが開けば、汗が出てきます。感動する映画を見て塞いでいるものが開けば、涙が出てきます。美味しい物を見つけて塞いでいるものが開けば、ヨダレが出てきます。こう考えると気分のコントロールは決して難しいものでは無いんです。

東洋医学という選択肢

ネットでの情報も大事だが成書での知識も必要

 インターネット上には、いろいろな情報があります。同じ病気の人が書いているブログや病気の事について書かれているホームページなど、参考になる情報がたくさんあります。
 しかし気を付けて頂きたいのは、それらの内容の受け取り方です。
 例えば、普通に右手が使える人がブログに、今日右手でコップを持ってコーヒーを飲んだ、とは書きません。つまり、その人にとって当たり前のことは、記事にはならないです。
 人によって当たり前と思う事に差がありますから、記事の表現に注意する必要があります。
 では、基準となる知識はどこから得たら良いでしょうか。
 それは本を読むしかないです。
 専門用語は多いし大変かもしれませんが、結局は基礎となる標準的知識を持っていないと判断しようがないことが多いですので成書を読む事もお勧めします。

情報は上手く使うべきで振り回されない

 インターネットや雑誌やテレビだけの情報に振り回されて、結局治療に上手く取り組めないのは考えものです。
 情報は大事ですので、積極的に情報収集することには賛成です。しかし、情報は使うものであって振り回されるものではありません。
 この点は十分、肝に銘じておいてもらいたいです。

東洋医学という選択肢

治療と生活のバランス

 治療をしてゆくにあたって、今までの生活を全く変えずに、治療を加えてゆくのが可能な方はあまりいないでしょう。治療する時間を作らなくてはいけない場合がほとんどだと思います。
 治療は大事です。でも生活も大事です。どちらも大事なのでどちらも完璧に取り組みたいところですが現実的には難しいです。
 ここで考えてもらいたいのが基本的なスタンスとして、治療を7:3で重視するとか、生活を6:4で重視するとか、治療と生活のバランスをざっくりとしてで良いので決めておいて頂きたいのです。

治療院で行う治療が一番で無くても良い

 治療に取り組もうとすると、治療院で行う治療を一番に考えないとダメだ、と思われている方が多いと思います。しかし、現実の問題として遠方にお住まいの方は、距離的な問題として頻繁な治療はできません。また、体力が弱く通院によって体力が弱り、症状が悪化してしまうような場合も頻繁な治療はできません。
 体の調子を良くしてゆく方法はたくさんあります。必ずしも治療院の治療が一番である必要は無いのです。

治療には適切な頻度やタイミングがある

 病気の状態や進行の速度、そして体調によって、治療の頻度やタイミングが変わってきます。脳血管障害(CVD)で体調が悪くなければ、できるだけ早く頻繁に治療した方が良い、などです。
 脳や神経に関係する病気は基本的に頻繁に治療した方が良いことが分かっていますし、CVDなどの突然起こる病気は、なるべく早い段階から治療に臨んだ方が良く、運動ニューロン病(MND)などの進行する病気は、一回の治療でたくさんの刺激は入れられないので長い間治療する必要があります。慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)などの免疫系の病気は症状が悪化する時期は現代医学を優先し、それ以外の時期に東洋医学的な治療を優先するなどです。

治療効果を最大に得るためには治療に関する事柄の優先順位を上に

 鍼灸や漢方による治療効果を十二分に得るには、やはり治療に関係する事柄の優先順位を生活の上で優先して頂く必要があります。
 治療に関する事柄とは、鍼灸や漢方治療だけでは無く、食事や運動など(後述あり)も含めたものです。
 状況によってはどうしても仕事が忙しく、休息などがしっかりとれない事もあると思いますが、疲労が激しい状況で治療しても目的の効果はうまく発揮されません。
 どうにも調整できない時は、それはそれでしょうがありませんので、今の状況でベストを尽くすしかありませんが、選択の余地があるのであれば、治療に関する事柄の優先順位を上にして治療に臨んで頂きたいです。

治療によってある程度の時間制約がかかるので優先順位を決めて取り組む

 治療に取り組むにはある程度の時間制約がかかります。治療院で治療する時の治療時間もそうですが、例えば毎日ラジオ体操をするとなっても時間が必要になります。
 一日は24時間ですので、一日の生活習慣の中で何を優先して行うのかを、ある程度決めておく事をお勧めします。

東洋医学という選択肢

病は気から

 辞書を引くと、「病気は気の持ちようで、重くもなれば軽くもなる」とあります。気の持ちようで重くなったり軽くなったりするのか、病気が重くなったり軽くなったりすると気持ちが変化するのか、どちらなのかは分かりませんが、気持ちと体調は影響しあうと言うことでしょう。
 東洋医学的には、病気はまず気の変化として現れます。気候が変化すれば体調が変化しますよね。気・候ですから気候の変化は気の変化です。人間は、意念が動くと陽気が動いて実体が動きます。東洋医学的にはこのように表現しますが、現代風に言うと、何かやろうと考える(意念が動く)と、心拍数を変化させたり体温を変化させて準備します(陽気が動く)。そして実際に行動します。何かを考えただけで行動する直前の状態まで体は変化します。気の持ちようで体は変化するんです。どうせなら良い方向に変化するように気持ちを持っていた方が良さそうですよね。

時間が解決してくれる事もある

 人生に関わる大きなことが起こった時、頭では理解できていても、心が理解できない事があります。そんな時は一つの方法として成り行きに身を任せてみるのも良いです。時間という要素を解決方法の一つとして考えてみてください。何をしても良いです。何もしなくても良いです。

人との関わりから解決してゆく

 一人で考えても解決方法はもちろんのこと、どうしたら良いかすら分からなくなる事もあります。周りにいる人の意見や助言を聞いても、今は何も響かないかもしれません。でも、家族や友人と接し、同じ時間を過ごす中で、何がしかの答えは見えてくると思います。人は人との関わり合いの中でしか道を探し出すことはできないのかもしれません。

運命的なものもある

 「尽人事以聴天命(人事尽くして天命を待つ)」と言う言葉があります。今できる事をやり尽くしたら、あとは天命を待つと言う事ですが、人の力ではどうしようもない大きな力と言いますか、運命的なものが、どうもあるようです。どうせ避けられない運命なら、その運命をぜひ上手く使ってください。ものは考えようです。筋肉痛という苦痛なくして筋力アップは無いように、この病気はあなたを成長させてくれるためのものかも知れません。

病気も自分の一部

 病気になると体のどこかが悪くなっている。その悪い部分を切り取ったり、薬で殺したりすれば病気は治る。……本当に、それだけでいいのでしょうか。今まで何十年か分かりませんが、一緒に苦楽を共にしてきた自分の一部です。何の理由も無くこんなことになるんでしょうか。正直、私にはその答えは分かりません。ただ、病気の体も健常な体もどちらも自分の体です。どんな状況であれ、良い悪いでは無く、自分の体として受け入れてあげて欲しいです。

神経筋肉疾患

脳卒中(脳梗塞・脳出血)(中風)の概要

脳血管障害は中医では中風や卒中・類中と呼ばれています。

本病は、一過性脳虚血発作・脳卒中・椎-脳底動脈供血不足・脳血管性痴呆・高血圧性脳病・脳動脈瘤・脳動静脈奇形・脳動脈炎・その他動脈疾病・脳静脈疾患・脳静脈洞及び脳静脈血栓形成などに分類されます。その中の脳卒中にはクモ膜下出血・脳出血・脳梗塞が含まれ、更に脳梗塞にはアテローム性動脈硬化症(粥状硬化症)・脳塞栓・出血性梗塞・無症候性脳梗塞・その他原因不明の脳梗塞に分類されます。

中医と現代医学の本病の発病誘因に対する認識は同じで、季候の急激な変化、過度な苦労、激しい感情の変化、不当な力の使い方などが本病の発作誘因とされています。中医学での認識は、本病は上述の誘因によって、化火動風が起こり、陽気の勢いが盛んになり、気血が逆乱することで風・火・痰・気・?が産出され、清竅を塞ぎ、神明が宣発の作用を失うと中風になるとされます。現代医学では上述の誘因によって脳血管障害に至るとされています。

その急性期の病理変化は脳組織の虚血・出血・酸欠・脳水腫・破壊・軟化と多部位における毛細血管周囲の滲出で、後期では瘢痕や嚢腔が形成されます。針刺治療は脳部の血液循環を促進し、脳組織の酸欠を改善し、脳水腫の吸収を加速させます。その結果、脳組織の再生効果を顕著に向上させます。よって、針刺は脳血管障害で最も有効な治療方法の一つです。とりわけ石学敏院士が創立した“醒脳開竅針刺法”は急性期の脳血管障害の治療で、竅閉神匿の発病理論に重点を置き、醒脳開竅針刺法の治療方法を制定しました。臨床では顕著な治療効果を収めています。

症状

中風は病位に深浅があり、病情に軽重があり、標本虚実にも前後緩急の違いがあります。よって臨床ではよく中風を中風前兆・中経絡・中臓腑および中風後遺症に分類します。

(1)中風前兆
眩暈、半身あるいは一側の手・足の麻木無力。

(2)中経絡
突然発症した顔面麻痺、言葉がうまく話せない、半身不随。

(3)中臓腑
閉証:突然倒れる、人事不省になる、口を強く閉じる、両手は固く握る、大小便が出ない、舌が巻き縮まる、併せて顔面紅潮、呼吸が粗い、痰鳴がする、口臭、発熱、ずっと動いて止まらない。

脱証:突然倒れる、人事不省になる、眼や口が開いている、呼吸はかすか、手は開き四肢は冷たい、汗がたくさん出て止まらない、大小便失禁、肢体は無力、舌が出ている。

(4)中風後遺症
顔面麻痺、失語、失明、上肢硬縮或いは軟らかく無力、手指は固く握る或いは開閉が出来ない、肩関節が痛く挙げる事ができない、下肢は硬縮或いは軟らかく無力、足内反或いは下垂、便秘、小便が出ずらい或いは漏れる。

鑑別

脳血管障害の主要な臨床症状は突然発病し、脳全体の症状から神経系統の決まった所見が見られます。たくさんの疾病で脳血管障害の基本的な症状や所見が出現します。よって脳血管障害の患者を受け入れたときにはしっかり鑑別診断を進めなければなりません。

(1)感染性脳炎・脳膜炎・脳膜脳炎
急性や亜急性に発病し、脳炎は意識障害が主で常に癲癇発作を伴います。検査では多病巣性脳損傷の所見が見られます。以上の症状や所見は脳血管障害のものと似ています。その鑑別点は本類の疾病の多くは発病時に頭痛や全身の不快感などの前駆症状を伴い、疾病過程では全身性の感染中毒症状があります。脳炎では頭痛が突出しているのが主で、脳膜刺激症状が明確に見られ、脳脊髄液や脳CTの検査が鑑別診断の重要な根拠となります。

(2)脳腫瘤
癌転移は肺部からのものが多いのですが、時には神経系統の症状と比較的早く進展する意識障害が始めの症状のことがあります。発病前には頭痛や癲癇発作などの症状が見られますが、本病は発病が緩慢で、眼底には乳頭水腫、網膜に火焔状出血などが見られ、慢性脳内圧力亢進の所見が見られます。脳CT及び肺部のX線検査にて鑑別する事ができます。

(3)脳外傷と外傷性脳内血腫
脳外傷は明確な外傷歴があり、外傷後すぐに意識障害になり、併せて局在性の神経所見が見られます。脳CT検査にて確定診断と鑑別が出来ます。

(4)脳膿腫
脳内圧力上昇の症状及び神経系統の局在的な損害症状が見られます。重度の場合は脳ヘルニア或いは脳膿腫破裂に化膿性脳室管炎の合併或いは脳膜炎の合併により意識障害が引き起こされます。但し本病の多くは青中年に見られ、中耳炎・乳突炎が最も良く見られる感染源で、発病は緩慢です。症状は全身の感染中毒症状及び血液検査から鑑別診断が可能です。

(5)中毒性疾病
毒物は主に消化器・呼吸器・皮膚粘膜を通して体内に入って、中毒性脳病を引き起こします。症状は局在性神経系統の所見が見られます。肢体の麻痺は一肢麻痺或いは軽度麻痺で、癲癇発作・錐体外路症状・小脳症状・脳神経麻痺などの症状が併せて見られることがあります。但し上述の薬物による急・慢性中毒病歴があり、麻痺症状は中毒症状の一つです。これによって鑑別診断します。

(6)急性播種性脳脊髄炎
本病の発病は急で、病変はびまん性、脳・脊髄や末梢神経を巻き込みます。症状は片麻痺や単麻痺、重度の脳損傷が見られ、重度の脳損傷では意識障害と癲癇発作が引き起こされることがあります。脳髄膜刺激症状も見られます。本病と脳血管障害の鑑別方法は、発病は児童や青少年に多く、発病前にある種の予防接種を受けたものやある種の伝染病を罹ったといったものが多く見られます。

鍼灸治療

(1)治則
中風の異なった病機から、異なった治則と配方を採用します。

中風前兆:
調神通絡(神を整えて気血の流れを良くする)

中経絡:
醒脳開竅・疏通経絡(脳を覚まし意識をはっきりさせる、経絡の流れを良くする)

中臓腑(閉証):
開竅啓閉(閉じている竅を開ける)

中臓腑(脱証):
回陽固脱・醒神開竅(陽気を戻し力をつける、神を覚まし意識をはっきりさせる)

中風後遺症:
疏通経絡・矯偏和絡(偏りを矯正し経絡を協調させる)

(2)配方:省略
(3)操作:省略

(4)治療頻度・期間
急性期(発病1週目~2週目以内):
毎日二回針刺する。10日を一療程とし、三療程は続けて治療する。

回復期(発病2週目~6ヶ月):
毎日二回針刺する。10日を一療程とし、3~9療程は続けて治療する。

後遺症期(発病6ヶ月以上):
毎日二回針刺する。10日を一療程とし、6~12ヶ月は続けて治療する。

(治療頻度や治療期間は理想的には上記ですが、一般的には、急性期では治療頻度は毎日1・2回、治療期間は最低1ヶ月。また、回復期では治療頻度は週2・3回で、治療期間は1~3ヶ月です。後遺症期では治療頻度は週1・2回で、治療期間は6~12ヶ月行ないます。また、予防や症状のコントロールを目的とした場合には、週1回もしくは2週間に1回の治療を長期間行ないます。どの時期でも、治療頻度が多いほうが治療効果は高いのですが、現実的な治療頻度を選択する事が望ましいでしょう。)

治療理論

脳血管障害は中医では中風・卒中と呼ばれます。石学敏院士は昔からの方法と現代科学技術を融合させて一体として採用し、長年の臨床と研究から中風は“上実”、即ち脳竅が塞がることで、その原因は全て肝腎の虧虚、即ち“下虚”によるものであると認識しました。脳は神の府で、神が傷つけば気を使う事が出来なくなります。加えて風邪が痰・火・気・血を挟みもろもろの根本が逆乱し、“竅閉神匿”の病理転機を引き起こます。竅閉神匿し神不導気に陥り中風が発生します。“竅閉神匿”の病機を根拠に、“醒脳開竅”大法が起こされました。

治療上では、開竅啓閉(穴を開け閉じたものを開く)し、元神の府を改善させます。---大脳の生理機能が主で、取穴では陰経経穴が主で、併せて手技操作を行います。古代の医家は“正気本虚、風阻経絡”が多く、“疏経活絡、風取三陽”が中風を治療するとされたために、針刺の施術では“補法”が主とされていました。石氏は“神竅匿閉”の病機と“啓閉開竅”の針刺法の確立に基づいて、針刺施術は“瀉法”を以って主としました。繰り返し行なわれた実験によって、針刺法の四大要素が創立され、長年の臨床と研究を通して治療効果が最も顕著であることが証明されています。

近年の大量な基礎実験研究により、醒脳開竅針刺法には以下の作用があることが証明されています。①虚血性中風患者と高粘度血症動物の血液流変の改善、局所脳組織の血流増加、②虚血性中風患者の脳動脈血流動力及び微小循環の改善、③脳虚血と再環流時に作られる遊離基(フリーラジカル)による損傷の抑制、④実験マウスによる脳組織血流の増加、脳組織超微小結合の改善、脳水腫の軽減など。

症例1

一過性脳虚血発作

主訴

頭暈・右半身運動無力の断続発作3日

病歴

患者は高血圧病歴を10年持っており、血圧変動は21.3~28.0/12.0~16.0kPa(160~210/90~120mmHg)の間で、断続的に降圧薬を服用していた。6月5日早朝頭暈を自覚し、眼の前が暗くなり、頭が重く足が軽く感じ、すぐに右上下肢の動きに力が入らなくなった。横になりたいと思い、横になって30分休息したのち、症状は消失した。午後2時にまた発作が一度あり、症状は午前と同じだった。すぐに当院救急外来に来院し、観察したところ、血圧は22.7/13.3kPa(170/100mmHg)であり、プロメタジン塩酸塩を筋肉注射し、50%葡萄糖60mlを点滴静脈注射し、病状が安定したあとで入院した。

検査

精神弱、面色無華、両目無神、右上下肢軟弱無力、動作緩慢、歩く時は介抱が必要、舌質淡、苔薄白、脈弦細。瞳孔(-)、軽度口歪、両肺(-)、心音有力、主動脈弁第二心音亢進、肝脾触れず、四肢生理反射存在、病的反射みられず、右側肢体筋力は共にⅢ級。血圧21.3/13.3kPa(160/100mmHg)

印象

(1)中医:中風前兆
(2)西医:一過性脳虚血発作

治則

醒脳開竅(脳を醒まし意識を回復させる)
疏通経絡(経絡を通じさせる)
滋補肝腎(肝腎を補う)

処方

内関、人中、三陰交、極泉、太衝、絶骨など

治療経過

上記穴を毎日二回針をする。一回目の治療後患者の眩暈は軽減し、三回目の治療後右上下肢の動きに力が入るようになり、頭暈は基本的には消失、続けて五回治療したのち、諸症状は消失、四肢の運動は正常化し、臨床的治癒となった。

日本では一日二回針治療することは難しいですが、一日一回でも十分に効果は期待できます。現代医学的な服薬治療も当然必要ですが、針治療を併せて行うことで、回復を促したり、再発を抑制したりする効果が期待されます。

症例2

脳梗塞

主訴

左半身不随に伴い言語に流暢さを欠く、13日

病歴

患者は9月12日夜間に風と寒さにあたり、翌日早朝に左半身不随が出現した。精神ははっきりしていて、四肢は麻痺し、話は遅く、歩くことができなかった。すぐに某医院観察室へ送られ検査した。腰椎穿刺報告:脳脊髄液は無色透明、糖五管(+)(訳注:中国には糖五管という試験があるようなのだが詳細は不明。脳障害の有無を調べるもののよう)、よって「脳障害」と診断。抗血栓・抗感染の治療を行い、12日後には病状が安定。その時点での状態は、精神ははっきりしている、口が歪んでいる、患側四肢は自分で動かすことができない、言語は流暢さを欠く、頭痛・眩暈は無い、大小便は制御できる。高血圧の病歴は否定。9月23日に当科で治療のため入院した。

検査

血圧32.0/16.0kPa(240/120mmHg)、脈拍60回/分、神清体痩、左側中枢性顔面神経麻痺、言語欠流暢、両側頚動脈拍動対称。心音低鈍、A2>P2、心拍調律正常、左肺呼吸音粗い。腹軟、腸鳴音低。左上・下肢弛緩性麻痺、生理反射は全て(+)、左バビンスキー徴候(+)。舌質紅、苔黄膩而乾、脈弦細。

印象

(1)中医:中風(中経絡)
(2)西医:脳梗塞、高血圧

治則

醒脳開竅(脳を醒まし意識を回復させる)
滋補肝腎(肝腎を補う)
疏通経絡(経絡を通じさせる)

処方

内関、人中、三陰交、極泉、尺沢、委中、風池、上星透百会など

治療経過

1週間の治療後、左下肢伸展挙上高は40°、左上肢は肘の屈曲可能、挙上して胸を平らにできる、言語ははっきりしている。2週間後、介助しながら歩いたり走ったりでき、続けて一人で歩いたり走ったりできるようになる、左上肢は頭の上まで挙上できる、左手握力は少しの違いがある。4週間後、左右四肢の機能は正常、言語ははっきり。完全治癒したため退院した。

ここでは鍼灸治療以外の治療についてあまり触れていませんが、当然現代医学的に検査をして必要な治療はやっています。誤解して欲しくないのは、鍼灸治療が良いのは言うまでもありませんが、鍼灸治療だけで良いと言う話では無く、医学の東西を問わず、使える治療は使うということです。
この症例はほぼ完全に治癒した例ですが、こういうケースは珍しい訳ではなく、比較的よく見かけます。ちなみに、この患者さんは67歳です。

東洋医学という選択肢

死んでいる人に薬を与えても鍼をしても治らない

 至極当たり前の話ですが、生きている人と死んでいる人の差は何でしょうか。それは「回復力」です。死んでいる人には回復力はありません。治療を施して回復してゆくのは、その人に「回復力」があるからです。

どんなに腕のいい先生が治療しても回復力が無ければどうにもならない

 つまり、どんなに腕のいい先生が治療しても、どんなに素晴らしい薬を使っても、その人の回復力が弱ければ全然良くならないと言う事です。治療をする上で一番大事なことは、患者さん自身の回復力がある事、つまり体調をしっかり管理することです。

治療は患者さんとの二人三脚でやるもの

 治療者を信用し先生に治療を一任する。一見聞こえは良いですが半分だけ賛成です。治療をしてくれる先生を信用することはとても大事です。しかし、おんぶにだっこ状態になるのはどうかと思います。治療は患者さんと二人三脚でやるものです。私自身は今持っている力を最大限活用して治療に当たりますので、患者さん自身もしっかりと自分の体調管理をしてもらいたいと思っています。

体も心も調子を良くすることが大事

 現代医学では体と心を分けて治療に臨んでいます。これは現代医学がそのように考えた方が治療し易いというだけですが、実際、分けて考えた方が取り組み易い場合も多いかと思います。別々に取り組んでいっても体の調子が良くなれば気分も良くなるし、気持ちが落ち着いていれば体も楽になるものです。一緒に考えても良いし、別々に取り組んでも良いですが、どちらにせよ、体の状態も心の状態も含めた体調をコントロールして、調子を良い状態にしようとすることが、治療に取り組んでゆく上で本当に、とても大事です。

東洋医学という選択肢

現代医学の診断は静止状態

 現代医学でのいろいろな検査は非常に重要です。現代医学的な検査は、血液のあるタイミングの状態を見たり、身体のあるタイミングの状態を画像で見たりします。様々な検査を通して情報を集めて体の状態を考えてゆきます。
 普通はこれで診断までたどり着きますが、そうならない場合もごく稀にあります。

動的な判断も必要

 MNDのように時間経過が診断に必要な場合、現代医学的な検査のみでは判断が難しくなります。現代医学の強みは、今このタイミングの状態を客観的にデータとして診ることができることです。反面、時間的前後関係を考えて主観的に診ることは苦手です。その部分は、東洋医学の方が一枚上手かも知れません。

東洋医学という選択肢

難しい病気は現代医学的にも東洋医学的にも難しい

現代医学的に治療が難しい病気と言う事が分かり、東洋医学の門を叩く方の中には、何かマジック的なと言いますか、奇跡的なと言いますか、その様な効果を期待されている方がいらっしゃいます。確かに、腰を触らないのに腰痛が治ったりすることはあります。しかし、それも先人達が経験や理論をまとめたものを私達が東洋医学として学んだものでマジックでも無ければ奇跡でもありません。ただ現代の私達にはちょっと理解しづらいと言うだけです。
東洋医学にも現代医学と同様に、医学としてのしっかりとした理論や経験があります。この先人たちの経験を持ってしても難しい病気は、やはり東洋医学でも難しい病気です。

病名が分かる事が目的では無い

病名がはっきりしないから現代医学的な検査をいろいろな所で受ける方がいらっしゃいます。必要な検査であればやるべきですが、病名を知りたいからたくさんの検査をしていませんか。
現代医学的にも東洋医学的にも診断結果を出すことは治療につながるので必要な事です。治療につながるから検査や診断が必要なのであって、病名を知りたいから検査をする訳ではありません。病名が分からなくても治療方法があるならそれでいいのです。

難しい病気でも東洋医学的な診断や治療が無い訳では無い

東洋医学には病気に対して治療をする「弁病施治(べんびょうせち)」と、体の状態に対して治療をする「弁証論治(べんしょうろんち)」と言うものがあります。病気がはっきりしなくても、体質や体調を見計らって治療をすることができますので、難しい病気や病名の付かない病気であっても治療に取り組むことができます。
しかし、現代医学の病名が要らないと言う意味ではありません。情報は多い方が治療に有利に働きます。現代医学も東洋医学も使えるものは全て使って治療に臨みます。

MNDとCVDとCIDP

運動ニューロン病(以下MND)や筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)は非常に特殊な病気です。運動機能が低下する様々な病気が概ね否定された時にMNDやALSの疑いありと診断を受けます。実際は、いろいろな検査結果から考えますが、ざっくり言うとこんな感じなのです。
では運動機能が低下する他の病気にはどのようなものがあるでしょうか。まず脳血管障害(以下CVD)です。脳梗塞や脳出血などの脳の血管に起因する病気のことです。そして慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(以下CIDP)や多巣性運動ニューロパチー(以下MMN)などの自己免疫性に起こるものがあります。自己免疫性に起こる疾患は、簡単に言えば花粉症や関節リウマチの化け物のようなものです。
大きく分けると、この3分類になりますが、それぞれの症状の現れ方が違います。CVDは急激に発症して症状が急激に現れます。一定期間ののち症状は軽減してゆくのが一般的です。CIDPなどは周期的に症状の悪化と軽減を繰り返します。MNDは徐々に悪化してゆきます。いろいろな検査や今挙げた症状の変化によって現代医学的には診断してゆきますが、判断の難しい場合も多くあります。
もし、CVDやCIDPなどが検査結果から考えづらかった場合、比較的早い段階でMNDやALSの疑いありと診断を受けることがあります。インターネットでALSを調べると大変なことがたくさん書いてあります。しかし現実は、はっきりとMNDやALSとは思えない場合もありますし、もしMNDだったとしても人によって進行の速度や症状にすごく違いがあります。とにかく判断が難しい病気だと言う事を覚えておいて下さい。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)(臨床報告)

病例

全10例。男7例、女3例。年齢は最年少者20歳、最年長者49歳、平均36.8歳。病気の過程は最短で6ヶ月、最長で18ヶ月、大部分は1年以上。

1.本群病例の診断基準は、①上肢の筋肉に萎縮性麻痺が見られる、②萎縮した筋肉の初期には筋線維束攣縮が見られ、腱反射が強い、或いは亢進している、③下肢は痙攣性麻痺が見られる、④感覚障害は見られない、⑤徐々に延髄麻痺が発生する。

2.本病の治療に対して、既存の多くは“特殊な治療は無い”と認識しており、診断されると“予後不良”とされてきた。中医理論から考えると、本病は“痿証”に属し、陽明湿熱内蘊、肺受爍熱、気液槁枯に至ります。経験的に針灸治療後、比較的良い効果を収めています。

治療方法

1.取穴:大椎・肩グウ・曲池・手三里・合谷・魚際・太淵・足三里・伏兎・風市・環跳・陽陵泉・絶骨。

2.操作:省略

3.補助治療:ビタミンB1・ニコチン酸を内服してもよく、萎縮筋肉の回復を促します。患者自身の精神素因や機能訓練は共に重要ですので、治療中は患者の主観的能動性を充分に調節する必要があります。

治療効果

10例中、本法治療後、2例の治療中断を除いた8例の患者では、5例は臨床的治癒、2例は改善(本文中には「進歩」とあり改善か悪化か判断できない)、1例は変化なしであった。

原文
天津市精神病防治院 魏炯明
《天津医薬》,1975,5:259

30年ほど前の臨床報告集に出てくる筋萎縮性側索硬化症(ALS)の臨床治療報告です。

 この報告だけでは、ALSに対して鍼灸治療が有効であると言う裏付けにはなりません。しかし、多くの中医針灸臨床家が実感としても、ALSを代表とする運動ニューロン疾患に対して、一定の治療効果や病気の進行を抑制する効果があると実感していると言う報告にはなるでしょう。私自身も、臨床を通して同じように、一定の治療効果があると感じています。

 今後もこのような報告があれば折を見て紹介してゆきたいと思います。

東洋医学という選択肢

厄介な病気は大変

 病気は全て厄介なものですが、病気によっては難病と呼ばれるものや、診断が付かない病気があります。このようなちょっと厄介な病気は、何が厄介なのでしょうか。答えは有効な治療方法がはっきりしていないためです。
 しかし、有効な治療方法がはっきりしていないだけで、治療方法が無い訳ではありません。そのため、たくさんの情報を集めなければならなくなってしまいます。
 現代はインターネットを使って簡単に情報を集めることができるとはいえ、たくさんのホームページやブログなどを見て回る必要があります。そして、インターネットの情報はどこまでが正しい情報なのかが曖昧なので正しい判断するための術(すべ)を学ぶ必要があります。
 病気について調べるだけでもこれだけ大変です。さらに、治療方法や生活習慣をどうしたらよいのかまで調べようと思ったら本当に大変です。

情報の共有ができたらと思う

 一人で調べようと思うと、とても大変な作業ですが、何人かで調べればその負担は軽くなります。また、いろいろな人が調べることで、それらの情報の信憑性も上がるでしょう。
 今まで当院には、難しい病気の方々がたくさんいらっしゃいました。そして、たくさんの患者さんと共に、いろいろと調べてきたことや経験してきたことが蓄積できています。人によって必要な情報や不必要な情報があるものの、多くの患者さんに有効な情報が多く集まっていると思います。
 ここでは難しい病気になってしまった時、共有できたら良いと思う情報や生活習慣や治療など、知っておいて欲しい事について紹介してゆきたいと思います。

神経筋肉疾患

坐骨神経痛(腰腿痛)の概要

坐骨神経痛は、根性坐骨神経痛と幹性坐骨神経痛の二種に分けられます。本節では根性坐骨神経痛の針灸配方について紹介してゆきます。

坐骨神経痛は、中医学では“腰腿痛”呼ばれ、その病因病機に対して中医学では、風寒湿邪が経脈を阻滞させて気血の運行が悪くなる事で起こると考えられています。現代医学では、坐骨神経神経根部に隣接する組織の病変により神経根に何らかの障害を生み、引き起こされるとされています。腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管内腫瘍や腰椎椎間関節炎などの病変による神経根の圧迫・虚血・酸欠・水腫などが主な病態です。

針刺治療により局部の血行促進、局部の酸素供給改善、神経根水腫の吸収増進などの効果が顕著です。よって針刺は根性坐骨神経痛治療の有効な方法の一つです。とりわけ急性期での治療に優れます。根性坐骨神経痛の治療過程では、経気閉阻が病気に至る理論での重要点です。針刺に刺絡抜罐を配合することで、臨床では比較的理想的な効果を納めることが出来ます。

症状

多くは急性或いは亜急性に発病します。初期ではよく腰部のだるさがあり、疼痛は腰部から一側の臀部及び大腿後部、膝窩、下腿外側と足部に放散し、灼熱様或いは切られた様な痛みを呈し、夜間に酷くなります。咳嗽、クシャミ、排便時のいきみで痛みは増悪します。患者は常に特殊な痛みが軽減する姿勢を取ります。日が経つと脊柱の側弯が作られ、多くは患側に曲がります。一般的な病変では腰椎棘突起或いは横突起の圧痛が見られ、ブルジンスキー徴候(+)、ラセーグ徴候(+)。

鑑別

根性坐骨神経痛は坐骨神経痛の一種類で、多くの疾病が坐骨神経痛という特有の症状を持ちます。それゆえ、厳密な鑑別診断を進める必要があります。

(1)仙腸関節炎或いは股関節炎:
多くは亜急性或いは慢性に発病し、疼痛部位の主要は坐骨神経の走行に沿っており、腰部の不快感は不明確です。仙腸関節部や大転子部や膝窩に明確な圧痛が見られ、感覚障害は明確で、アキレス腱反射はよく減弱或いは消失します。筋肉は弛緩や、軽度な筋萎縮などが見られます。

(2)妊娠時の子宮圧迫:
多くは妊娠後期に子宮が坐骨神経を圧迫する事で発病します。特徴は子宮の増大に伴って痛みが逐次明確になることです。鑑別にはその病歴を根拠とします。

(3)糖尿病:
糖尿病によって引き起こされた神経病変による症状は、本病と類似しています。早期では感覚障害が主体です。もし厳格に糖尿病が平均で7ヶ月以上制御されれば、多くの病情は回復方向になります。その鑑別の中心は糖尿病病歴がまず先で、末梢神経障害は後に考えます。

鍼灸治療

(1)治則:
活血止痛・疏通経絡(血行を良くし痛みを止る・気血の流れを良くする)

2)配方:省略
(3)操作:省略

(4)治療頻度・期間:
急性期(発病から10日以内):
刺絡は毎日1回、その他は毎日2回、15日以内は治療に間を空けてはいけません。15日後に病情を見て刺絡を隔日1回、その他の針法を毎日1回に変えることが出来ます。急性期の療程は1ヶ月です。

安定期(発病から10~45日):
刺絡は隔日1回、その他の針法は毎日1回、療程は1~3ヶ月です。

後遺症期(発病から45日以上):
刺絡は隔日1回を連続15回、その他の針法は毎日1回、療程は長くなり、予後は見積れません。

(治療頻度や治療期間は理想的には上記ですが、一般的には、急性期では治療頻度は毎日もしくは隔日、治療期間は症状が改善するまで行ないます。また、安定期や後遺症期では治療頻度は週2・3回で、治療期間は症状が改善するまで行ないます。また、予防や症状のコントロールを目的とした場合には、週1回もしくは2週間に1回の治療を長期間行ないます。)

治療理論

腰腿痛または坐骨神経痛とも呼ばれ、中医学では“坐臀風”、“痺証”の範疇で、臨床ではよく見られる疾病の一つです。坐骨神経痛は、針灸の最も適している疾患の一つです。多くの研究や臨床から針刺治療によって局所の血液循環が改善され、圧迫されている神経根部の虚血・酸欠・水腫状態が改善され疾病軽減の目的を達成します。また、視床と視床内側非特異投射系統を調整し、エンドルフィンを活性化させ、大脳皮質の体性感覚野の疼痛反応を抑制することで、鎮痛効果が出現します。

坐骨神経痛は膀胱と胆経の発病に属します。太陽と少陽経脈が阻害される事がこの病気の要点となります。治療の中心は、疏導経気で循経取穴を根拠とします。針刺後に灸療や電針を加える事で温通と疏通の力を増加させることが出来るため、治療効果も増加します。

症例1

坐骨神経痛

主訴

左側の腰と足の痛み 4ヶ月、最近1週間で増悪した。

病歴

患者は今年6月に外で長時間、風と寒さにあたってから左側の腰から膝までが、引っ張られるように痛むようになった。職場の保健室の医師からインドメタシンなどの消炎鎮痛薬をもらい服用したが、症状は緩解しなかった。仕事は続けたが長時間座ることは出来なかった。
8月24日に左側の太ももの後とふくらはぎの外側に針を刺したような激痛が現れたため、すぐに針灸治療に来院した。1ヶ月間の治療によって、その後は症状はほとんど無くなった。
9月末に別の医院に行き、腰椎X線を撮り、血沈値を検査したが共に正常で、そこで処方された天麻丸(漢方薬の一種)を服用したが、漢方薬も按摩治療も共に有効ではなかった。4ヶ月弱、左腰痛と左下肢痛は軽減せず、天気変化や過労にて増悪する。
 11月初め、患者は再来院したが、入院することになった。

検査

精神不安定、顔面の血色が良くない、両目ははっきりしている、歩行時に痛みが無い方に体重を保持している、腰が痛く寝返りが出来ない、左腰・臀・膝窩・踝の全てに圧痛がある、筋萎縮は無い。

印象

(1)中医:痺証(痛痺)
(2)西医:坐骨神経痛

治則

疏通経絡(経絡を通じさせる)
散寒止痛(冷えを発散させ痛みを止める)

処方

大腸兪、環跳、委中、陽陵泉、崑崙(針の後に灸を加える)、秩辺

治療経過

毎日二回の治療を実施。一週間後、左側の腰・臀・下肢の疼痛は明確に軽減。二週間後、歩行の際に左側の腰と下肢に少し疼痛を感じるが休息すると疼痛は無くなる。三週間後、腰下肢痛は完全に消失、大腿挙上検査で85度上げる事が出来るようになる。完治のため退院。

日本で入院して鍼灸治療を受ける事はほとんど出来ません。この患者さんはかなり症状が酷かったために入院処置となったようですが、普通は困難ではあっても歩行できる事がほとんどで、また、この症例のように重度に悪化することは多くはありません。一般的には症状が軽くなり安定するまでは頻繁に治療することが必要です。

脳神経疾患の臨床と研究

概要

運動ニューロン病は神経内科の難病の一種で、それには脊髄性進行性筋萎縮症、筋萎縮性側索硬化症、進行性延髄麻痺、原発性側索硬化などの病症があります。

臨床症状は障害された運動ニューロンの支配領域の筋肉萎縮と無力で、運動機能障害です。舌筋肉の萎縮と言語困難と嚥下困難がみられ、唾液が多くなり制御しずらくなります。後期には呼吸筋麻痺と栄養障害を起こし衰弱死に至ります。

目下現代医学では本病の病因に対する研究でははっきりせず、確実な治療手段と薬物が見つかっていません。筆者は臨床にて針灸と薬物を共に用いた総合療法治療を本病に対して採用し、臨床症状の改善と生命の質の向上に一定の効果を収めています。

(注)日本では医療事情が少し違うことから内容に一部違いがあります。

基本方法

1.針刺 上肢では肩井・天宗・肩ぐう・曲池・外関・合谷・中渚を取ります。下肢では環跳・髀関・風市・伏兎・委中・陽陵泉・足三里・承山・崑崙・解谿・足臨泣を取ります。球麻痺では風池・翳風・あ門・廉泉・金津・玉液を加えます。痰やよだれが多い場合は中かん・豊隆・陰陵泉・三陰交・内関を加えます。毎日1回、10回を1療程とし、2日間隔を開けて次の一療程を行ないます。(一部省略)

2.艾灸 瘢痕灸を主とします。肺兪・膏肓・命門・関元・気海・足三里を取り、毎回2~3穴選択します。直径約1.5cmの大艾柱を選択した経穴の上で5~7壮、直接灸します。火傷様の水疱が形成され、局部にはガーゼを貼っておき、一週間後には瘢痕が形成されます。毎月2~3回治療します。

3.穴位注射 阿是穴(筋肉萎縮が明確な所)に、ビタミンB1(10mg/2ml)、ビタミンB12(0.5mg/2ml)を各穴に1ml注射します。或いは当帰注射液(2ml/本)、黄耆注射液(10ml/本)を各穴に1ml注射します。隔日に1回行い、二種類の薬物注射を毎週交替して用います。

.中薬 滌痰開竅には導痰湯或いは滌痰湯加減を用います。健脾和胃には香砂六君子湯加減を用います。填精補髓には地黄飲子加減を用います。温陽補腎には腎気丸加減を用います。益気養血には補陽還五湯加減を用います。

5.静脈注射 まず黄耆注射液(10ml/本)60ml/日を用いるか、生脈或いは参脈注射液(10ml/本)20~30ml/日、或いは参附注射液(10ml/本)10~20ml/日を用い、併せて復方丹参注射液(10ml/本)20~30mlなどを用い益気固本活血します。毎日1回行ないます。

 以上の総合応用治療の方法を用い、1ヶ月を1療程とします。病状に依りますが一般的な治療では1~3療程行ないます。

臨床理解

1.病気の過程が短いほど、効果が見えるのが早く、長いほど治療効果に違いが出ます。

2.病変が単一の肢体或いは経絡を損傷しているだけの場合は、1~2療程の治療で治療効果が現れ、治療を続けることで治癒も可能で、異常な筋電図も正常に回復してゆきます。

3.病変が臓腑に及んでしまっている場合は2~3療程の治療後に病状が緩やかになるか症状の部分的な改善が見られ生活の質の向上になります。

討論

1.病因病機を明確にし、弁病と弁証を結合する
 病院で治療をした病例中の発病年齢は中年以後で、男性の多くは40~60歳の間で、女性は閉経後でした。≪素問・上古天真論≫には、“女子七七任脈虚、太衝脈衰少、天癸竭……男子五八腎気衰、発堕歯槁、七八肝気衰、筋不能動、天癸竭、精少、腎臓衰、形体皆極。”すなわち、腎の精気虧損がこの病の本質です。
 現代医学での認識は、本病の主要な損傷は脳と脊髄、すなわち延髄および上下運動ニューロンにあるとされます。中医学での認識は、腎は骨を主り髓を生み、脳は髓の海で、腎精虧損は必ず脳髄空虚に至ります。精気虧損により気血の化生が起こらず筋肉萎縮や肢体の軟弱無力が気血不足の虚現象として現れます。同時に筋肉の顫動が見られ、肢体の活動に融通が利かなくなります。また併せてもしくは或いは、嚥下・言語困難がみられ、痰や唾液多く臭うなどの症状も見られます。証分析をすると陰血虧虚、内風擾動、筋骨失養、痰熱内盛、経絡阻滞の実証です。これから、本病の病位は腎・脾・肝および三臓に関係する経絡におよび、まさに≪素問・痿証≫に書かれている“肝主身之筋膜、脾主身之肌肉、腎主身之骨髓”を表しています。三臓が損傷し或いは邪気が侵襲することで、“筋痿”、“肉痿”、“骨痿”が生じます。本病の病機を追求してゆくと腎精虧損、気血不足、痰瘀阻絡があり、併せて“三痿”が見られます。

2.分期論治をし、針灸と薬物を結合して用いる
 運動ニューロン病の予後は悪く、進行の早い場合で1~3年で死亡、緩慢な場合で5~10年で衰弱して死亡します。臨床上では病状の程度によって5段階に分けられ、病状の重篤さと級数は正の相関があり、患者は出来る限り早期に正しい診断を受け中医総合治療を受けることが極めて重要です。
患者は治療を受けた後、上下肢筋肉の萎縮と無力感・嚥下困難・痰唾液が多いなどの症状の改善が明確で、針灸の作用に直接関係が見られます。肩井・天宗・肩ぐう・曲池・外関・合谷・中渚・環跳・髀関・風市・伏兎・委中・陽陵泉・足三里・承山・崑崙・解谿・足臨泣など手足の三陽経経穴を主とし、夾脊穴を補助として疏通経絡、調理気血、滋養肌肉を行ないます。風池・翳風・あ門・廉泉・金津・玉液・中カン・豊隆・陰陵泉・三陰交・内関・督脈穴或いは夾脊穴・任脈の気海・関元・五臓背兪穴など足の三陰経を主とし、五臓の背兪穴と任督脈の経穴をもって補助することで、鼓動五臓元気・激発経気・填精補髓壮骨・去除病邪します。
早期の段階では単一、単一の肢体・単側の肢体のみで、或いは嚥下・言語困難だけの場合は、経絡病変を主とし、臓腑の気はまだ大きく衰弱は見られません。治療原則は調理脾胃、疏通経絡、滌痰化瘀去邪を主とし、針刺と中薬煎服と穴位注射をあわせ総合治療を採用することで、症状は軽減と改善が見られ、病状は好転と安定に向かいます。中期の病状は重くなり、損傷範囲は拡大し、後期では呼吸麻痺を合併します。これらは臓腑病変を主とし、病勢は浅い所から深くなり、臓腑の気は衰弱し、病状は比較的複雑になります。治療原則は填精補髓、培補肝腎、化痰熄風、開竅補虚を主とし、針刺・艾灸・穴位注射・中薬煎服と中薬静脈注射の総合治療を採用することで、病状を安定させ、或いは病状の進行を緩やかにし、延命することができます。

原文
針灸配合中薬治療運動神経元疾病 王竹行

この論文は、『当代針灸臨床治験精粋』(王玲玲、王啓才主編、2007)という本の中に出てきます。鍼灸と漢方薬と現代医学を組み合わせて治療にあたっているようです。

日本では、保険制度の問題でこのような治療をすることは難しいのかもしれませんが、治療方法の一つとして有意義な論文であると思います。しかし、運動ニューロン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの治療には、やはり鍼灸治療が第一選択であると、私自身は臨床を通じて感じています。特に発症から時間が経っていない場合には、本文にもある通り治療効果が早く発現するので、治療に取り組みやすくもなると思います。