まっちゃん先生のコラム

脳梗塞後遺症による片麻痺

1.概要
 脳梗塞などの脳の血管にトラブルが起きて発症する病気を総称して「脳血管障害(CVD)」と言いますが、この脳血管障害の後遺症で最もよく見られるものが「片麻痺(かたまひ)」です。一般的には「半身不随(はんしんふずい)」と呼ばれることもあります。

 脳のどの部位に障害が起こっているかによって出てくる症状は様々で、力が入らないもの、力が抜けないものなど、腕の動きが特に悪いもの、足の動きが特に悪いものなど、動きに関するものだけを取り上げても千差万別です。

 通常は運動障害以外にも感覚障害も起こりますが、ここでは運動障害について述べてゆきます。

2.東洋医学では、どのように考えるか
 東洋医学では、身体が正常に、思った通りに動くためには全身の気血の流れが滞りなく流れている必要があると考えています。片麻痺では、脳梗塞によって気血の流れに滞りが起こり、手足の動きが悪くなっていると考えます。

鍼灸治療によって、気血の流れが悪くなっている手足などの部位に対して鍼灸治療を施すことで、気血の流れを改善させ、動きが悪い部位が動きやすくなるように治療を進めてゆきます。これを「疏通経絡(そつうけいらく)」と言い、治療の主体になる治療方針になります。

 また、全身の動きや機能は「神」の作用によって正常に働いているとも考えられていて、この「神」にも不具合が起こっていると考えます。「神」は主に「心」がコントロールしていると考えられていますが、脳梗塞の場合は「肝」「腎」に不具合が起きていることが多く、鍼灸治療では「滋補肝腎(じほかんじん)」を治療の主体にして治療を施してゆきます。

 また、脳梗塞などの発症から、あまり時間が経っていない場合は、「脳」に対しても治療を行って行きます。東洋医学でも脳は「脳」と表現されますが、「脳」に対しては「醒脳開竅(せいのうかいきょう)」という治療方針で鍼灸治療を施してゆきます。

片麻痺:上肢の鍼灸治療
片麻痺:上肢の鍼灸治療

片麻痺:下肢の鍼灸治療
片麻痺:下肢の鍼灸治療

3.どのように鍼灸治療を施すのか
 「疏通経絡(そつうけいらく)」は、動きづらくなっている手足を中心に鍼灸治療を施してゆきます。東洋医学では、身体のバランスを取ることに主体を置きますので、脳梗塞などの後遺症によって力が入らなくなっている経絡(ここでは筋肉と読み変えて頂ければ分かりやすいと思います)に対して治療を施すことで、力が入り過ぎてしまっている経絡も緩み、結果として動きやすくなるようにしてゆきます。

 「滋補肝腎(じほかんじん)」は、弱ってしまっている「肝」「腎」に対して治療を施してゆきます。実際は、どちらの方が弱っているか、また他に弱っている臓腑が無いかを判断して鍼灸治療を行って行きます。  「醒脳開竅(せいのうかいきょう)」は、分かりやすく言えば、脳に対して気血の流れを改善することで、脳の機能回復を促進させるために鍼灸治療を行います。

 この三方針の中で、後遺症で起こる片麻痺では、「疏通経絡(そつうけいらく)」が重要になりますが、鍼灸治療では刺激量が難しいところで、治療によって加える刺激量は知識や経験を必要とするところです。  治療の頻度は、脳の病気はどのタイプのものであっても、頻繁に鍼灸治療を行った方が良い事が知られており、週に2~3回で3ヶ月以上の治療が標準になります。しかし、現実的に通院が難しい場合が少なくないことから、週1回の治療で行っている場合が多いです。


 脳梗塞などの脳血管障害における後遺症に対する鍼灸治療の効果は、非常に素晴らしいものがあります。ここでは、片麻痺の運動障害について書かせて頂きましたが、どのような後遺症であっても、良好な治療効果が得られることが多く、また、発症から時間があまり経過していない急性期であれば、後遺症の程度を軽減することが研究により報告されています。

 日本では、片麻痺などの脳血管障害の後遺症に対して鍼灸治療が有効であることは、あまり知られていませんが、有効な治療方法の一つとして活用して頂ければ幸いです。


東洋医学用語説明
1.神:簡単に言えば精神や意識のことを指す。東洋医学では「神」に対する解釈は非常に広範囲で様々な解釈を持つが、ここでは詳細は割愛する。
まっちゃん先生のコラム
コラムカテゴリー